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2024-03-19

【相撲編集部が選ぶ春場所10日目の一番】低い、速い、強い! 尊富士、大の里も撃破し、後続との差を2に広げる

尊富士は大の里にも当たり勝って、最後は押し出しで全勝キープ。後続との差を星2つに広げた

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尊富士(押し出し)大の里

勝ったのは、新入幕力士のほうだった。
 
全勝で走るちょんまげの新入幕尊富士と、1敗で追うザンバラ髪の入幕2場所目の大の里の新世代対決。注目の激突は尊富士に軍配が挙がった。
 
立ち合い。大の里は右胸から当たる形でいったが、尊富士の低さと速さが勝った。さすがにこれまでと違って尊富士も少しは起こされたが、次の攻めが速い。右はハズ押しから差し込み、左も一瞬はじき合った後、浅くのぞかせた。勢いに押された大の里はとっさに右に回って上手に手を掛ける。
 
ここで一瞬、尊富士は左ヒザがグラっときたが、そこは稽古十分、すぐに右足を送ってついていった。大の里は逆転を狙って右からの上手投げ。これで勝負に持ち込んだのもさすがの反応だが、尊富士は飛ばされながらも左足を相手が軸足として踏ん張る右足に当てにいくという、それ以上にすごい反応を見せながら押し出した。鋭く、そして速い。尊富士の“アスリート能力”がいかんなく発揮された一番だった。

「ダメですね。集中しきれなかった。立ち合いから相手ペースだった。相手にいろいろタイミング、先手を取られた。今までどおりいけばよかった。楽して勝とうとしてしまった。最低な相撲を取った」と、決戦に敗れ、さすがの大の里も口をついて出るのは反省の弁ばかり。最後は「残り5日が大事。思い切っていく」と前を向いたが、上位戦はこれから。勝ち残っていくためには、まだまだこの1敗でへこたれてはいられない。
 
この日、2敗組では琴ノ若は王鵬との「サラブレッド対決」に快勝したが、貴景勝は大栄翔に突き落とされてカド番脱出お預け、湘南乃海も髙安に敗れて3敗に後退し、全勝尊富士を追う2敗組は琴ノ若と大の里の2人、さらに3敗で6人が追う形に。トップと2番手に2差がつき、優勝争いは完全に、「他の力士がどこまで尊富士を引きずり降ろせるか」という形になってきた。
 
尊富士はこの日も「気分は変わらないです」と、相変わらずの落ち着きぶり。今後へ向けても「上の方たちばかりなので、向かっていく気持ちでやりたい」と、星勘定に左右されず、チャレンジャー精神でいくことを誓った。
 
あすはいよいよ琴ノ若が対戦。琴ノ若は後半戦に入って攻める相撲が目立つようになり、グイグイ調子を上げてきているだけに、星勘定から言っても、調子から言っても、尊富士にとっては「今場所最強の刺客」だ。言い換えれば“番付の権威は守られるべき”と考える向きにとっては最大の希望と言ってもいいだろう。逆に尊富士からすれば、この壁を破れるようなら、新入幕優勝への視界が一気に広がることになる。
 
大きく、柔らかく、受けの強さでは現在の角界でもナンバーワンと言っていい琴ノ若が、無敵の速さと低さでついに大の里まで圧倒してきた尊富士の立ち合いを受けて、果たしてさばき切ることができるか。最強の鉾と盾の対決は、この日の新世代対決に続き、早くも今場所のハイライトとなるかもしれない。
 
もはやこの状況となってしまっては、今後の割の組み方としては、あすの琴ノ若以下、今後、尊富士に対しては、優勝の可能性ある限り、星の近い者から上位力士が順番に受けて立つ、という形にならざるを得ないだろう。それが、もし歴史的な新入幕優勝が果たされた場合、その価値を最も高いものにすると思われるからだ。
 
琴ノ若を含め、尊富士にストップを掛ける壁となれる可能性を持つ力士はあと5人。これを、「まだ5人もいる」とみるか、「もう5人しかいない」とみるか。この日の尊富士の相撲を見る限り、「もう5人しか……」のような気がするが、どうだろうか。

文=藤本泰祐

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