2023年に開催された第1回「D GENERATIONS CUP」で優勝を果たしながら2年ぶりにエントリーした正田壮史は、もっとも短いキャリアながら圧倒的な強さで全勝を遂げ、優勝戦にコマを進めた。現役大学生でもある23歳の若者は先輩たちの中でどんな思考のもとプロレスを続けているのか。2度目の優勝を目指す理由と、その先に在るものをお聞きいただきたい。(聞き手・鈴木健.txt)
僕はベルトに挑戦する恐怖さえも背負って生きていかないといけない ――高鹿佑也選手と二人で出席した記者会見によって、一昨年以上の注目度であることを実感したのではと思われます。
正田 そうですね。2年前の時と比べて試合もそれ以外の部分でも、全体的に大会の価値が上がったなとは思いました。SNSの反応もそうですし、あとは自分で自分の試合だけでなくほかの人の去年や一昨年の試合を見直してもそれは明らかだし。それこそが僕の目指していた形であって。2年前はただガムシャラにいって、ただ勝ちたいという気持ちだけでやっていたのが、今回はそれももちろんとしてD GENERATIONS CUPという大会自体を上げたいというのもあった。どうやったら参加選手全員を強くさせられるかというイメージで臨んだんです。
――一番キャリアが浅い立場でありながら全体を考えていたんですか。
正田 めっちゃ生意気なんですけど。
――いやいや、いいと思います。
正田 一人も不完全燃焼で終わったとならないようにっていうのがあったので、それもできたと思いました。これがKING OF DDTやD王GPだったら、テイストも変わっていたと思うんです。もっと俺が俺が!ってなっていただろうし、先輩に勝ちたい!ってなったと思うんですけど、一度優勝しているからこのまま同じようにガムシャラに勝ちにいったところで満足感は得られるかもしれないけど、見ている人たちはなんか前回と一緒やなって思うだろうし。僕自身もそこで自分の中に変化をつけないといけないという意識があったんで。闘う時もそういうことをイメージしていました。
――一度優勝した人間だからこそ、何をモチベーションにして臨むのかというのは気になっていました。
正田 そこでしたね。あとは毎年、優勝したら与えられるものが変わっているのも面白いなと思いました。 僕が優勝した時はアメリカ大会への出場権で、その翌年はKING OF DDT出場権、そして今回はKO-D無差別級挑戦権と、そういうので頑張れたっていうのはあります。
――リーグ戦中は、結果的にも全勝ということもあってXでも自信にあふれた内容をポストしまくっていました。
正田 実際に自信を持っていけたんで。一度優勝した人間としてレベルが違うところ、格が違うところを生意気にも見せなければいけないと思ったので、上から目線でいったところはあります。
――意図的に自分をそう仕向けた?
正田 それもあるし、奥底に潜む内心的なものもあるかもしれないです。確実なのは、みんなと同じベクトルではなかったと思うんですよ。たとえば同じブロックの中村さんや石田さんは今まで負けて悔しい、だから絶対に勝ち上がるんだというようにマイナスからプラスに上がるイメージだったと思うんです。でも僕はもう、勝っているから上の状態なんですよ。そこからわざわざ悔しい思いをして下る必要はないと思っていたんで、最初から君たちとは違う、もっと上にいくよっていうのを見せたかった。それもあって必然的に上から目線になったんでしょうね。
――それを言えるのが勝っている人間の特権ですから、悪いことではないです。ただ、優勝戦に関しては先に高鹿選手の話を聞いたのですが、相当強い意志を持って臨むというのが伝わってきました。
正田 なんて言っていました? それは内緒ですか。
――後輩にナメられたくないとは言っていました。
正田 そこは、こんなに老けているけど一番下の僕にはまだわからない感情ですね。でも、そういう気持ちで先輩から来られるのは僕からすれば誇らしいです。普通は僕が先輩に勝つためにやるところが、スタンスを逆転させられている状況ということですからプロレスラーとしてはしてやったりだし、その時点で僕の方が勝っているって思えますね。前回負けて悔しいから今年はやりますっていうのは、僕が思うに負けますよって言っているようなものになる。そこはBブロックを勝ち上がってきたんだから自信を持ってもらいたい。
