【相撲編集部が選ぶ九州場所12日目の一番】２敗対決は霧島が琴ノ若に圧勝。優勝は豊昇龍破った熱海富士との争いに

霧島（寄り切り）琴ノ若

頭は絶対に上げない。関脇相手の大関だろうが、勝つためになりふり構わず、狙った通りの相撲をやり切った。
　
霧島が大関最後のトリデの意地を見せ、琴ノ若に圧勝した。
　
きのうも書いたとおり、この２敗同士の対決のポイントは、琴ノ若が自分と同じ高さまで霧島の上体を上げた形で組めるかどうか。霧島の側から言えば、絶対に頭を上げずに組むことが、勝利への道だった。
　
ただ、最初から低さだけを求め、当たり負けしたのでは先手を取られる。「真っすぐ当たっていこうと思った」と、立ち合いはまず琴ノ若の胸を突いて出た。そこで距離を作ると、サッと頭を下げて低く組みに出た。右下手、左上手ともいい位置を取り、頭をつけて右下手一本の琴ノ若を半身にさせる。

「（頭をつけて）そこから我慢して投げとかしないように前に攻めた」という慎重さもよかった。頭をつけたまま、左外掛けで揺さぶると、両廻しを引きつけて寄り、土俵際の逆転技も許さず、西土俵に寄り切った。

取組後、「大関として負けられないと思ったか？」の問いには、「それはあまりないです。自分のことを考えていった」と答えたが、勝てる相撲を考え抜いて、それをそのとおりに実行して厳しい相撲を見せたことで、結果的に大関の強さを若き挑戦者に見せつける形となった。

一方、勝てば初優勝と大関への道が開けるところだった琴ノ若は、あまり見せ場も作れず、一歩後退。立ち合い一度、思わず早く突っ掛けたあたり、若干平常心でなかった可能性も垣間見えた。これで大関戦を終え、残り３日間は関脇以下との対戦となるが、大関へ向けては、これを一つひとつ勝っていく以外にない。残りをすべて勝てば12勝で、直近３場所は三役で32勝となる。大関昇進の基準として巷間よく言われる「三役で直近３場所33勝」は、決して必要条件ではなく、“そこまでいけばまず間違いなし”という数字に過ぎないので、32勝でも内容がよいと判断されれば、今場所後の昇進はない話ではない。まずは残り３番を勝つこと、そして強さを印象づける勝ち方ができるかも大事だ。

この日、結びでは熱海富士が大関豊昇龍を突き落としで破り、優勝争いのトップに残った。立ち合い、右差し、左上手とも果たせず、豊昇龍のノド輪攻めを受けたが、それでも後ろに下がらず持ちこたえるだけの力強さを身につけたことが、最後の逆転を生んだ。その辺り、熱海富士の確かな地力の伸びを感じさせる相撲でもあった。

これで優勝争いは、霧島と熱海富士が２敗で並び、琴ノ若、一山本が３敗で追う形に。

あす13日目はこの４人の直接対決はなく（琴ノ若－熱海富士戦が組まれるかと予想していたが……）、それぞれが別の相手と戦うことになったが、もし熱海富士が２敗をキープしていった場合は、14日目以降に割を崩して霧島との対決もあり得る。きのう、霧島－琴ノ若戦が今場所のメーンイベント、と書いたが、場合によってはメーンイベントは別にもう一丁あることになるかも。その戦いも、ぜひ見てみたい気がする。

文＝藤本泰祐