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2023-03-26

【相撲編集部が選ぶ春場所千秋楽の一番】ビデオテープのような逆転勝ち連発! 霧馬山がどんでん返しでVさらう

優勝決定戦でも、本割に続いて右からの突き落とし。体の柔らかさと残り腰、俊敏な動きを見せつけた

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霧馬山(突き落とし)大栄翔

文字どおり「逆転優勝」だった。
 
大栄翔を星1つの差で追っていた霧馬山が、千秋楽結びの一番で大栄翔が出てくるところを土俵際で体をかわして突き落とし、12勝3敗で並んで優勝決定戦に持ち込むと、その優勝決定戦でも、また大栄翔が出てくるところを土俵際で突き落とし。逆転勝利の連続で初優勝を手にした。
 
2番の相撲は、まるでビデオテープを見るようだった。昨日のこのコラムで、「立ち合いの勢いを生かせる展開なら大栄翔。ここ2日の相手より“起こしに行く”にウエートを置いた突き押しが必要になるところがどう出るか」と書いたが、当たらずとも遠からじか……。大栄翔は立ち合いの勢いで霧馬山を崩し切ることが、2番ともできなかった。

まず本割。大栄翔は、ここ2日と同様、頭を上げてモロ手突きの立ち合いを選択した。ただ残念ながら、それでは霧馬山を崩すには圧力が不足していたようだ。突きで土俵際まで追い込んだが、あと一歩攻めきれず。俵に足をかけて弓なりに残した霧馬山に、右から突き落とされた。
 
そして優勝決定戦。今度は少し手を変え、やや頭を下げて突いていった。が、やはり何か気持ちの上で違うものがあったのかもしれない。頭はしっかり当たっておらず、あまり威力のある立ち合いにはならなかった。最初のモロ手だけで、そのあとは突き放せず。今度は押して出ていく形になったが、左手を手繰るようにして、右から突き落とされた。物言いがついたが軍配どおり。「悔しいです。気合を入れていったんですけど、土俵際の甘さが弱いところなのだと思います」と大栄翔は残念がった。

一方、霧馬山は「(物言いがつき)全然分からなかったんで。審判が“霧馬山の勝ち“と言って、もうこんなになって(両手でちゃぶ台返しのようなポーズ)、どこにいるのか分からないようになっていました」と笑顔。攻めて勝ったわけではなく、本人も言うように「そんなにいい相撲ではなかった」が、逆にその柔らかな残り腰、しぶとさを十分に証明した、ともいえるだろう。「(場所中は)全然優勝とか考えてなかった。同じ気持ちで取りました。(今日は)ちょっと緊張したけど、自分の相撲を取ろうと思いました」というところが連勝につながった。
 
入門から8年での初の栄冠。「最初は何も分からないときがあったので。8年で優勝をつかめて最高でした」と、若き日からの道のりに思いをはせた。

これで直近3場所は、小結で8勝、小結で11勝(技能賞)、関脇で12勝(技能賞)。今場所後にどうこうという話題は上っていないようだが、5月場所は文句なしに大関取りの場所になる。
 
これまでは番付運にも今ひとつ恵まれず、相撲っぷりもじわじわと攻めていくタイプで、若手の中ではやや地味な存在だったが、ここ数場所は持ち前の柔らかさの上に、力強さもグッと乗ってきた。今や、協会が待望する新大関の候補一番手。「来場所も15日間、一日一番、しっかり頑張ります」。笑顔とともに、唇を引き締めた。

文=藤本泰祐

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