――自信も口にしていました。今の自分はこれまでとは違うという手応えがあると。
正田 初戦で須見に負けたとはいえ、両国であれほど悔しい思いをさせられたTo-yさんにリーグ戦で勝ったんだから高鹿さんの方が上から目線で来てもいいぐらいだって、今聞いて思いましたね。そういう僕自身もネガティブな方で、優勝してクリスのベルトに挑戦するってなったらかなりネガティブな発言が多くなるとは思うんですけど。
――そうなんですか。
正田 それこそ自分に自信がないんで。でもここまでは自信が持てているのは自分が積み重ねてきた結果なんで。前回優勝して、今回も全勝でここまで上がってきたからこその自信ですよね。そこは高鹿さんも同じのようなので、今までより上の状態でぶつかり合えるはずなんですよ。高鹿さんが下から突き上げるように話したというのであれば、僕はそれを振り落とす立場。その意味で、今の時点で僕が勝っています。
――後楽園でのシングルメインは、昨年のKING OF DDT1回戦で経験しています。
正田 クリスとやった時は緊張しましたけど、今回のDGCの中で緊張することなくここまで来られたんで、後楽園のメインも同じメンタルの状態でいけそうだなっていうのはあります。ただ、驚いたのは間違いないです。しかもそれを僕は聞き逃したんですよ。
――どういうことですか。
正田 いや、ただ定型文のような形式的なことを読み上げているだけだと思ってボーッとしていたら、なんか隣で高鹿さんが驚いていたんで司会の小菅(リングアナ)さんに聞いたらメインだよって言われて、知らんかったー!って。
――驚きにラグがあったと。
正田 でも嬉しいですよね。最初からメインでやると決まっていたのかもしれないですけど、僕が思うに今回目標に掲げていた“僕らの最高”を更新することを達成できたかなっていうのがあります。もちろん、優勝戦に勝って初めて大成功となるんですけど、メインになった時点で上がったなと。一昨年は確か第4試合で、いわゆるザ・若手の闘いという感じだった。ネガティブな人間の僕でも、公式戦の3試合がよほどよかったからこうなったって自信にしますよ。
――全体で上がるという意味では、優勝戦が後楽園のメインになったのが確かにその答えですよね。先ほどからネガティブって言っていますが、正田選手はそんなにネガティブなんですか。
正田 今日は珍しくポジティブに喋っていますけど、このままベルトに挑戦ってなったらネガティブになります。
――どうしてですか。
正田 自分に自信がないので。だから、今回(リーグ戦)の方が不思議なんです。おそらく、普段から一緒に切磋琢磨している仲間だからこそちょっと安心している部分もあるのかなっていうのと、完全燃焼で勝っているのが大きいと思います。自分が勝ちたいだけでなく、こうやりたいというのもうまく試合の中でできたんで、それで今の時点では自信になっている。
――このキャリアでこれほどの場数を踏んできて、チャンスもたくさんもらって来たにもかかわらず、ネガティブになるものなんですか。
正田 でもそれは落ち着いて考えてみると、場数を踏んだからこそ今まで闘ってきた先輩とのギャップがすごすぎて自分に足りないもの、できないことが見えてしまい絶望している自分がいるからこそ、ネガティブになっているんですよ。
――優勝するのは自信があるのに、そのあとのことは自信がないというのも…。
正田 これで自分がKO-D無差別級に挑戦するってなったら、周りからいろいろ言われるのは確実だからそれが怖い。なんなら会見の時も、僕の言っていることが刺さらなかったとクリスに言われたし。それを真に受けて落ち込むんですけど(と言いつつ笑っている)。ベルトに挑戦すること自体が今まであまりいい思い出はないんで。KO-Dタッグも獲ったけど自分は何もできないまま終わっちゃったし、UNIVERSALのチャンピオンシップもMAOさんにすぐ負けてしまってボロクソ言われて…恐怖心しか残っていない。その恐怖って、ほかのリーグ戦に出たメンバーは味わっていないんですよ。
――悔しさはあっても、恐怖まではそうかもしれません。
正田 あれはやった人間じゃないとわからないですよ。でも、ここまで勝ち上がってきたということは、その恐怖さえも背負って生きていかないといけないんです。
――23歳でもう背負って生きていくものがある!
