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2023-11-03

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第14回「ストレス解消法」その1

平成30年9月30日に国技館で行われた日馬富士の引退相撲で、絵画展も大広間で開かれた

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令和2年春、新型コロナウイルスの襲来に、大相撲界も、まさにモロ被り。
恐れていた感染者が出てしまい、夏場所の延期ばかりか、外出、出稽古、申し合い、ぶつかり稽古に至るまで控える事態になってしまいました。
まさに八方塞がり、ストレスはつのる一方です。
こんなとき、どうやって鬱憤を晴らせばいいか。
年に6回も本場所があり、プレッシャーには慣れている力士たちのことですから、ストレス発散ならお手のものです。
過去にもこうやって息抜きしていました。そんなストレス晴らしの妙手をピックアップしましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

悲しいときに

一芸に秀でる者は多芸に通ず、といいますが、力士たちの趣味はまさに多種多芸。昭和の時代、絵筆を持たせば玄人裸足、と言われたのが親子2代の元大関、増位山親子だった。二科展入選の常連で、父は大相撲を、息子は花を得意にしていた。
 
平成になると、何と言っても日馬富士だ。来日前、モンゴルの美術専門高校で油絵を学び、すでに個展を開いたこともあったというから、こちらも趣味の域を超えて、本格派。平成27(2015)年12月には東京・銀座の老舗画廊「日動画廊」で現役横綱、というよりも力士として初めて個展を開いている。

「自分は、悲しいときに絵を描くんです。幸せなときには色が出ない」
 
と話し、直前の名古屋場所、秋場所と右ヒジを痛めて連続休場し、もがき苦しんでいたときも不安を吹き払うように絵の制作に没頭。一気に8枚も仕上げている。このストレス発散法が功を奏し、次の九州場所では鮮やかに復活優勝をやってのけた。
 
待望の横綱に昇進したばかりで、それこそ経験したことがないようなプレッシャーがのしかかる平成24年九州場所前もそうだった。時間をみつけて稽古が終わったばかりの稽古場にキャンバスを持ち込み、富士山に紅葉したモミジがかかっている油絵を描き始めた。

「みんな、ストレスが溜まると町に飲みに繰り出すでしょう。私は、その代わりにこうやってキャンバスに向かい、自分の気持ちをぶつけているんです。この絵で大事なのはモミジ。モミジがはっきりすれば、富士山が映える。ストレスが色に出るので、おもしろいんだ」
 
と相撲を取っているときと同じような真剣な目つきで絵筆をふるっていたのを思い出す。
 
残念ながら、この横綱デビュー場所は9勝6敗に終わったが、あの小さな体で9回も優勝したのは、きっとこうやって気分転換が絶妙だったせいに違いない。

月刊『相撲』令和2年5月号掲載

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