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2024-06-07

【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第20回「予兆」その1

平成25年4月14日、水戸巡業で29歳の誕生日を迎えた日馬富士。報道陣から贈られたケーキを手にニッコリ

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やっぱり新型コロナ禍のせいでしょうか。
それとも単なる偶然か。
最近は、まったく先が読めなくなりましたね。
たとえば優勝力士です。
令和2年秋場所、正代が優勝するって、誰が予想しましたか。
その前の照ノ富士も、そうです。
でも、勝負の世界に生きる力士たちの第五感というか、
察知能力はたいへんなものです。
多くの力士たちがいち早く変化の兆しを感じ取り、その対処法を講じます。
そうしないと、生き馬の目を抜くこの世界では生き残れないんですね。
そんな兆しや予感にまつわるエピソードです。

酒で衰えを予感
 
どんな名力士、大力士だって、永遠に土俵に上がり続けることはできない。みんな、いつかは引退する。いや、しなければいけない。だから、年齢や老いに対しては、人一倍、敏感だ。
 
ちょうど茨城県水戸市で春巡業が行われていた平成25(2013)年4月14日、日馬富士は満29歳の誕生日を迎えた。誕生日にケーキは付きものだ。担当のカメラマンたちはろうそくを吹き消すシーンを撮りたいためにケーキをプレゼントするのが恒例になっている。
 
この日も、お決まりのケーキが差し入れられ、ご機嫌でポーズをとった日馬富士は、

「29歳は、アスリートにとってもう終盤、という感じがする。若いときはもう戻ってこないので、これからは一日、一日を大切にして、(今年は)素晴らしい年にしたい」
 
と優等生の抱負を述べたあと、ポツリとこう言った。

「最近、お酒を飲むと次の日がしんどくなった。20代の前半に比べると、疲れも取れにくいんだ」
 
後年、お酒がからんで引退に追い込まれた日馬富士らしい年齢の測り方だったが、老いや時代の推移に関して独特の感覚を持っていたのは確かだ。
 
この4年後の平成29年名古屋場所9日目、日馬富士は東前頭4枚目の初顔だった軽量の宇良に土俵際まで攻め込んだものの、右手を引っ張り込まれてとったりで敗れ、金星を献上した。宇良にとっては初金星で、初土俵から15場所目の金星は史上2位タイのスピード獲得。日本人力士としては最速タイだった。取組後、NHKのヒーローインタビュー・ルームに呼ばれた宇良は、

「(勝因は)ちょっと分からない。信じられない」
 
と言うと、感激のあまり目頭を抑えて大粒の涙をこぼした。対照的に不覚をとった日馬富士は淡々としたもの。

「こうやって若い世代がドンドン出てくるんだね。これは時代が変わる兆しかもしれない」
 
と何か悟ったような言葉を残し、急ぎ足で引き揚げていった。土俵外のトラブルが原因だったが、日馬富士が土俵を去ったのはこの2場所後の11月のことだった。

月刊『相撲』令和2年11月号掲載

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