正田 ほかのメンバーにはまだその恐怖を背負う力がないと思う。誰かが優勝しても、チャンピオンシップをやった時にその重圧に負けて、ありきたりなことなっちゃって、つまりはクリスの試合になっちゃうでしょう。それは僕がKING OF DDTやUNIVERSALタイトルマッチの時にそうでした。どれも僕の試合じゃないんです。だけど今回のDGCは僕の試合ができた気がするんですよ。 自分のやりたいように相手を操ることができて、その上で勝ったからこそ僕には恐怖を背負う覚悟があるんです。逆に考えると、彼らとはそこが違うから優勝戦に上がれたのかなと思います。
――あの時に味わった恐怖がプラスに作用したと。
正田 そうですね。僕が苦手なだけなのかもしれないですけど、若手が何かへ挑戦するためにガムシャラにいって、ガムシャラに負けるというのがあまり得意じゃなくて。
武道における守破離をプロレスでも。“ゼロイチ”にあこがれがあるんです ――そういうのに得意とか不得意とかあるものなんですか。
正田 叫んだりするのが苦手で。
――物事を俯瞰で見てしまうんですかね。
正田 どうなんですかねえ。僕がそういう試合を見たいと思わないっていうのもあるんですけど。たとえばほかの若手がクリスと闘ったら絶対そういう試合になるし、見る方も求めると思うんですよ。ただ、それはKO-D無差別級のチャンピオンシップじゃなくてもいいわけじゃないですか。
――通常のシングルマッチでもそういう試合になるでしょうね。
正田 その方がいいものになるというイメージが、クリスの中にあればそれが正解なんでしょうけど、僕の中ではガムシャラにいくっていうのが無差別級戦に値するのかなっていう疑問があるんですね。だからそういう若手らしい動きを僕は優勝戦でナシにしてやります。それでも若手らしいバチバチとしたものを求められるとは思いますけど。
――でしょうね、そういう場ですから。今までも若手のバチバチした闘いをやっている自覚はないんですか。
正田 それこそ2年前のDGCがそうでした。ただひたすらガムシャラにぶつかっていった結果、負けたら悔しい、勝ったらよっしゃ!みたいな。今はそうじゃない。仮にそういうスタンスでいったら自分が負けると思います。To-yさんはできているなって思います。ガムシャラにやってもその先を考えているなって感じがするんです。ほかの人たちは元気よくぶつかっていって勝利を獲る、そこしかないんですよ。そこを一歩抜けないと、たとえ優勝してもベルトに挑戦するってなった時に何かが足りないってなって、結局はボコボコに言われて落ち込んじゃうだけなんで。それを僕も学んだんでここまで上から目線でいくし、若手らしくないことをしたいって思っちゃうんです。
――優勝したら同じユニットの人間との無差別級戦になります。クリス・ブルックスを至近距離から見ていてどう映っていますか。
正田 本当に“自由”をやっているなって思いますね。それを言ったらシャーデンの全員がそうなんですけど。クリスはハードコアをやったかと思えばゴムパッチンをやって、アントンさんはパッションで見せる自由さ、高梨さんは技術で見せる自由さと、各自由が集まったユニットなんですよね。シャーデンの中に自由が詰まっている。それほど自由にやれているクリスが羨ましいと思う時があるし、それを見ていて自分もやりたいことを自由にできている部分がある。前は自由にできていなかったんです。ただ、前に出て相手を倒そうと思ったら返り討ちにあって、どうやってやり返せるかを考える繰り返しだったのが、今はどうやったら楽しいかというベクトルで考えることができている。クリスの影響なんだと思います。
――もともとやりたかったことというのを具体的に言うと?
