close

2019-03-29

ONE Championship日本代表取締役社長秦 アンディ英之インタビュー ONEには日本のスポーツを変える力がある

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • line

――ONE本体には、かなりの優良企業がスポンサーシップを組んでいます。

 日本独特の格闘技の歴史が、それを妨げている要素は存在します。それを1つ1つ丁寧に伝えていく。それがすごく重要だと思います。慌ててやるのではなく、一緒になって新時代を作る。ONEが考えている理念の重みや考え方を理解していただいたうえで、一緒になってパートナーシップを組む。これは、すごく大事なポイントです。

――ONEはこの先はどこに向かって、どのように発展していこうとしているのでしょうか。これからまだまだ発展していくと思うのですが、最終的な到達点、ゴールをどのように設定しているのでしょうか。

 いくつかあります。競技的にはまだまだ未開拓な地域があります。発展につながるための広がりを、アジアでは日本、韓国、中国。それ以外にインドに求めています。アメリカと提携してターナースポーツと契約しました。放送から入り、そこから広げていくという点では、まだまだ道半ばですが、これから加速していきます。

 もう1つは、原理原則としてスポーツの本質、アジアの武道の精神を伝えていくうえで、それに賛同するファイターが、アスリートが集まってくる。USCからだったり、日本の団体からだったり、どんどんどんどん集まってくる。供給体制の地盤をつくることによってスポーツの発展につながっていく。日本の地場産業を確立させる一方で、世界の最適な場を提供する。

 競技性のあるファイトもそうですが、Eスポーツにも投資しました。最高のエンターテインメントを提供するメディアプラットフォームとして進化し続けるのは間違いないですね。

――勉強になることばかりです。秦さん自身はアメリカンフットボールをされていました。

 そうです。でも、今思えば、格闘技には小さいときから影響を受けていました。フィラデルフィアで育ったのですが、土地柄、何を見て育ったかといえば『ロッキー』です。あと『カラテキッド』も。日本では『ベストキッド』ですね。幼少の頃はそういうものを見ていました。 

 アメフトはDOのほうでは学びましたが、知的なほうは、武道の精神、格闘技の精神から得ているなと思います。その延長でいえば、アメフトも、格闘技であります。所属していた明治大学のアメリカンフットボール部は、武道の精神が思い切り入り込んでいる部でしたから、格闘技の世界にいても違和感はないです。現場に行っても、明大アメフト部の恩師の野崎(和夫)監督の考え方に近い。精神論もそうですし、経験値からいっても、なんら違和感はありません。

 ONEの日本の代表を引き受けるもう1つの要素として、日本が直面しているアマチュアスポーツの課題がありました。大きく報道された日大の危険タックル問題であったり、そのあとのボクシングの問題であったり…。一部の人しか入れないような世界がたくさん存在しているわけです。

 より透明性が求められる時代に変わってきているからこそ、スポーツ界全体が変わるべきだと思うようになりました。 

 昨年の日大問題で、自分自身がアメフトでお世話になったこともあり、メディアにでる機会が急に増えました。そのときに、スポーツ界が抱える課題を体感させられました。その経験がなければ、今回の話は受けていないかもしれない、それくらい多大な影響を与えられました。

 変わるべき時代がきた。あのときにその気持ちが染みつきました。今でもいくつかの問題は続いています。そういった意味では、ONEを通じてスポーツのいい流れを日本に持ち込んで、それを伝えていく必要性を感じています。

――ONEは黒船的なイメージでした。日本のは、上から、日本マーケットに網をかけるぞというように感じていた格闘技系の人たちは多かったように思われます。

 多いと思います。そこが我々の重要なスタンスであり、ONEの理念をしっかり伝えていく必要を感じています。あとは、しっかりお互いが伸びるような仕組みをもたらすことがすごく大事だと思います。

 伝統が崩れるときと似ているのですが、古いしきたりが一人歩きして、システム上、稼働しなくなると、がたっと落ちるわけです。そこに新しいアイデア、イノベーションが必要になる。イノベーションがONEであり、それを現場に落とし込んでいくことは、我々日本側の手腕にかかわってきます。突破口は、需要をしっかり理解すること。現場ならではのとらえ方、伝え方、価値の作り方が必要です。そこは、ソニー時代に徹底して学びました。

