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2025-04-01

【連載 泣き笑いどすこい劇場】第30回「決め手」その2

戸田が大鵬の連勝を45でストップする大番狂わせ。微妙な一番で、これがビデオ導入のきっかけとなった

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春は物事の始まり、スタートの季節でもあります。
あなたは春に何を始めますか?
振り返ってみれば、何かを始め、成就するにはきっかけがあるものです。
「決め手」と言ってもいいでしょう。
力士たちも力士人生をまっとうする中で、さまざまな決め手に遭遇しています。
例えば、入門にこぎつけた決め手、賜盃を抱いた決め手、昇進の決め手など。
そんな決め手にまつわるドラマを集めました。
※月刊『相撲』平成22年11月号から連載された「泣き笑いどすこい劇場」を一部編集。毎週火曜日に公開します。

相撲は裸足

大鵬と言えば、柏戸ともう一人、忘れてはならないのが、昭和44(1969)年春場所2日目、連勝を「45」で止め、のちに“世紀の誤審”と言われた因縁相撲の相手の戸田(のちの小結羽黒岩)だ。すでに準備はされていたとされるが、この一番で、勝負判定の参考にビデオテープが採用になったことはあまりにも有名である。

その戸田の父は、宮崎県の旭化成延岡工場に勤めるサラリーマンだったが、いくら新しい運動靴を買い与えても、戸田の足が大きくなって追いつかず、しかもたちまちボロボロになるので悲鳴をあげていた。それほど戸田は元気が良くて、成長の早い子どもだったのだ。

この戸田に早くから注目していた同じ延岡出身の元十両松恵山は、入門を渋る両親をこう言って口説き、これが立浪部屋入門の決め手になった。

「お父さん。相撲取りになったら運動靴の心配はいりません。相撲は裸足のスポーツですから」

大鵬との一番は、その靴に困った右足が土俵を飛び出す大鵬よりも先に飛び出したかどうかで紛糾した。戸田はどこまでも足の因縁から逃れられない力士だった。

月刊『相撲』平成25年4月号掲載

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