正田 練習することってストンピングであったり普通の(ボディー)スラムだったり、ブレーンバスターだったりじゃないですか。もちろんそれは大切なことなんですけど、それだけに縛られていたらなんにもならないなと思って。それであえてそういう基本の技を使わないでやってみたり。それは僕のフィーリングによる表現としてこれからも試行錯誤していくんですけど、まだ薄いとはいえある程度方向性が見えてきた気がして。でもまだ全然、怒られるんですけどね。
――怒られる?
正田 「それをやる意味がないじゃん」と。それを学ぶことで、次どうするかを考えるようになりました。今まではダメと言われたことを省いてほかをやろうとしたけど、今はやる意味を見いだすためには何をやってつなげたら効果的かを考えます。それによって、以前より自由になった気がします。
――もともとDDTを選んだのは自由を感じたからなんですよね。
正田 そうです。飯伏さんを見てプロレスに入ったんで。2015年からプロレスを見始めるまでは見ていなかったのが、飯伏さんの新日本プロレスでの試合を見たところから。それ以前のDDTに関してはまったく知らなかったですし、そこでのインプットが今の試合の中でもインスピレーションされていると思います。
――ああいうことをやりたくて入ってきた?
正田 でも、飯伏さんのようになれないことはわかっていたんで、その年代の好きなこと、カッコいいと思ったこと、自分が心を動かされたことを自分なりに試行錯誤してやれば、きっと誰かの心が動くと思ってきました。僕自身の心が動かないことをやっても、絶対にほかの人も何も思わないなと。自分の好きなことやるって、大切なんだなと思います。型にハマるのも大切なんですよ。特に僕は武道(少林寺拳法)をやっていたので、まずは基礎を身につけて、そのあとに基礎を変形させてそこから基礎を削って残ったものを自分のものにする…守破離って言うんですけど、自分の形にする順番ですね。今がその基礎を守るところから変形させるべく動いている段階と受け取っているんですけど。
――武道こそ伝統を重んじていじらないものだというイメージでしたが。
正田 でも、武道って人の骨格によっても動きが変わるんです。それほど元にあるものをそれぞれ自分に合った形に変えていくんですね。それを僕はプロレスでもやっていきたいと思っていて。どんどん教えから、自分のやりやすい方、相手に決めやすい方へ。完全に離れてまったく違うものになっているけど基礎は守れているみたいな。それが武道における一番の美学的なところとしてあったので。
――少林寺拳法をやる前は何かスポーツをやっていたんですか。
正田 バスケだけです。何も考えずに、お兄ちゃんがやっていたからやっただけなんですけど。
――何かクリエイティブなことをやりたかったんですかね。
正田 言われてみるとそうだったのかもしれないです。“ゼロイチ”にあこがれがあるんで。
何もないところから「1」を作る系ですね。
――「1」を膨らませるのではなく「0」から生み出す作業の方がいいと。
正田 プロレスの場合はほとんど「1」ができちゃっているんですけど、その中でも技の展開だったりで作っていく楽しさを、今回のDGCでも感じられました。今まではそこまで柔軟に考えられてはいなくて、いざ試合になるとこう(一直線に)集中していたけど、今は試合中も柔軟に考えることができるようにちょっとはなったかなって思えます。本当にちょっとだけですけど。
――DDTに入ってすぐの頃に「まっする」のセコンドスタッフとしてあれを見ていたじゃないですか。クリエイティブという面で影響は受けているんですか。
正田 いやあ、あの頃はもうデビューしていたんですけど考える余裕は正直、なかったです。試合を見て先輩のことを学ぶ以前にセコンド業務をちゃんとやらなければっていう方に頭が全部いっちゃっていたので、何も見えなかったですね。
――そうだったんですか。スーパー・ササダンゴ・マシン選手はDNA世代より下の若手にもああいう現場を見せたいという意図があったと思うんです。
