2007年7月に新日本プロレス入団を発表したオカダ・カズチカは翌8月26日、CTU興行でに再デビューを果たす。しかし対戦相手を務めた内藤哲也は、「体力的には入門テストを受けたなら絶対に合格しないレベル。練習に付いてくるのがやっと。ほかの新弟子だったら、夜逃げしていてもおかしくない。だけど、翌日にはケロッとして練習開始時間には道場にいる。この図太さはなんだろうって思いましたね。ただ、すでにデビューしていたこともあって、プロレスの動きをさせるとうまかった」と振り返る。もしオカダが“特待生”として新日本でのプロレス生活をスタートさせていたのなら、ファンの支持を得てなかっただろう。それが昭和時代からの新日本ファンの特別な思いである。そして2010年2月に海外修行に旅立った。しかし現地から活躍の情報が届くことはなかった(橋爪哲也)。 ◇ ◇ ◇
新日本プロレスのファン気質の特徴を一言で表すなら、“生え抜き至上主義”といえる。これは創始者であるアントニオ猪木のプロレス人生に起因するもの。新弟子として入門して道場で鍛え上げられ、トップにのし上がってきた選手をよしとする傾向だ。むしろ、そうでないと認めないといった風潮すらある。
実際にミュンヘン五輪出場の実績を引っ提げて入門してきた長州力がメインイベンターの地位を築くには相当の年数を要したし、幻のモスクワ五輪代表となった谷津嘉章も決してエリート街道を歩んできたわけではない。越中詩郎に至っては全日本プロレスから移籍してきた当初、「あいつ誰?」「新日本の闘いについていけるのか?」と見られていた。元横綱だった北尾光司は、デビュー戦だけで“失格”の烙印を押されたほど。エリートや移籍組に対しての嫌悪感は相当なものだった。
その点、オカダ・カズチカは特待生の扱いを受けず、闘龍門時代のキャリアを白紙にしてヤングライオンから再出発したことで、新日本ファンに受け入れられた。また、オカダ自身も新日本のスタイルに溶け込むよう努力した。そのため、ほかのヤングライオンと横一線で、当時は特にエース候補とは見られていなかった。期待を物語っていたのは、2010年1月31日、棚橋弘至相手に壮行試合をおこなって、TNAに無期限武者修行に旅立ったことぐらいだった。
しかしTNAでは若手としての扱いしかしてもらえず。新日本から送り込まれたから置いてやってるという感じ。アメリカでの厳しい生存競争に放り込まれたものの、オカダ自身、まだそれに打ち勝つだけの技量を身につけておらず、試行錯誤するばかり。結果的に活躍の場を与えられることもなかった。
海外遠征中にオカダが日本のメディアに載ったのは、2011年5月、新日本が初めて本格的に開催したアメリカツアーに合流した時。
オカダは新設されたIWGPインターコンチネンタル王座決定トーナメントにエントリー。日本を強調したコスチュームで登場。海外遠征の成果を見せるべく奮闘したものの、経験不足をつかれ1回戦でMVPに敗れてしまった。
その後も、活躍のニュースが聞こえてこないまま2012年1・4東京ドームに凱旋帰国。昭和の時代なら、たとえローカル団体であれタイトルの一つでも獲得して華々しく帰国となるのだが、オカダは何ひとつ実績を残せないまま、新日本にとって年間最大のビッグマッチのリングに立った。しかも対戦相手は同じくメキシコから帰国したYOSHI-HASHI。4分半、ネックブリーカー式の“オリジナル”レインメーカーで勝利したオカダは、メインイベント終了後には棚橋に対して王座挑戦をアピールした。
幸運だったのは棚橋が主な選手の挑戦を退けて一巡していたこと。次期挑戦者にこれといった候補がいなかったため、オカダの挑戦を受諾。東京ドーム大会翌日の会見で正式発表となり、マネジャーの外道は「お前らの目は節穴か? これからはレインメーカーの時代だ」とプッシュするも、まだこの時点では周囲は単なるビッグマウスにすぎないととらえていた。
海外遠征で約2年間、表舞台から消えていたオカダ。レインメーカーに変身してトップ戦線に割り込んできたわけだが、この“溜め”の時間がのちに訪れるレインメーカー・ショックを増幅させることにつながった。(つづく)
<プロフィル>
オカダ・カズチカ 本名・岡田和睦。1987年11月8日生まれ、愛知県安城市出身。中学卒業後に渡墨して闘龍門に13期成として入門。2004年8月29日、アレナ・コリセオでネグロ・ナバーロ相手にデビュー。07年7月、新日本プロレスに再入門。ヤングライオン時代を経て10年2月に海外遠征に旅立つ。“レインメーカー”に変身して12年1・4東京ドームに凱旋。勝利を収めると、IWGPヘビー級王座への挑戦を表明。同年2・12大阪で棚橋弘至を破り、初挑戦で新日本の至宝を獲得。同年の「G1クライマックス」でも初出場初優勝を飾る。その後、エースとして2010年代の新日本を支える。24年1月末日をもって新日本を退団した。
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