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2023-11-18

【相撲編集部が選ぶ九州場所7日目の一番】北青鵬-翠富士戦で幕内では8年半ぶりの水入り。V争いは全勝消え混戦に

合計約6分20秒の勝負の末、最後は上手投げで北青鵬の勝利。翠富士は疲労こんぱいだった

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北青鵬(上手投げ)翠富士

行司の木村寿之介が、組み合った北青鵬と翠富士の両力士の廻しに手をやって声をかけ、塩で両力士のつま先の位置にマーキング、右四つの体勢を解かせた。
 
水入りだ。
 
近年、幕内ではとんと見られなくなっていたので、新しい相撲ファンの中には、「何それ?」と思う人もいるかもしれないが、四つに組み合うなどして勝負が膠着状態になり、両力士に疲労の色が見えて動きがみられなくなったときに、勝負を一時中断して両力士にひと息入れさせ、しばらくののちに同じ形から勝負を再開するというものだ。中断中に両力士が土俵下で水をつけてもらうことから、「水入り」と言われる。
 
幕内では、平成27年3月場所14日目の照ノ富士-逸ノ城戦以来、約8年半ぶり。近年は、がっぷり四つに組んで戦うタイプの力士が少なくなり、決着が早くつく相撲が多くなったため、幕内など上位ではほぼ見られなくなっていた。
 
この日、水入りの熱戦を繰り広げたのは、北青鵬(現在の幕内で長い相撲と言えばこの人だ)と翠富士の「身長差30センチ対決」(体重も66キロ差)。正面から組み合ったのでは勝負にならない翠富士が、右で北青鵬の廻しの結び目より奥の下手、左で前ミツをつかんで横に食いつき頭をつけた形、北青鵬は左上手を取り、右を少しだけ差した状態になった。翠富士は右下手投げと右外掛けで揺さぶるが、北青鵬がこらえて膠着状態に。そして立ち合いから4分17秒を経過したところで水が入った。

両力士のつま先の位置に塩で印をつけるというのは今まであまり見たことがなかったが、実はこの水入り、中断の前後で両力士の足の位置や廻しをつかむ位置、頭のつけ方などが異なってあとから問題になることがしばしばあり、これはなかなかのグッドアイデアだった。

北青鵬-翠富士戦は幕内では8年半ぶりの水入りに。行司の木村寿之介が両者の足の位置に塩でマーキングしたのはグッドアイデアだった
北青鵬-翠富士戦は幕内では8年半ぶりの水入りに。行司の木村寿之介が両者の足の位置に塩でマーキングしたのはグッドアイデアだった



再開後、同じ攻めではらちがあかないと見たか、翠富士は今度は右内掛けから揺さぶっての下手投げで勝負をかけたが、動きの中で内掛けが外れ、北青鵬の打ち返した左上手投げに上から潰される形となった。水入りからさらに2分24秒後に勝負がついたが、疲労こんぱいの翠富士はしばし立ち上がれなかった。

「体力がなくて倒れちゃいましたね。ずっと廻しをつかんでいたので、右の握力はたぶん今、2キロぐらいしかないですよ。“根性負け”ですね、根性がなかった。もう千秋楽が終わりました(笑)」とは取組後の翠富士。一方の北青鵬は「相手が攻めてくるのを待っていました。全然疲れてないですよ。あの体勢は僕にとってはしんどくないので」と余裕の表情。体格の違う力士が長く組み合った場合は、やはり頭をつける形になる小さいほうの力士のほうが不利と言われるが、この一番でもやはり、両者の疲労度には大きな差があったようだ。
 
ともあれ、熱戦を見せてくれた両力士、特に疲労困憊の翠富士には拍手を送りたい。
 
さてこの日は、優勝争いのほうも大きく動いた。一山本が佐田の海に右手を手繰られて組み止められ土(佐田の海は連日の全勝阻止だ)、さらに琴ノ若も宇良のタイミングのいい肩透かしに敗れ、早くも全勝が消えた。ところが、それにより優勝争いの先頭に並ぶチャンスが訪れた貴景勝は結びでイナシについてこられて豪ノ山に寄り切られ2敗目。今場所後の綱取りはかなり難しくなった。
 
この日を終わって1敗は豊昇龍、琴ノ若、一山本の3人、貴景勝、霧島、大栄翔ら11人が2敗で続く形となり、優勝争いは再び混戦に。折り返しを前にして、横一線に近い形からのリスタートのような形となった。
 
となると、結局は場所前に好調を伝えられた豊昇龍、霧島の2大関と、琴ノ若あたりを中心にした争いになっていくのか、という気もするが……、貴景勝がどこまで気持ちを切らさずについていけるかも含め、ちょっとした差が明暗を分ける場所になるのかもしれない。

文=藤本泰祐

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