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2024-03-08

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第17回「三賞」その1

平成28年春場所千秋楽、殊勲賞を獲得した琴勇輝が弟の彦起さんと喜びを分かち合う

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令和2年7場所は4カ月ぶりの本番でした。
1場所飛ぶって、大変なことなんですね。なにもかもが異例尽くめ。
力士たちも戸惑うことが多く、あちこちでため息や、ボヤキが渦を巻いていました。
優勝力士や、三賞受賞者の晴れやかな顔を拝めるのも久しぶりです。
まあ、優勝力士は別格ですが、三賞に輝いた力士たちの晴れやかな笑顔にはなつかしさを感じます。
泣き笑い、と言ってもいいでしょう。過去の三賞力士たちもそうでした。
えっ、もう一度、そんな声を聞いてみたいって? 
分かりました。それでは玉手箱のフタを開けてお届けしましょう。
※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。

弟思いの兄    

横綱まで張ったどこかの兄弟力士のように、目をそむけたくなる不仲も困ったものですが、弟をかわいがり、兄を慕う兄弟ってやはりいいものですね。
 
突然、目を見張るような活躍をする力士っているものです。平成28(2016)年春場所の琴勇輝(現荒磯親方)がまさにそうだった。自己最高位の東前頭筆頭で横綱日馬富士、大関の豪栄道(現武隈親方)、照ノ富士(現横綱)らを連破したばかりか、5日目から千秋楽までなんと11連勝して12勝をマーク。文句なく殊勲賞を受賞した。初の三賞だった。
 
琴勇輝は父親がいない母子家庭で育ち、4歳下に弟の彦起(げんき)さんがいる。この彦起さんにとって琴勇輝は父親代わりで、小さい頃、イジメにあっているのを知って単身、学校に乗り込み、イジメをしている生徒に会って辞めさせたこともある。
 
琴勇輝はまた、埼玉県内の医大に進んだ彦起さんのスポンサーだった。土俵で稼いだお金で学費などの面倒を見ていたが、平成25年九州場所で左ヒザに大ケガを負い、幕内から十両に転落した。このため、彦起さんは、

「これ以上、兄に面倒をかけられない」
 
と通っていた医大を中退。奨学金で学費を賄える大阪のリハビリの専門学校に入り直した。弟もまた、兄のことを誰よりも思っていたのだ。
 
春場所千秋楽、その彦起さんが琴勇輝の応援に駆けつけ、殊勲賞の表彰を受ける兄に大きな拍手を送った。三賞の賞金は200万円。支度部屋に凱旋してきた琴勇輝は、彦起さんを目ざとく見つけると優しく声をかけた。

「(この賞金)全部、使っていいぞ」
 
もらったばかりの賞金をこんなふうに使った力士はこれまでいない。なんと太っ腹な兄でしょう。こういう兄を持ちたいものですね。

月刊『相撲』令和2年8月号掲載

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