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2024-03-10

【相撲編集部が選ぶ春場所初日の一番】新大関琴ノ若が白星発進。荒れる土俵の中、早くもV争いの中心に⁉

落ち着いて熱海富士を叩き込み、新大関の初日を飾った琴ノ若。早くも優勝争いの中心に!?

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琴ノ若(叩き込み)熱海富士

落ち着いて、第一関門の初日を突破した。
 
新大関の琴ノ若が、熱海富士を叩き込んで白星スタートだ。
 
否が応でも注目が集まる新大関の場所。だが、過去の例を見ると、新大関場所というのは誰にとっても難しいようで、好成績を残した大関は数少ない。直近の例を見ても、霧島は6勝7敗2休で負け越し、豊昇龍は千秋楽にやっと勝ち越しの8勝7敗だった。
 
こうなってしまう理由は、一つには、昇進後、新大関場所の前まではイベントや有力後援者への挨拶回りなどがあって多忙となり、疲れてしまうこと、そしてもう一つは、それまでは大関に挑むという攻めの立場でいられたのが、周囲の見る目ががらりと変わって、「負けられない」という守りの精神状態になってしまうことだと言われている。
 
そして、果たしてその新大関場所がどう転んでいくのか、最初の分岐点が、初日の土俵。最も緊張するに違いなく、精神状態、体の状態が平常でなければ、それが表に出やすいからだ。
 
琴ノ若の初日の相手は熱海富士。立ち合いに変化してくる可能性がないので、そういう意味では戦いやすいタイプの相手ともいえるが、体の大きさと馬力はあるので、立ち合いに受け損なってしまうと怖い力士だ。
 
そういう意味では、立ち合いにまず当たり負けない、ということが第一になってくるが、そこはもちろん琴ノ若も意識していたであろう。いつものようにモロ差し狙いでしっかりと当たっていった。
 
熱海富士は、いつもとは違って、右は差しに来るのでなく、カチ上げ気味にはじく立ち合いができたが、当たり負けしていない感覚があったのだろう、琴ノ若は落ち着いていた。狙いの右差しを嫌われながらも、相手が立ち合いで頭を下げすぎてバランスが崩れているのを感覚的にとらえて即座の叩き込み。危なげなく白星発進につなげた。

「いつもどおりです。体が反応したんじゃないですか」と琴ノ若。取組後も落ち着き払ったコメントだった。
 
この日は、連覇を狙う横綱照ノ富士が先手を取りながら錦木の逆襲に遭って敗れたほか、場所前好調が伝えられた霧島は阿炎の当たった直後の叩きに、豊昇龍は大声援を受けたご当所力士の宇良の肩透かしに土俵に這って土と、1横綱2大関が敗れる波乱の初日となり、大関以上で白星を挙げたのは、貴景勝と琴ノ若の2人だけだった。
 
もちろん、まだ初日が終わっただけなので早計なことは言えないが、この日、大関以上で白星を挙げたもう一人の貴景勝は、痛めている首の回復具合が心配され、カド番でもあってまずは勝ち越しが第一という状況を考えると、新大関の琴ノ若は、いきなり優勝争いの中心に押し出されたという見方もできる。
 
もちろん琴ノ若も、先述の新大関が苦しむ2つの条件とまったく無縁というわけにはいかないだろうが、多忙なスケジュールの中でも稽古はしっかりとこなしたと聞くし、地位の変化については、“祖父(元横綱琴櫻)に並ぶ”という目標を明確に持っており、ここで守りに入る部分はないはずで、これまでの新大関に比べて、大関最初の場所に好成績が残せる条件が整っているような気もする。

「(今場所は)自分らしい相撲を取って、上を目指してやっていくだけです」と琴ノ若。ちょっとまだ気が早いとは思うが、もし新大関で優勝を飾れば、平成18(2006)年5月場所の白鵬以来のことになる。

文=藤本泰祐

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