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2024-01-28

【相撲編集部が選ぶ初場所千秋楽の一番】大関との力量差歴然! 綱の力を見せた照ノ富士が貫録のV

照ノ富士は本割で霧島を、優勝決定戦で琴ノ若を一蹴して9回目の優勝。前半は不安定だったが、最後は大関以下との力の差を見せつけた場所となった

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照ノ富士(寄り切り)琴ノ若

「(きょうは)最低3番ぐらい相撲を取る、という気持ちで(場所に)足を運んできました」
 
これが、3場所連続休場が明けて、体に不安を持ちながら出場してきた力士の言葉だろうか。ジョークのようにも聞こえるが、“一番でも少なく終わらせたい“と思うのが当然の状況で、この心境になれるところに、横綱の矜持、強さ、そして優勝への執念が詰め込まれているように思う。
 
横綱は、強かった。霧島も、琴ノ若も、まるで歯が立たなかった。
 
千秋楽の土俵。まず琴ノ若が本割で翔猿を上手投げで降し、2敗を守った。この時点で照ノ富士は優勝のためには霧島、琴ノ若に連勝するしかなくなったわけだが、その状況下、結びの一番で照ノ富士は霧島を圧倒した。立ち合いで右を差すと、すぐに差し手を返し、同時に左上手を取ると、左上手を引きつけて霧島を吊り上げ、あっという間に土俵の外に運んだ。綱取りの大関を子供扱い(当然、霧島の綱取りはこの時点で霧散した)。照ノ富士は優勝決定戦へと駒を進めた。
 
そしてその優勝決定戦。今度は琴ノ若を一蹴した。立ち合いにモロ差しこそ許したが、当たりでは完全に勝った。本割での対戦と同様、左から振って空間を作ると右を巻き替え。すぐに差し手を返して寄る。圧力負けした琴ノ若は下がって引きを見せたが、足を送ってこれについていくと、動きが止まった一瞬、スッと左を巻き替え。モロ差しになってしまえばもう勝負ありだ。そのまま正面土俵にどっと寄り切った。

小兵力士を相手にするときには両側から強引に抱え込んで振ったりする相撲を見せるため、一見、力任せに思われがちな照ノ富士の相撲だが、こうしてみるとやはり、技を繰り出すタイミングと素早さ、技と技をつなぐ流れなどには他の力士には及びもつかないものがあり、技巧に裏打ちされた相撲を取っていることが分かる。そして相手や状況によってそれをうまく使い分けられることも、この横綱の底知れぬ強さだ。
 
振り返れば今場所、前半と後半の横綱は別人だった。本場所でどれだけ動けるか、本人も確信が持てなかったであろう前半は、何とか相手の動きについていきながら白星を拾う相撲が続いた。筆者はその状況に、7日目に2敗目を喫した段階で、「もう優勝争いからは脱落だろう」みたいなことを書いてしまったが、いやはやこれは、結果を見れば失礼千万なことだった。
 
体が動きになじんできて、優勝が視界に入った後半戦の横綱の相撲は、本当に隙がなかった。大の里、琴ノ若、霧島。そして再び琴ノ若。誰も相手にしなかった。「若い人たちが番付を上がってきているんで、そういう子たちと肌を合わせてやるのは楽しいですね」。まだまだ第一人者、それも二番手と力の離れた第一人者であることを証明した。
 
今場所は、横綱や大関の座に挑戦する力士がいたうえ、新入幕の大の里の活躍があり、終盤には上位陣同士の優勝争いがあり、展開としては、非常に面白い場所だった。
 
ただ、「大一番」と期待の高まった相撲の内容は、一方的なものが多かった。照ノ富士と、追う力士の差が歴然としていたからだ。綱取り大関の霧島も、来場所新大関となる琴ノ若も相手にならなかったところに、横綱と大関の心・技・体の違いをまざまざと見せつけられた思いがする。きのう、「多少、基準が甘めになっても、早く横綱を作ったほうがいいのでは」とも書いたが、たとえ状況としてはそうであっても、きょうの照ノ富士-霧島戦を見れば、それもとんでもない話だった。横綱と大関の差は、今のところ限りなく大きい。
 
もちろん、照ノ富士には「体調がいいときしか出てこない」という面もあるが、それでも霧島に11勝0敗、琴ノ若に優勝決定戦含め7勝0敗、ついでに言えば豊昇龍にも7勝0敗(ほか不戦勝1)と、ライバルにほとんど負けていないのには、やはりそれだけの理由があるのだ。今後の角界を担うであろう大の里らの若手を含め、大関以下の力士は、照ノ富士の攻略法をもっと考えていかなければならない。大相撲のレベルを、高いもので保っていくためにも。

文=藤本泰祐

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