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2023-11-07

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第20回「拒否(ノー)」その4

双葉山との話を持ち出した平成22年秋場所6日目、横綱土俵入りの前に小社・相撲分冊百科の双葉山のページを読んでいた白鵬

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“生き馬の目を抜く”というなんともおどろおどろしい表現がありますが、そんな油断もスキもない勝負の世界で生き抜くのは大変なことです。
中途半端な気持ちは、まずダメ。
時には、たとえ周りがなんと言おうと、嫌なことには嫌、ときっぱりクビを横に振って拒否する意地と勇気が必要です。
もっとも、拒否の仕方、方法も色々、様々。
ノーが通りにくい世界で、どうしてあのとき、あの力士はノーと言ったのか。
これはそんなエピソードです。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

休んではいられない

夢の対決、というのがある。多くのファンが切望していた力士同士の対決で、実現したものもあれば、物理的に絶対、実現し得ないものもある。実現したものの一つが平成3(1991)年夏場所初日、35歳の横綱千代の富士と18歳の西前頭筆頭の貴花田(のちの横綱貴乃花)との対決である。日本中の相撲ファンが見たがったこの新旧の人気力士同士の対戦は、若き貴花田に軍配が上がり、大相撲の歴史が大きくめくれた。

白鵬(現宮城野親方)の双葉山好きは生半可ではない。力士会会長としてだったが、平成24年夏場所前も、両国国技館の敷地内に双葉山の銅像を建立するように相撲協会に申し入れている。もしこの恋い焦がれる69連勝の双葉山と63連勝の白鵬が対戦したらどうなるか。

双葉山は引退して67年、亡くなって44年も経つので、実現することはあり得ないこの夢の対決、実は行われている。

平成22年秋場所6日目、白鵬は東前頭3枚目の琴奨菊(のち大関、現秀ノ山親方)を叩き込み、千代の富士と並ぶ53連勝を記録した。この打ち出し後、秘密めいた口調で、「ここまでくると、過去の横綱と闘っている気になりますね。夢の中ですが、双葉山関とも相撲を取ったことがあるんですよ。ちょうど1年前のことです」

と切り出したのだ。

結果はどうだったのか。すると、白鵬はニヤリとして、

「それは内緒です」

と公開を拒否した。不世出の横綱とまで呼ばれた双葉山だけに、こんなことであの世からお出まし願うのは失礼と思ったに違いない。

まあ、言わぬが花というところだが、もしこの右四つを得意とする2人が同時代に生き、土俵上で対決していたらどんな闘いを繰り広げたか。白鵬の夢の続きが気にはなる。

月刊『相撲』平成24年6月号掲載

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