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2023-03-21

【相撲編集部が選ぶ春場所10日目の一番】翠富士が力強い割り出しで10連勝。大栄翔敗れ、2差で終盤へ

力強い「割り出し」で連勝を10に伸ばした翠富士。このまま優勝へ突き進めるか

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翠富士(割り出し)翔猿

三役からの最初の刺客を力強く破った。幕内ただ一人の勝ちっ放しの翠富士が、小結翔猿を割り出しで破り、連勝を10に伸ばした。
 
初日から連勝を続ける翠富士に、いよいよこの10日目から三役との割が組まれた。最初の関門となったのは小結の翔猿だ。翔猿は身長174センチで体重133キロと、翠富士(身長171センチ、体重117キロ)にとっては、ここまで倒してきた「自分よりかなり大きい」相手とは異なり、「自分より少し大きい」相手。これまでとは違う感覚での相撲が求められるだけに、注目の相手だった。
 
翠富士としてはどう取るか。距離が離れて突き合いになったときは自分の攻め手が少ないので不利、かといってがっぷり組み合ってもやや力負けするので不利。欲しいのはその中間の、つかず離れずの絶妙な距離感だ。
 
翠富士が選択した立ち合いは右から張っての張り差し。いい形に組むことを目指した。「四つに組みたかったのですが、向こうも四つに来ましたね」。右から張って右四つ、という変わった流れになったが、まずは右四つ左上手で、相手に上手は与えない形になった。とはいえ、差し手を抱えられ、胸自体は合った形。それでは体格がモノをいうので、そのままでは攻められない。そこで翠富士は、差し手を抜き、右をハズ押しにして動きを求めた。頭をつけにいき、続いて上手から崩しにかかる。これに呼応した翔猿が右下手を突きつけて寄り、一瞬土俵際に詰まったが、上手を引きつけながら、逆の右手で相手の胸をグイっと押して土俵の外に出した。
 
決まり手は「割り出し」。かつて、関脇の玉ノ富士が得意とするなど、どちらかというと怪力の力士が見せる技だ。体格差の小さい翔猿相手だとはいえ、この技で勝負を決したあたりに、今場所の翠富士の力強さがうかがえる。自身も「今場所は右の押しがいいですね」と自画自賛。翔猿は「終始相手のペースで、全然ダメだった。相手は先場所とは違った? そうですね」と舌を巻いた。
 
この日は、1敗で追っていた大栄翔が豊昇龍に敗れて2敗に後退。2敗組は、遠藤が正代を掬い投げ、琴ノ若が阿炎を押し倒しで圧倒して勝ち越しを決めたが、髙安は新入幕の金峰山に圧力負けして3敗となり、翠富士が後続の3人に2差をつける形となった。
 
さて、ここからの優勝争いはどうなるか。2敗の3人はそれぞれ今場所の相撲内容は全体によく、今後も期待が持てるが、それでも残り5日で星2つの差は相当に大きい。すべては翠富士の星勘定次第になったと言っていいだろう。
 
このあとの翠富士の対戦相手は、明日11日目が小結若元春(確定)、その後は優勝争いの先頭にいる限り、三役陣と毎日当てられることになるだろう。三役との対戦については「自分のほうが格下なんで、しっかり自分の相撲を取り切れたら」と翠富士。もちろん幕内最小兵の翠富士にとって、楽勝に勝てる相手は一人もいないが、かといって、横綱・大関がすでにいない今場所、「これはまず勝てないだろう」という相手もいない。

あとは優勝争い先頭という状況に対して、どう気持ちをコントロールしていけるかだろう。8日目から9日目にかけての夜は一睡もできず、9日から10日目にかけての夜はぐっすり眠れた、という話もあり、この辺は本人もやってみなければ分からいことだろうが。

「昨日、師匠(元横綱旭富士の伊勢ケ濱親方)に、『おかげさまで勝つことができました』と言ったら、『お前、勘違いすんなよ』と言われました。『エエッ!?』って」と笑わせる翠富士。この明るさがあれば大丈夫か……。幕内最軽量力士の痛快な優勝は成るか。残りは5日間だ。

文=藤本泰祐

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