正田 なのに脳が追いつていなかったという。でも、坂井さんってすごいッスよね。あこがれがあります。パワーポイントを見ていても、その切り口がすごいと思うことが多々ありますし、最近では上野さんとの試合のやつも感銘を受けたんです。大学生の身だからこそ、ああいうパワーポイントを作れるのはすごいなと思って。ちゃんと論点を押さえているし、かつ面白いから僕たちも集中して見てしまうんですよ。すべてが備わって…何が違うのかすらもわからないぐらいすごかったイメージです。だから、本当にここからどんどん勉強していかなあかんて思います。一発で坂井さんの思考を理解するのは不可能なんで、徐々に進めていかないと。ああいう考え方を試合でできたらもっと楽しいだろうし、柔軟にできるだろうし。自分は今見たものしかやりたくないっていう凝り固まった考え方であることを気づかされます。人間は、見たことしかできないものです。 技も見たものをやるし、表現しろって言われたら見た範囲になっちゃうと僕は思っていたんです。絵を描くにしても、昔は見ていない風景を想像して描くことって普通はできなかったのが、今は想像で描くのも可能じゃないですけ。そこは進化しているわけだけど、いきなりやれるかといったら難しい。だから徐々に徐々にやっていかないといけない。この、段階を踏むっていうことの大切さですよね。坂井さんにあこがれただけど、自分もやってみても絶対ボロが出るし、失敗する。DDTには、徐々に徐々にやっていく学びのある人たちがいっぱいいますからね。
DDTの大人たちと周波数が合っているから同年代と話が合わず友達を求めていない ――まあ、アントーニオ本多選手のように人生を学びまくれる存在が身近にいますからね。
現役の大学生という身でああいった大人たちにふれあえるこの環境はほかの学生さんが得ようと思っても得られないでしょう。
正田 みんな、ちゃんと非常識なんですよね。でも、常識もあるのが不思議で。僕の周りの同い年はみんな新入社員として働いていて、その話を聞くと当然ながら毛色がまったく違うんです。それはもちろん、仕事から全然違うものだからなんですけど、僕はこの世界が合っているなって改めて思います。経験していないからそう思うんだろうけど、サラリーマンだったりデスクワークしたりという話を聞くたびに到底自分にはできないと思うし。そんな自分が、なりたいと思った時にできると思えたのがプロレスだったんです。それはナメていたというのではなく自分のニュアンスで。そこに関しては自信を持てているんです。先輩にいろいろ言われるのもいい環境なんだと思います。自分のやりたいと思うことに対し真摯に向き合って教えてくれて、ちゃんと叱ってくれるんですから。全員が全員、なんでもプロレスにつなげようとするんですよ。それがすごいなと思って。今まで生きてきた中で、そういう思考がなかったんです。部活をしていた時も日常の景色を見て、これは少林寺拳法につながるって思いながら外の世界を見るなんてことはなかった。でも、ディーノさんとかまさにそうじゃないですか。時事ネタだったり、その時その時の世界で起きていることだったりを採り入れて、それをプロレスに昇華させて。社会に興味を持つこととプロレスが共存できているってすごいと思うんです。アントンさんのように、自分の考えをプロレスに採り入れて表現できていることにもあこがれます。アントンさんの表現の仕方って、美しいですよね。そういう人間になりたいし。ただプロレスをやる“プロレスお花畑”じゃなくて、プロレスを通じて日本人ってこんなにすごくて面白いんだっていうのを見せたいなって思い始めているんです。自分を蔑む人って、けっこう多いじゃないですか。僕もネガティブだからその一人なんですけど、今の若い世代ってそういうばかりなんですよ。口を開けば「今の日本はダメだ」とか簡単に言う。それが僕は悔しくて、どうしたらいいか常日頃考えているんですけど、そのことだけを発信しても何もならないじゃないですか。ただのプロレスラーと思われているかもしれないし、学がないと思われているかもしれない。でも、それをアントンさんのようにプロレスや思考の中へ採り入れることによって感覚を変えられる。それが目標ではあります。プロレス見て元気をもらう人がいたら、それって自信につながるじゃないですか。もっと自信を持ってもらいたいんですよ。僕もネガティブのまま死んでられへんし、簡単に言うとポジティブになってほしいんです。
――と、自分はネガティブだと言っている人間が言っています。
正田 僕自身も、まだなっていないですから。
――だいたい、二十代前半の時点でポジティブかネガティブかを意識して生きているというのも、なかなかですよ。学校で、そういう話になることってないでしょう。
正田 あ、友達がいないんで。2人だけいたんですけど卒業しちゃって、本当に今は誰もいなくて孤立状態なんです。大学ではひとことも喋らないですね、話し相手がいないんで。
――なんで友達がいないと思います?
