若元春(打っ棄り)北青鵬「規格外の怪物」の、204センチ、177キロの巨体を腰に乗せ、土俵の外に打っ棄った。
元大関の朝乃山、さらには元関脇の明生と、優勝を争う力士を豪快な相撲で次々と倒し、今場所の台風の目となっている北青鵬を止めたのは、関脇の若元春だった。
北青鵬にとっては、これが初めての三役力士への挑戦。しかしながら、これまで何度も書いているとおり、204センチの身長からくる懐の深さがあり、肩越しにでも上手に手がかかれば十分という北青鵬は、ほかの力士とは違う規格外の存在。若元春も「正直、想像つかなかった。やってみないと分からない感じで。なかなか難しかった」と言うとおり、やりづらいのは上位陣のほうであることは間違いない。
立ち合い、「組まずにおっつけて前に出ようと思った」という若元春は、右手で相手と距離を取り、押して出た。だが攻めきれず、「苦しくなって組んでしまった」(若元春)と左四つ。例によって北青鵬は肩越しの右上手だ。若元春の左は肩まで入っているが、それでも引かれている上手なので切りようもない。北青鵬の下手を巡る攻防は少しあったが結局はがっぷり左四つ。こうなると若元春は攻め手が難しく、時間がたてばたつほど、体の大きい北青鵬が有利だ。
若元春は動きを求めてガブるように寄り。北青鵬は上手から振って体制を入れ替えると、廻しを引きつけ、逆襲の寄りに出た。しかしそこで、若元春にチャンスが生じた。北青鵬が腰を下げずに出たこともあり、北青鵬の廻しの下に若元春の廻しが入る形になったのだ。「相手が覆いかぶさるように出てきたので、自然に出た。相手を自分の上に乗せられたんで」と、若元春十八番の打っ棄り。両者の体が割れ、鮮やかに決まった。
「自分としては、打っ棄りはいいこととは思わないので、頭に入れていなかった」という若元春だが、北青鵬を相手に決められるのはこの人以外にはいないだろう。とっさに出た得意技で、結果的には三役の力を見せつけた。
「星の並びではなく、内容のある、地位に見合うような思った通りの相撲、いい相撲が出ていない」と、まだまだ自身が求めるところは高いが、若元春はこれで新関脇の場所の勝ち越しを決めた。
この日を終えて8勝3敗は、4人の関脇の中でも、大関取りを狙う霧馬山に続く成績。この調子でいけば、霧馬山が大関昇進を決めた場合、東の正関脇が手に入る可能性が高い。そしてもし、今場所二ケタ勝利を挙げてその地位に就くということになれば、堂々たる次の大関コンテンダーのトップとなる。新関脇から在位2場所で大関に駆け上るということも、あながちない話ではないだろう。
この日、優勝争いのほうは、照ノ富士、朝乃山がともにしっかりと1敗を堅持。2敗で霧馬山が続く形にまで絞られた。横綱がトップにいるので、3敗組はちょっと苦しいか。今後、朝乃山の上位戦がどう組まれるかが注目だ。そのほか、貴景勝は大栄翔を引き落としてカド番脱出まであと1勝。また、十両では豪ノ山が全勝できていた落合にストップをかけ、1敗に並んだ。
優勝争いに、大関昇進、残留を巡るドラマ、さらには落合の入幕への挑戦……あすからも見どころは盛りだくさん。久しぶりに、見ごたえ十分の場所になってきた。
文=藤本泰祐