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2023-10-03

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第19回「気合」その3 

錣山親方と新十両会見で笑顔を見せる豊真将。師匠の文字どおり体を張った指導が実を結んだ

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暑さの続く夏、こういうときは行動を起こすのも大変ですが、そこは気合です。
一念発起、気合を入れてとりかかれば、不可能なことも可能になり、新たな道が開けるってもんです。
現に、そうやって活路を開いた力士がいるんですから。
そんな気合のエピソードを紹介しましょう。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

体当たり弟子育成

平成17(2005)年の名古屋場所前、錣山親方(元関脇寺尾)は愛弟子の豊真将(当時東幕下8枚目、現立田川親方)と、師弟関係抜きのガチンコ勝負を行った。自分の体で愛弟子の成長度を推し測ろうとしたのだ。

このとき、錣山親方は引退して3年経っていた。結果は4番取って豊真将の3勝1敗だった。4番という中途半端な番数だったのは、錣山親方が肋骨を骨折したからだ。文字どおり、体当たりの弟子育成である。

この錣山親方の尋常ではない気合の入り方、熱血ぶりをもう一つ。壮絶な師弟対決から2場所後の九州場所13日目、東幕下3枚目の豊真将は隆の鶴(現田子ノ浦親方)と対戦した。すでに4勝し、勝ち越していたが、勝てば創設2年目の錣山部屋初の十両昇進が確実になる、という大事な一番だった。

この対戦前夜、錣山親方は近くの散髪屋に飛び込み、後頭部のえり足のところを∨字に刈り上げる∨字カットにしてもらい、場所入りする豊真将にも、

「運を分けてやる」

とわざわざ触らせて送り出した。

この気合を絵に描いたようなヘアスタイルの甲斐あって、豊真将は土俵際に追い込まれたが、捨て身の右上手投げで逆転勝ち。

「いやあ、心臓発作を起こしそうでしたよ」

とわざわざ花道まで駆けつけ、愛弟子を祝福した親方は胸のあたりを左手で抑えていた。弟子を一人前の力士に育てるのは命を削る仕事なのだ。

月刊『相撲』平成24年5月号掲載

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