正田 社交性がないから。
――そんなことはないと思いますけどね。
正田 なんだろう…思想が強いからかな。
――求めていないからじゃないですか? こういう大人たちに恵まれているから、同年代の友達を必要としていないように見えます。
正田 友達はほしいんですよ、やっぱり。でも…求めてないって言われたら、確かにそうだなって思います。もう、一緒に酒を飲むっていうフェーズも過ぎたんで、同じ年の人間と遊べる感覚はなくなりました。DDTでこれほどの大人たちに囲まれると、その人たちの周波数に合ってしまっているから同年代と話が合わないんです。今の若い人たちは、まだそんな話をしているのか、もっと視野を広げろよって思ってしまって。
――今の若い人って、同い年ですよ。
正田 そうそう、だから僕は若年性老害なんです。自分自身でも何を言ってんのやって思いますけど、今の若いやつは…って思っちゃうんです。でも、友達はほしいんですよね。
――ただ、先に話した若手全体を上げていきたいという思いは、それこそ仲間意識にもつながるのでは。
正田 先輩たちよりも、僕たち若手の方が頑張っているっていうのは近くで見ているんです。だからこそ後輩の僕が言うのも、こいつなんやねんって思われそうなんすけど、それを知っているからこそ僕が神様目線で見て、ただ若手がバチバチして負けて悔しいで終わるような大会にはしたくなかったんです。俺たち、みんな頑張ってんだから、もっと評価されてもええやろっていうのを見せたかった。それが仲間意識というものであるなら、すごくあります。闘っているのも、突きつめたら団体のためじゃないですか。団体のことを考えずに自分のことだけ考えてもっとガムシャラにやろうと思えばできるのに、そうしないのはみんながDDTを好きだからだし、DDTの若手がこんなに面白いっていうのを他のプロレス団体にも広めていかないといけないと思っているからこそ。そういう仲間意識は生まれていると思います。試合中はバチバチするけど、みんな目標は一つなんです、DDTのためにという。DDTをもっと知ってもらうために、若手の僕たちは何ができるかっていったら最高の試合をして、自分自身に自信を持って、他団体にもナメられないって言ったらアレですけど今のDDTの若手はすごいねって言ってもらえたら、イコールDDTが広まっている一つの形じゃないですか。
――それが形を変えた友達なんじゃないですかね。
正田 でも普段は遊びたくないッスね(食い気味に)。試合が終われば早く帰って一人になりたいです。
――まあ、それは人それぞれなので。今回は、他団体の同世代のプロレスラーが気になるような優勝戦だと思います。自分と同じ世代、同じキャリアの人間が後楽園のメインを任されるという点でアンテナを張るでしょう。
正田 今のところ、僕らってまだ若手止まりなんですよ。新日本だったら藤田晃生さんはベルトを獲っているし、リーグ戦(SUPER Jr. TAG LEAGUE)でも優勝していて若手というイメージがないじゃないですか。それこそNOAHのOZAWAさんやオオワダサンも若手の枠を超えている。僕たちって、まだ一つ抜け切れていないんです。だからそれを先陣切って、僕がやっていかないといけないなって今、思いました。ここで優勝して、たとえハリボテでもいいからベルトを獲って、とりあえず「今は抜け出した」という顔をします。