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2024-03-24

【相撲編集部が選ぶ春場所千秋楽の一番】尊富士、強行出場して豪ノ山を押し倒し、自力で新入幕優勝を達成!

尊富士は考えた相撲で豪ノ山を押し倒し、自力で新入幕優勝の快挙を達成。最後まで気持ちの強さを見せつけた

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尊富士(押し倒し)豪ノ山

「これしかない」という取り口で決めた。

きのう14日目の朝乃山戦で右足を負傷、千秋楽の土俵が危ぶまれた尊富士が強行出場。豪ノ山を押し倒して、自力で110年ぶり(大正3年〈1914年〉5月場所の両國勇治郎以来)の新入幕優勝の快挙を成し遂げた。

「体的にもキツかったが、自分自身でも、優勝を勝ち取りたくて」という強い思いで臨んだ、千秋楽の土俵。負ければ優勝決定戦の可能性が出てくるが、足のことを考えれば何番も取るというのは想定したくないところで、本割で勝って決める、というイメージだけを持って臨んだはずだ。
 
この日の相手は突き押しの豪ノ山。強烈な突進力が武器の相手だが、むしろそこに一縷の望みはあった。立ち合いの当たり負けだけを全力で防ぎ、組み止めることができれば……、という作戦を描ける相手だったからだ。
 
そして立ち合い。この日は頭を下げずに、張り差し、左差し、右で抱える形を目指した。右足は踏み込むというより、ちょっと浮かせる感じではあったが、それでも左で踏ん張り、しっかりと当たった。豪ノ山のほうは、おそらく手負いの相手がどんな立ち合いをしてくるかわからず、逆に全力ではぶつかりにくい面もあったのだろう、尊富士の狙いどおりに、左が入り、右を抱える形になった。いつもならここから右おっつけにいくが、右の踏ん張りがきかないこの日は廻し狙い。左下手、右上手の順でつかむと、一気に寄って出た。
 
土俵際、右の上手が切れてバンザイになり、残されたが、ここで強引に体を預けず、左下手投げからいったん体勢を整えたのも冷静だった。右から相手の体を起こすと今度は胸を突いて出て、押し倒しで勝負を決めた。

「自分を信じて土俵に上がりました」。その気持ちでつかみ取り、ついに110年ぶりの快挙が成った。ちなみにこの時の両國も前場所十両優勝に当たる成績を残しており、それに続いて幕内優勝を達成したというケースも、それ以来だ。そしてこの尊富士、番付についてまだ9場所目だというところがまたすごい。もちろん優勝制度ができて以来最速のスピードだ。もう一つ言うと、番付についてからここまでの尊富士の通算成績は69勝10敗。なんとプロに入ってから、まだ10回しか負けたことがないのだ。ちなみに1場所で3敗以上したことはまだない。
 
そんな記録ずくめの優勝だけに、場所の途中までは、「達成されたときにはさぞや“やった、やった!”という気持ちになるのだろうな」と思っていたが、きのうのケガがあっただけに、こうして実際に達成されてみると、「これでよかったんだよな」という、なにかホッとしたような感じがするのが正直なところだ。
 
最後まで可能性を残していた大の里は「ザンバラ髪力士の優勝」のチャンスを逃すことになったが、まあいいだろう。この力士の初優勝は、やはり棚ボタみたいなものではなく、スカッと格好のいいものであってほしい気がする。そしてそのチャンスも、遠からず来るに違いない。
 
ともあれ、尊富士のこの場所の気持ちの強さと、新入幕とは思えない、鋭く、かつうまい相撲は素晴らしかった。「記録も大事ですけど、皆さんの記憶に一つでも残りたくて、必死で頑張りました」と尊富士は語ったが、この場所の記憶を脳裏にとどめておかない相撲ファンは、ただ一人としていないことだろう。

文=藤本泰祐

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