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2024-03-21

【相撲編集部が選ぶ春場所12日目の一番】尊富士、豊昇龍に投げられ、ついに土。それでも2番手との2差は変わらず

尊富士は豊昇龍の小手投げに敗れ、ついに土。ただ2番手との2差は変わらず、精神的に崩れることさえなければ逃げ切りの可能性は十分だ

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豊昇龍(小手投げ)尊富士

「もしかしたら、15日間白星街道を走り切ってしまうのでは?」という感じさえ漂わせていた尊富士に、ついに黒星がついた。

止めてみせたのは大関の豊昇龍だ。さすがに「対戦を待っていた」と言うだけのことはある。尊富士をぶん投げて土俵下まで転がし、大関の力と、幕内で長く取っている力士の意地を見せつけた。
 
立ち合いは、この日も尊富士が先手を取ったように見えた。いつものように低く当たると、その勢いを生かして攻めた。
 
対して豊昇龍は、少し右にズレながら、左差しを狙うような立ち合い。右からおっつけて出る尊富士にとっては、“おあつらえ向き”のようにも見えた。尊富士は当然のように、「ここが勝負」とおっつけながら前に出る。
 
しかしこれは、もしかしたらワナだったのかもしれない。豊昇龍はすぐに次の手を用意していた。右に回りながらの投げだ。探った右上手には手が掛からなかったが、右で相手の左を抱え込んだ。尊富士は一気に出てきたが、豊昇龍が右へ回る動きは速く、体は十分に密着していなかった。右からの投げ一発にかけていた豊昇龍は相手が密着してないところを利用して腰を低く入れ、一瞬尊富士の腰を乗せると、強引に投げ飛ばした。尊富士は向こう正面土俵に転がり、そのまま土俵下へと落ちていった。
 
立ち合い直後の右に回っての投げは、ある程度、可能性として考えられるものではあった。最近の豊昇龍は、自分から投げを打つときは左足を軸にすることのほうが圧倒的に多い。尊富士としても予想の範囲内ではあったかもしれないが、右のおっつけがハマり、体が反応して、やや密着度が不十分なまま出てしまった、というところなのだろう。花道を下がるときには、ちょっと首をひねるような姿があった。

「見てのとおりという感じです。(自分の立ち合いは)できたんですけど、(豊昇龍は)速いという感じでした」とは取組後の尊富士。かくしてついに1敗となった。しかし、ただ一人2敗で追っていた大の里も結びで琴ノ若に敗れて3敗に後退。尊富士は依然として2番手グループ(豊昇龍、琴ノ若、大の里、豪ノ山)とは2差で残り3日ということになった。

優勝争いは依然、尊富士が絶対有利という状況だ。ここからの対戦相手は、あすは若元春が確定。残りは優勝圏内にいれば豪ノ山が有力、あと1人は状況次第で、果たしてだれか? という感じだが、3連敗する可能性がそう高いとは思えず、あっても1勝2敗のような気もする。
 
対して3敗勢は、もちろん実力的には、豊昇龍と琴ノ若の大関戦の勝者が追う一番手にはなろうが、豊昇龍は3敗勢の残り3人誰とも対戦しておらず、豪ノ山も自力で尊富士との差を詰めるチャンスは残すが、あすが豊昇龍戦で、さらに琴ノ若とも当たっていないなど、3敗勢同士のつぶし合いがこのあとあり得る。豊昇龍と当たっていない大の里を含め、残り3日を全勝するのは誰にとってもなかなかの難題だ。
 
尊富士としては、いよいよ優勝が目の前に見えてきたり、あすの結果で1差に迫られる展開になったりして、いままでまったく波風の立たなかった精神状態に変化が出てしまって星を崩す、という状況を招かない限り、新入幕優勝の可能性は高い。

「(緊張は)ないです。あしたからも変わらないよう、自分の相撲を取るだけです。まだ終わっていないので、切り替えてやるしかない」と尊富士。これまでと比べると多少、自らに言い聞かせるような言い方に変わってきているような気がしないでもないが、気持ちをコントロールして走り抜けられるか。
 
新入幕の初日からの連勝記録と、全勝優勝の夢はストップしたが、110年ぶりの新入幕優勝、しかも番付についてから9場所目の優勝という快挙の可能性はまだまだ十分。3敗同士の対戦が組まれたため、あすの優勝決定の可能性はなくなったが、歴史的快挙はもう手の届くところまで来ている。

文=藤本泰祐

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