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2019-10-10

【ボクシング】“オンリーワン”に向け、自信みなぎる井上拓真。 難敵ウバーリとの王座統一戦まで、あと25日──

兄・井上尚弥とともに11月7日(木)、さいたまスーパーアリーナのリングに立つWBC世界バンタム級暫定チャンピオン井上拓真(23歳=大橋)も9日、練習を公開。正規王者ノルディーヌ・ウバーリ(33歳=フランス)とのWBCバンタム級王座統一戦へ向け、「早く試合がしたい」と、自信を深めている。

真吾トレーナーからアドバイスを受ける。「自分で思うことと、お父さんが言っていることは一致しています」

 髪の毛にシルバー色を入れた兄・尚弥に対し、拓真は「たんに伸びていたから」と、いつも以上に短く仕上げてきた。お店も別、申し合わせたわけでもなく「偶然」、兄弟そろって髪の毛をいじったのだという。試合までひと月を切った時点でのテンションが、兄弟そろって合わさっているということなのだろう。

 順調ぶりが、言葉や表情にも表れる。髪の毛に始まり、食事、可愛がっているヒョウモントカゲモドキの話など日常のこと。そして、なによりも自らのパフォーマンスについても。

トレーニング中の集中力の高さは、以前に比べると格段に上がった

「スパーリングも順調に来ています。サウスポー対策の手ごたえ。自分の動き的にも。両方に自信がある。すごい自信があります」

 性格的に、物事を強くはっきりと言わない傾向のあった拓真だが、あまりにもストレートに発言するのだ。そして、「早く試合がしたい」と笑顔まで浮かべて語った。

 対するウバーリはサウスポー。当初は、ウバーリうんぬん以前に、サウスポーとの足取りや前の手のやり取りにナーバスになっていた。
 だが、昨年末に暫定王者となって、正規王者ウバーリとの統一戦を義務づけられていたため、およそ1年にわたって、じっくりと着実に“慣れ”を磨いてきた。試合が正式決定した8月下旬でさえも、「いまのままでは勝てない」と言っていたが、ここにきて、自信の言葉を明かせるレベルに至ったのだ。

兄弟そろってのシャドー。相手を常に想定した動き。それこそが井上兄弟を強くする基本だ

 尚弥同様、この日はシャドーボクシング、ミット打ち、サンドバッグ打ちと、スパーリングはなし。けれども、太田光亮トレーナー相手のミット打ちで、“仮想ウバーリ”に対する反応の鋭さが目についた。拓真がポイントと話す“前の手の駆け引き”、ジャブを差し込むタイミング、さらにウバーリが入ってきたところへ合わせるカウンター。サウスポー対策に四苦八苦していた姿はすでになく、その次の段階、“ウバーリ対策”も十分な状態に入っていることを印象づけた。

「サウスポーに対してのディフェンスもスムーズにできるようになりました。頭の位置を常に変える。元々、ディフェンスは自然に身に着いてるので、考えて動いているわけじゃないですが」

ストレッチ中、真吾トレーナーが何気ないひと言をかける。こんな瞬間に、親子のやり取りが垣間見える

 尚弥と同じく、父・真吾トレーナーに「まずはディフェンスありき」のボクシングを徹底的に染み込まされた。その感覚を、より研ぎ澄ます。反応を磨く。それは相手が誰であろうが変わらない。井上兄弟の“ベース”だ。

 ウバーリの攻撃は、リラックスした状態から小気味よく放ってくる連打が特徴的。拓真も「相手は回転力があるので、そこを注意したい」と警戒する。

 その連打を始まらせない“駆け引き”、抑止する“一撃”が、最初の見どころとなる。

「『顔が怖い』ってよく言われるんですが……」という拓真だが、笑顔には茶目っ気があふれてる

 数日前に完成した試合ポスター。拓真の写真は2年前に撮られたものだという。
「(従兄の)浩樹から、『幼くね?』って連絡がありました(笑)」といい、いまの自分を「渋くなった(笑)」と表した。

 ボクサーとして、人として、2年前からは確実に厚みを増した。それらすべてを体現するまで、あと25日。
 井上拓真にとって、ボクサー人生のターニングポイントとなる試合だ。

文_本間 暁
写真_山口裕朗

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