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2025-01-19

【相撲編集部が選ぶ初場所8日目の一番】自力V消滅し、もう負けられぬ⁉ 豊昇龍、綱取りへ痛すぎる2敗目

元大関の正代を攻めきれず、押し倒されて豊昇龍は2敗目。綱取りへ向けて、痛すぎる黒星となった

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正代(押し倒し)豊昇龍

きのうははっきり見えたかに思えた「横綱ロード」は、たった一日にしてかすんでしまった。しかも今度は、前より深い霧の中に入ってしまったようだ。
 
今場所、綱取りをかける豊昇龍が、痛すぎる2敗目を喫した。
 
倒したのは正代。正代は立ち合い胸を出すように立ってくる力士なので、素人考えでは、このところ突っ張りを身につけて武器にするようになった豊昇龍にはむしろ攻めやすい相手なのでは? とも思えたが、どっこいそうではないところが、相撲の難しさであり奥深さ、そして正代の元大関の実力、ということだろう。
 
立ち合いは、予想どおり、鋭く当たった豊昇龍が突いて出て先手を取った。だが、上体を起こされながらも腰は崩されず、かつ俵に足が掛かるところまでいかずにはね返せるのが元大関の強さだ。「右からズラしたと思うんで、それがよかった」(正代)というとおり、動きの中で右手が相手の脇の下に入り、それをグイッと左に払っただけで、大関が横を向いたような状態になった。正代がすかさず突くと、一瞬腰が入りかけたようになり、大関の体勢が崩れる。その後も組みにいかずに「しっかり相手を正面に置けたんじゃないですか」と本人も言う冷静な押しで、正代が豊昇龍をそのまま押し倒した。
 
かくして豊昇龍は2敗目。この日はきのうまでの全勝2人のうち、千代翔馬に土がついたが、金峰山は玉鷲との激しい押し合い、動き合いを制して8連勝でストレート給金を決めた。きのうまでの1敗組では王鵬と玉鷲が敗れ、千代翔馬と尊富士の2人が1敗、2敗は豊昇龍、大栄翔、王鵬という情勢となった。
 
豊昇龍にとって、この2敗目は二つの意味で痛い。一つには、綱取りへの条件である優勝に向け、自力優勝のチャンスを失ったことだ。先頭を行く金峰山がどこかで負けてくれなければ自分の力だけでは綱は取れなくなった。あす、金峰山-尊富士戦があるので、金峰山が敗れてすぐに自力Vが復活する可能性もあるが、そうなったらなったで、今度は尊富士もV争いの対抗馬として浮上してくることになるので、この2人ともを倒さないと綱はない、ということになる。
 
そしてもう一つは、星勘定の緊迫だ。もちろん残り7日間全勝して逆転優勝、ということになれば、まあ綱取り気運は間違いなく盛り上がると思うが、残りさらに1敗して12勝3敗となった場合は、よしんば優勝できたとしても、昇進については議論が巻き起こることは必至。こう考えると、後半戦は豊昇龍にとって「もう1敗もできない」という状況になり、そのあたりが気持ちの上で影響をもたらす可能性は出てくるだろう。
 
ということで、あまりにもマッチポンプ的で申し訳ないが、きのうまでは50パーセント以上あるかと思われた豊昇龍の綱取りの可能性、残念ながらそのラインは割り込んでしまった、と見るのが妥当だろう。もちろんまだ可能性はそれなりに残されているので、今後状況が変わることもあり得るが、この日の豊昇龍、そして中日にようやく3勝目という今場所の琴櫻を見ていると、綱への道の険しさを、改めて見せつけられる思いがする。
 
この日、昼には来年6月にパリ公演が行われる、という会見があり、「横綱土俵入りを見せたいですね」という質問に、八角理事長(元横綱北勝海)が「(それまでに)立派な横綱ができると思いますよ」と答えていたが、さてどうなるか。来夏までは1年半あるので、そこまで横綱がいない状態が続く可能性は低いとは思うが、そこで綱を締めているのが、豊昇龍なのか、琴櫻なのか、あるいは大の里なのか、はたまた別の誰かなのかは、ちょっとわからなくなってきた。 

文=藤本泰祐

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