 ソニーだけではありませんが、世界に通じる組織の1つの特徴です。なぜ、あの団体が世界にでていけるか、ソニーなどの企業と国際サッカー連盟(FIFA)などには非常に似ている要素があります。

 大事なベースは共通化しているのですが、必ず現地化できる仕組みをもっている。現地をしっかりとらえている。ソニー時代でもFIFA時代も、共通していましたね。その国々で尊重される要素をちゃんと備えている。人であったり、捉え方であったり…。肝心のDNAのベースを守っている。ソニーでいえば、四文字の「SONY」というブランドと、モノづくりの魂は共通にありましたけど、例えば、アメリカでのやり方と、中国でのやり方は違う。精神は一緒ですがやり方は違う。

 日本の企業だからではなく、グローバル化に成功している組織にはそれを感じます。アメリカ系の団体がグローバル化に弱いのは実はそこだと思います。成功しているNBAはそこを一歩抜けた。中国にいってヤオ・ミンを育てて、中国で地場の活動をしていた。

 日本の歴史を見ても、なかなか欧米のプロスポーツ団体が定着していないのは、乖離しているからです。プロ野球が成功した背景には、1930年代にベーブルースが来て、それを継承していったからです。NFL、NHL、NBAが日本に来て、日本のプロのスキームを地場でつくれたかというとできていません。空洞化しています。

――修斗の代表の坂本一弘さんにお話をうかがったときに、チャトリCEOの話になって、この業界にない人、会ったことがない人だと。予測していることと、全然違うことがぽんと返ってくる。おっしゃっているのは当たり前の話ですが、格闘技に関しては、そういう発想がなかった、と。

 コシステムもそうですし、それに関連するWIN WINの仕組みを作っていかないといけません。日本のスポーツ界全体にいえることなのですが、お金を出す側と出される側のバランスが偏っている。日本のスポーツ界が発展するためには、このバランスをしっかり改善しないといけない。

 今、実は重要な時期にきています。今年のラグビーワールドカップ、2020オリンピック・パラリンピック、2021ワールドマスターズを入れたら、3年連続で世界のスポーツの起爆剤が日本に入っているわけです。これをどうとらえるか。スポーツインフラはもちろん、スポーツを支えるスキームが必要です。

 2015年にスポーツ庁ができて、スポーツを総体的に抱えることになりました。今年、日本版NCAAと言われるUNIVAS(一般社団法人大学スポーツ協会)ができた。大学スポーツを組織化して徐々に見える化する部分はありますが、まだまだ加速させないと、あっという間に時間がすぎてしまう。それは、チャンスでもあり、リスクでもある。

 チャトリに時代を変えるトップの人を重ねています。私は残念ながら、ソニーの盛田(昭夫)さん、井深(大)さんとは接点をもてませんでした。近代社会で、三木谷(浩史)さんや孫(正義)さんもしかり、経営のトップの方々、一時代をつくった方々と似ている部分はあります。

 ポジティブな要素をみんなでどう広げていくか、関係する人たちのパワーをどう生かしていくか。発展的な発想につなげられるか。進化につなげられるか。いい点をつなげていって、線にして、面にしていくという広がりをつくっていきたい。

 ただ、1つの団体では限界があるので、パートナーシップとか、連携が今まで以上に大事です。日本の場合は10年、20年前に比べて、少子化という現実がある。商売の原理からして下降は避けられない。地方では過疎化も広がっています。

 そういった意味では、発想を切り替えて、次世代に残していくためには何が最適か。勇気をもって受け入れることが大事です。乗っ取られるというネガティブな部分ではなく、一緒になって発展するというポジティブな要素として次世代につないでいく。それをやるべきタイミングにきているのかなと思います。

――期待しています。ありがとうございました。

はた・あんでぃ・ひでゆき
1972年生まれ。アメリカのフィラデルフィアで育つ。明治大学卒。大学卒業後、 ソニー株式会社で働く傍ら、アメリカンフットボール選手としてアサヒビールシル バースターで日本一を経験。同社に2012年まで在籍し、FIFAとのトップパートナー シップ等、全世界を束ねるグローバル戦略の構築を担当。2010年FIFAワールドカッ プをはじめ、数々のFIFA大会を絡めた活動を推進。ワールドワイドで展開するスポー ツデータリサーチ会社であるニールセンスポーツの日本法人の代表を経て、2019 年1月にONE チャンピオンシップ・ジャパンの社長に就任した。

PICK UP注目の記事

PICK UP注目の記事