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2023-08-30

変形性ひざ関節症教室 第22回 変形性ひざ関節症の健康への影響 認知症やうつ病、健康寿命にも影響する

ひざは健康寿命延伸の要の関節。ところが、中高年になると、ひざ関節の軟骨がすり減り、「ひざが痛い」「水がたまる」「痛くて長く歩けない」「ひざか変形した」などといった症状に悩む方が増えてきます。本連載では、ひざの専門医・田代俊之ドクターが、変形性ひざ関節症について、やさしく解説していきます。今回は、ひざの痛みが及ぼす健康への影響について説明していきます。

認知症、うつ病と関連する!

 末期になると社会的行動半径が狭くなり、家にいる時間が増えてきます。この状態がさらに進むとどうなってしまうのか、心配になりますよね。

 最近の研究では、変形性ひざ関節症と認知症との関連が指摘されています。大阪大学の研究では65~79歳でひざ痛がある人は、ひざ痛のない人の1.73倍も認知症の発症リスクが上がると報告しています。歩行習慣(毎日30分以上)がない人は、認知症の発症率がさらに上がるようです。

 うつ病との関連も指摘され、うつ病のリスクが1.17倍不安症のリスクが1.35倍上がると報告されています(※)。ひざの痛みで外に出れなくなると、人との接触が減り、刺激や楽しみが減ることが、認知症やうつ病と関係しているでしょう。

 ひざ痛で外出できないと、体重も増え、呼吸機能や循環機能も低下し、体力も低下してしまうと思います。症状が進むとひざの不安定性と筋力低下から、転倒しやすくなるとも報告されています。

このように身体は元気でもひざが痛くて歩く機会が減れば、頭も心も身体も病んでしまうのです。

※ Stubbs, B., et al., Prevalence of depressive symptoms and anxiety in osteoar thritis:63 A systematic review and meta-analysis, Age Ageing, 45(2): 228-235, 2016


イラスト/庄司猛 

関節症が進むと要支援になる

 日本人の寿命が延びて、長生きできるようになったのは良いことですが、寿命と健康寿命との差は7~9年とあまり変わっていません。つまり、人生最後の10年弱は、ほかの人の力を借りて生活することになります。これが社会福祉費の増加となり、社会の大きな負担となるのは明らかで、将来、社会福祉費が削減されたら、今のような公的支援・介護は行われないかもしれません。そのような事態に備えて、自分でできることは自分でするという心構えが必要になるでしょう。

 なぜ、このような話をするのかというと、要支援になる主な原因をみると、近年変形性ひざ関節症を含む関節症の割合が増えており、ここ最近では、最も多い原因となっているからです。

 関節症が進み、歩きづらくなって支援を受ける人が増えている、つまり、関節症によって健康寿命の終わりを迎える人が増えています。変形性ひざ関節症の進行を抑えて、いつまでも自分の足で歩き続けられるようになることは、個人にとっても社会にとっても求められています。

健康寿命とロコモティブシンドローム

 健康寿命は2000年にWHO世界保健機関が提唱した概念で、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことです。つまり、平均寿命と健康寿命との差は、日常生活に制限のある健康ではない期間、すなわち自分一人で生活できない要支援・要介護の期間を意味します。

 ロコモティブシンドローム(ロコモ)は、2007年に日本整形外科学会が提唱した概念です。運動器(骨、筋肉、関節、神経など)の機能が低下し、立つ、歩くといった移動機能が低下した状態を指します。変形性ひざ関節症はロコモになる原因疾患の一つです。超高齢化が進む日本では、寝たきりや要介護への移行の予防が、重要な目標になっています。このため整形外科ではロコモ該当者に対して、早期から運動療法や生活指導、治療を行い、身体活動低下の予防を目指しています。


イラスト/庄司猛 

プロフィール◎田代俊之(たしろ・としゆき)さん
JCHO東京山手メディカルセンター整形外科部長
1990年山梨医科大学卒業後、東京大学整形外科入局。東京逓信病院、JR東京総合病院勤務をへて、2014年に東京山手メディカルセンターへ。2017年4月より現職。ひざ関節の疾患を専門とし、靭帯損傷、半月板損傷、変形性関節症などについて、長年にわたって幅広く対応している。2004年より中高齢者に向けたひざ痛教室を毎月開催している。日本整形外科学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター。陸上競技実業団チーム(長距離)のドクターも務める。

この記事は、ベースボール・マガジン社の『図解・即解!基礎からわかる健康シリーズ 変形性ひざ関節症』(田代俊之著、A5判、本体1,500円+税)からの転載です(一部加筆あり)。 Copyrightⓒ2022 BASEBALL MAGAZINE SHA. Co., Ltd. All rights reserved.

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