大栄翔(突き倒し)豊昇龍勝ち続けていた、昨日までの立ち合いではなかった。豊昇龍が、大栄翔に突き倒され、今場所初の黒星を喫した。
ちなみにこの対戦だが、昨日も書いたように、過去の対戦成績は豊昇龍のほうがいい。4対2とリードしており、最近1年間に絞れば4対0だ。
しかし、この過去に勝っていたという結果が、おそらくは豊昇龍に立ち合いを変えさせてしまったと思われるのだから、やはり相撲は難しい(豊昇龍は取組後のリモート取材には姿を見せなかったので、実際のところがどうかは分からないが)。
実はこの1年の4勝の立ち合いを見ると、豊昇龍はすべて張り差しにいっている。それで結果が出ているのだから、「大栄翔相手には張り差しで行けば大丈夫」と豊昇龍が考えたとしてもそれは自然なことだろう。たとえ今場所、昨日まで頭から行く立ち合いで勝ち続けてきていたとしても……。
しかし、今場所の大栄翔には過去一年間の大栄翔を上回る好調さがあった。張り差しでいった豊昇龍はそのあと押し込み、この立ち合いは成功したかにも見えた。しかし大栄翔の上体は起きない。豊昇龍は下からあてがったのみで、組み止めるところまでは体を寄せられなかった。少し押されたところから大栄翔が突き返す。右、左、右、左、右、左。小さな七発目から最後は左の突きで豊昇龍を向正面の土俵下に叩き落した。
「立ち合い押し込まれたんですけど、当たれてはいたので、落ち着いて最後まで攻められた」と大栄翔。豊昇龍を優勝争いのトップから引きずり下ろし、かつ、今場所出場の番付上位5人と対戦して1敗であるところから、自らも優勝候補の一人に浮上してきた。「(序盤に三役を破って優勝した)2年前(初場所)の感じのような流れですけど、あまり意識しないでやっていきたいと思います」と、無欲で2度目を目指す。
一方、昨日までは優勝争いから頭一つ抜け出すか、という感じだった豊昇龍は一歩後退。まだ前半なので単純な比較はできないかもしれないが、先場所は12日目に優勝争いのトップから引きずり下ろされるとそのまま3連敗まで行ってしまっているだけに、明日は「敗戦の後」をうまく乗り切れるかが問われることになる。
この日は豊昇龍のほか、阿武咲に土。幕内の全勝は阿炎、碧山、琴勝峰と平幕3力士のみとなった。中でも先場所優勝の阿炎は若隆景が立ち合い少し動いたところに右の突きを炸裂させて完勝。上位陣では唯一の全勝力士となり、今場所も優勝争いのトップ走者の位置に立った。
明日6日目は、1敗の後にしっかりと星を重ねてきた大関貴景勝と対戦。早くも前半のヤマとなる一番が組まれた。阿炎が勝てば、上位の力士の中では一歩抜け出すことになり、しばらくは阿炎中心の優勝争いが濃厚、貴景勝が大関の意地を見せ、先場所の優勝決定戦の借りを返すようなら、優勝争いはまたほぼ横一線からのリスタートとなる。もしそうなれば、2日目終了時点で横に置いておかれる形になるかに見えた貴景勝の綱取りの話題が、終盤を待たず、場所中盤で復活することにもなるが……。明日の結びの一番が、今から楽しみだ。
文=藤本泰祐