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2023-05-18

【相撲編集部が選ぶ夏場所5日目の一番】勝ちたい誘惑吹っ切った。「ニュー霧馬山」が難敵乗り越え大関へ前進

琴ノ若を左掬い投げで仕留める霧馬山。立ち合いモロ差し狙いにいくなど、吹っ切れたような思い切りのよさが見られた

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霧馬山(掬い投げ)琴ノ若

今場所大関取りを狙う霧馬山が、序盤の大きなヤマを越えた。この日は3勝1敗同士で小結琴ノ若との対戦。先場所はモロ差しを許して起こされ、土俵際の粘りも及ばず敗れた相手だ。
 
今場所も立ち合いは琴ノ若のペースだった。霧馬山は差しにいったがはね上げられ、そのまま押されて俵に詰まった。それでも左に回り込みながら左をのぞかせると、早い引き足でさらに回り込み、少し琴ノ若の足が遅れる形になったところで逆転の掬い投げを決めた。
 
これで序盤5日間を4勝1敗で乗り切った。序盤の相手で最大の難敵とも言える琴ノ若戦を勝ったという意味でも、一つヤマを越えたといえるが、それ以上に、これまでのこのコラムでも触れた「負けた後」のヤマを乗り切ったことが大きい。
 
3日目に阿炎に敗れて1敗。その翌日、きのうの錦富士戦は、取り直しの末に叩き込みで勝ったが、2番取って2番とも立ち合い変化を見せており、気持ちの焦りが見て取れる内容で、白星は得たが、とても「負けた後のヤマを越えた」と言えるものではなかった。
 
だが、師匠の陸奥親方(元大関霧島)から、「自分の相撲を取れ。勝ち負けは関係ないよ。負けたら負けたで、稽古が足りないというだけのこと」と言われて、気持ちが変わったという。

「きのうまでは、やっぱり勝ちたいというのがあって。負けてもいいから自分の相撲を取ることが一番大事」だと思い返した。

“勝っても負けてもいいから”と考えた結果、この日は立ち合いも変えた。稽古場では試していて、以前からやってみたいと思っていたというモロ差し狙いの立ち合いを、場所で初めて試してみることにした。結果的にははね上げられ、この立ち合いは実ったとは言えなかったが、そこに表れた積極的な気持ちと思い切りは、霧馬山が「勝ちたい誘惑」を振り切ったことを示すものだ。
 
もちろん、気持ちが積極的になったから、今後、白星が重なるという保証があるわけではないが、少なくとも勝ちを求めて立ち合い変化を採用するような精神状態を脱したことは、大関取りに向けて、一つのターニングポイントになることは間違いないだろう。さらに言えば、立ち合い変化など用いないほうが、相撲内容に対する周囲の心証も良くなるという副産物もついてくる。

「あしたからも、力を精いっぱい出して、勝負していきたい」

持ち前の負けん気が言葉でも出るようになってきた。気持ちががらりと変わり、ついでに立ち合いも一種類プラスされた「ニュー霧馬山」。どうやら気持ちの上では大関への軌道に乗ったとみてもよさそうだ。次はどれだけ残り余裕のある日にちで大関当確にリーチをかけられるか、というところが勝負になる。

文=藤本泰祐

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