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2023-08-16

変形性ひざ関節症教室 第21回 変形性ひざ関節症の症状② ひざに水がたまる、横ぶれする、歩行障害

ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、変形性ひざ関節症について、やさしく解説していきます。前回に引き続き、変形性ひざ関節症の症状を詳しく説明していきます。

症状④水腫(ひざに水がたまる)

 変形性ひざ関節症が進むと滑膜に炎症が起こりやすくなります。炎症が強くなると滑膜での関節液の生成と吸収のバランスがくずれ関節に充満します。この状態が、ひざに水がたまった状態(水腫)です。

 水腫がさらに増えると、関節内の圧が上がりひざの後ろにも水がたまることがあります。これをベーカー嚢腫(のうしゅ)といいます。ただベーカー嚢腫自体は治療の対象になることは少ないです。

 ひざに水がたまると、ひざが腫れたように太くなります。水の量が増えてくると、ひざを曲げ伸ばししにくくなります。正座ができない、しゃがみ込めないといった症状が出てきます。動かしづらいからといって安易にひざの水を抜くのはお勧めしません。根本的な治療ではないからです。水を抜かなくても、運動を行えば、水腫はある程度収まります。


イラスト/庄司猛

症状⑤ラテラルスラスト(ひざの横ぶれ)

 変型性ひざ関節症が進行すると、関節の変形や不安定性の増加、筋力低下などのために、歩いたときにひざが横ぶれすることがあります。これをラテラルスラストといいます。

 ラテラルスラストは、いわゆるO脚でガニ股という高齢者の方によくみられる歩き方です。変形性ひざ関節症の歩行時における特徴的な症状の一つです。

 歩行とは1歩ずつ片方のひざに体重の2.8倍の負荷をかけながら進んでいく動作ですが、ラテラルスラストの現象が生じると、歩いたときにひざにかかる負担はさらに増え、痛みや歩きにくさが増してきます。

 ひざの痛みや歩きにくさから歩かなくなると、お尻の筋肉や太ももの内側や外側の筋肉の筋力が低下してしまいます。するとラテラルスラストにますます拍車がかかります。


イラスト/庄司猛

 症状⑥歩行障害(短い距離しか歩けない)

  中期・末期と病状が進行すると、歩ける距離が短くなってきます。ただ休むと回復するので、長い距離は休み休み歩くことになります。結果的には歩ける範囲は狭くなり、日常生活にも支障をきたすようになります。

 定期的に通院している患者さんに痛みをたずねると、変わっていませんと答えますが、よく聞くと、歩ける距離は減ってきています。つまり以前と同じ距離を歩くと比べものにならないくらい痛いということです。末期では、痛みの強さより、どれくらい動けるかが、病状を知るうえで重要な目安になります。

 一方で、変形が強くても結構歩ける人もいます。そうした方の共通点は、筋力がしっかりして、日ごろから活動的に動いている人です。末期でも運動療法を行えば、活動性を保ちながら上手にひざと付き合っていけることを忘れてはいけません。


 イラスト/庄司猛

症状〇番外編(やりたいことができなくなる)

 以前、外来に通う変形性ひざ関節症の患者さんに、旅行についてアンケートをとったことがあります。「ひざの痛みのために旅行をあきらめたり、楽しめなかったりしことがあるか」という質問には、重症者の60%があると答えました。旅行中の活動性については、中等症以上になると、半数は乗り物で回った、宿で楽しんだなど、自分の足で歩いて楽しめなくなっているようでした。そして「ひざが痛くなければもっと旅行に行きたいか」とたずねると、重症者では70%がはいと答え、症状が強くなると旅行に行きたいのにだんだん行けなくなっているようです。

 変形性ひざ関節症の患者さんには、ひざの痛みのためにやりたいことができなくなったと考える人が少なくありません。やりたいことをするために手術を選択する人もたくさんいらっしゃいます。

イラスト/庄司猛 

 プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。

この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.

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