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2024-03-22

【相撲編集部が選ぶ春場所13日目の一番】尊富士、前日の負けも影響なし。若元春を破って歴史的快挙に王手!

左四つの形から、若元春に形を作られる前に動いて攻め切った尊富士。うまい相撲でいよいよ歴史的快挙に王手をかけた

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尊富士(寄り切り)若元春

「とにかく早く寝た。(前日の黒星は)急に忘れるものでもなし、かといって次の日の相撲にかかってもよくない。とにかく何も考えないで、自分を信じてできることをやろう。できなければ、しょうがない。勝ち負けのスポーツなので、やるしかない」

兄弟子の横綱照ノ富士から電話がかかってきたのを機に、気持ちを切り替えたそうだが、この切り替えの良さと割り切りが、功を奏したといえるだろう。きのう幕内で初めて喫した黒星を引きずることはなかった。
 
尊富士が白星を挙げ、進撃を再開した。しかも、途中、左四つになりながら若元春を攻め切る堂々の勝ちっぷりだ。
 
尊富士は、基本的には廻しを取らずに下から押していく取り口だが、腕の動きは、右は外からおっつけ、左は中からハズに入ることが多いので、型としては左四つと言って差し支えない。この日の相手の若元春は左四つに組めば角界トップクラスの力を持つだけに、“相四つ”の尊富士にとっては、「捕まると危ない」という危険を内包する相手だった。
 
立ち合いは、尊富士は下から左ハズ、右おっつけを狙ういつもの形、若元春は左差し狙い、右はカチ上げできた。先手で押し込んだのはやはり尊富士。しかし四つとしては、互いに左を差す形となり、若元春の狙いに近い形となった。

それでも、「少しでも止まったら絶対に勝てない。自分から動いて相手を崩して攻めようと思った」と作戦を描いていた尊富士はここからがうまかった。とにかく廻しを取り合って落ち着くような形にはさせない、とばかり、下手を探ってきた若元春の手が廻しに届く寸前に、逆側から動いた。左の差し手を返し、思い切り掬いながら振り回す。そしてできた隙間を利用して、今度は右から間髪入れずに巻き替えだ。その差し手も返して相手の体を浮かすと一気に出た。そのまま寄り切り。
 
取組後、「とにかく相手の体勢を崩して、そこから自分の相撲を取れるように、と横綱からアドバイスされた。上位陣は立ち合いだけでは通用しない。少しでも技術がないと」と語ったが、まさにそれを体現してみせた相撲だった。
 
これで1敗を守り、尊富士はいよいよ優勝に王手をかけた。ちなみにこの日の3敗組は、大の里は大栄翔を破ったが、琴ノ若はカド番脱出に必死の貴景勝に、上手が取れて安心したのか、投げにこだわる相撲で敗れて脱落。3敗同士の対戦では豊昇龍が豪ノ山を退けて、追う力士は2人に絞られた。
 
状況的には、残り2日を尊富士が連敗、3敗力士は連勝して、ようやく優勝決定戦ということになるので、ここから逆転が起こる可能性は相当に低いが、やはり追い込まれると何が起こるかわからない部分が出てくるので、尊富士としてはできれば精神的に余裕のあるあすのうちに、決めてしまいたいところだろう。
 
あすは、三役復帰を確実にしたい元大関の朝乃山が相手。今度はケンカ四つの相手で、右差しを許さず、かつ、この日同様に落ち着いた形を作られる前に攻め切れるか、がテーマとなる。
 
さあいよいよ、あした勝ちさえすれば優勝。新入幕優勝は110年ぶりのことなので、見守るファンにとっても、おそらくは一生に一度しか見られない瞬間になる。

文=藤本泰祐

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