WBSS(ワールドボクシング・スーパーシリーズ)バンタム級決勝(11月7日・さいたまスーパーアリーナ)に臨む、WBA・IBF同級チャンピオンの井上尚弥(大橋)が28日、横浜の大橋ジムで練習を公開した。対戦するWBAスーパーチャンピオンのノニト・ドネア(フィリピン)はかつて、井上自身が強くなるための『教材』にしたというほどのレジェンドだが、「普段どおりに戦うだけ。いつものようにKOは意識しないが、倒します、勝ちます」とゆるぎない自信をのぞかせた。
写真上=太田トレーナーのミットめがけて、切れのいいパンチを繰り出す
試合当日まで、マスコミに公開される最後のジムワークは、シャドーボクシングとミット打ちが1ラウンドずつ。いずれも軽めだった。「コンディション(作り)はとてもうまくいっています。あとは疲れを抜いて、リラックスして過ごしたい」。試合まで残すところ11日とはそういう時期である。余分な力を使いたくないし、手の内をあえて公開する必要もない。ただ、軽めなら軽めなりに、俊敏な身のこなし、パンチの切れ味に好調ぶりを垣間見せた。
だからこそだろう。井上自身はもちろん、実父でもある真吾トレーナー、大橋秀行会長とも、「ドネアのすべてを飲み込んだ」とばかりに自信満々だ。井上は記者会見の冒頭から「世代交代です」と言い切った。
「この試合の注目度も理解しています。だからこそ、リラックスし、“試合後”のことも意識しながら戦いたい」
言うまでもなく、ドネアは軽量級ボクシング史にその名を刻む。そんなレジェンドとの戦いも、さらに偉大なるモハメド・アリを冠にした世界規模の巨大トーナメントの決勝戦でも、井上にとっては到達地点ではない。すでに全階級をとおしての最強を予測する『パウンドフォーパウンド』ランキングでも上位にランクされる。海外でも大きな注目を集める存在だ。
このドネアとの戦いこそが、すべてのスタートだと井上は考えているのだろう。この試合が終われば、海外リングへの本格進出も予定されている。
「いいい勝ち方をしたい」
むろん、ドネアを見下しているはずはない。
「自分の倍以上のキャリアがあります。それだけ強い選手とも戦ってきています。キャリアは侮れません。作戦そのものもざっくりとですが考えています。でも、当日のリングに上がってからです」
記者から「そのキャリアが生み出す奇抜な作戦がドネアにはあるのでは?」と問われると、きりりとした口調で切り返す。
「それを含めてです。何があってもいいように準備しています」
浮ついた自信からではない。自分の肉体に湧き上がる新たな力を感じるからこそ、強気な発言にもなる。
「WBSSに入って準々決勝、準決勝とこれまで最高のパフォーマンスで勝つことができました」
続く言葉はなかったが、「11・7はもっとすごい井上尚弥を見せる」という決意が見え隠れしていた。
文◎宮崎正博
写真◎山口裕朗
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