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2025-04-26

【サッカー】[U-15指導者 鴨川幸司×元日本代表 橋本英郎]ガンバ大阪に長く携わってきた指導者目線、選手目線のビルドアップの考えとは。(前編)

(Photo:森田将義)

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優先順位を意識しながらビルドアップすることで、高い位置で起点をつくれる

サッカークリニック5月号の特集は「進化するビルドアップとその指導」。
1人は指導者として、もう1人は選手として、ガンバ大阪に長く携わってきた2人が、それぞれの立場から、ビルドアップについて話す。ビルドアップの基本的な考え方、G大阪時代のエピソード、個々がベースとして持つべき点など、幅広く語り合ったものを、前後編に分け公開する。
前編はビルドアップの考え方と、ガンバ大阪の指導について。

取材・構成/森田将義

(引用:『サッカークリニック 2025年5月号』-【特集】進化するビルドアップとその指導 PART3:俺たちのビルドアップ論-より)

 鴨川幸司[RISEISHA U-15監督]×  橋本英郎[元・日本代表、元ガンバ大阪など]

良い突破をするために安定したビルドアップが必要


─ビルドアップに対する考えをそれぞれ聞かせてください。


橋本 ゴールを奪うためにポゼッションするのであって、ビルドアップが目的になってはいけないと思います。ゴールを奪うためには、どこに立てば良いのか、人それぞれのバランスがありますし、相手との関係もあるので、答えは1つではありません。

私は、自分たちが優位な立場も不利な立場も、現役時代に経験しました。その上で、自分たちがボールを持つことが正しいわけではないと感じました。ときには、相手が持つことが正解になる場合があります。

ビルドアップは低い位置から行なうというイメージを持たれる方が多いと思います。でも、相手陣内でボールを奪って、押し込んだ状態からビルドアップすれば、リスクが少ないので、それも選択肢として持つべきでしょう。

鴨川 僕は、選手を指導する際に、「攻撃はビルドアップと突破の2つに分かれる」と伝えています。突破のパスの起点をつくる作業が、ビルドアップだと考えています。突破のパスを出す選手がフリーの良い状態(できれば高い位置で)であれば、フォワードの選手とタイミングをとることができますし、出し手の選択肢も増えます。逆に、パスを出す選手にプレッシャーがかかった状態であれば、相手ディフェンダーは狙いどころを絞れます。そのため、良い突破をするために安定したビルドアップが必要なのです。

─ビルドアップと聞くと、自陣において、足元で受けるプレーを思い浮かべがちです。

橋本 足元でボールをつなぐだけでなく、スペースを使うのもビルドアップですが、そのスペースの認識が自陣であることが多い気がします。パスを受ける選手の周辺にあるスペースばかりをイメージするので、相手のうしろにあるスペースを見ることができません。

低い位置でポゼッションしていても、相手の最終ラインの背後にスペースがあるなら、蹴れば良いんです。攻撃の位置が上がるので、ビルドアップと言えるでしょう。

鴨川 パスをつなぐことが目的になってしまい、縦への意識が低くなってしまうことがあります。そのときは、指導者がビルドアップの目的を伝える必要があります。

ビルドアップは、常に縦パスを意識することが大切です。橋本選手がいた頃のガンバ大阪には、遠藤保仁選手や二川孝広選手らがいて、素晴らしいポゼッションサッカーをしていました。

ディフェンダーの背後を常に狙い、ディフェンダーが背後を警戒してラインを下げたら、ディフェンスラインの前のスペースが空く、そのスペースを警戒して閉めてきたら、今度は、ボランチやサイドバックがフリーになる、そうした優先順位を意識しながらビルドアップすることで、高い位置で起点をつくることができます。

上野山の「やめられる選手が良い選手」の言葉


2024年から、RISEISHA U-15の監督を務めている鴨川幸司(右)。鴨川監督はこれまで、ガンバ大阪のアカデミーに長年携わっており、ジュニアユースの指導者時代には、橋本英郎の成長にも関わった(Photo:森田将義)

─ビルドアップをしっかりと定義できていると、選手はプレーしやすい気がします。


橋本 私がプレーしたFC今治では、鴨川さんが今話した内容が、日本代表監督を務めた岡田武史さんが提唱する「岡田メソッド」として、言語化されていました。中盤での動きは「ウェービング」で、ゴール前の動きは「ガス&フィニッシュ」(※ガス=車が燃料を燃やしてスピードアップするイメージ。ガス&フィニッシュ=スピードを上げてフィニッシュすることを目指す用語)。ゾーン分けして、プレー選択の考え方を落とし込みやすくしています。

鴨川さんの言葉は、僕にとって、すごくわかりやすいです。子供が実際にプレーする際も、意識しやすいと感じます。

鴨川 僕は、定義づけや言語化は、あえてしません。将来、どこのチームに行っても対応できる選手、自分が必要なプレーを原理原則から探し出せる選手を育てなければいけないと考えるからです。

その良い例が、ガンバのジュニアユースで指導した橋本であり、稲本潤一であり、大黒将志です。彼らがガンバのアカデミーにいた時代は、言語化した言葉はありませんでした。必要なプレーを選手が自分で見つけていました。

─ガンバのアカデミーは、判断良くビルドアップできる選手を数多く育ててきました。

橋本 私がユースとプロ1年目のときに、サテライトチームのコーチとして教えてくれたのは上野山信行さん(アサンプション国際高校=大阪府=監督)でした。上野山さんのことでよく覚えているのは、「やめられる選手が良い選手」という言葉。「最初のプレー選択を直前でやめて、次の選択に変えられるのが良い選手なんだ」と、ずっと言われました。ですから、選手たちは、練習でのボール回しやミニゲームの際に、「今のプレー、やめられなかったかな」と、口癖のように言っていました。

鴨川 遠藤選手みたいにうまい選手は、プレーをギリギリでやめられます。

橋本 プロでも難しい技術なので、それができない選手が、たくさんいます。できる選手は育成年代で指導されてきたか、感性として、もともと持っていたか、そのどちらかでしょう。

ただし、ボールを蹴る瞬間の体勢が崩れていると、選択を変えたくても変えることができません。良いところにボールを置いて、良い蹴り方ができていれば、次に行なうボールタッチの種類も変えやすいです。キックフェイントがまさにそうで、シュートを打つ位置にボールをちゃんと置いた上で、フェイントを入れるから、相手が引っかかるわけですし、そうなったら、スムーズに切り返すことができます。

─ガンバでは、そうしたプレーをどのように教えていたのでしょうか?

橋本 ボール回しは、遊び心が必要ですが、遊びではいけません。ミニゲームも同じ。ペナルティーエリア2個分の「4対4」だと、シュートチャンスが多くて、楽しくプレーできますが、勝負にこだわる中での楽しさが大事なんです。「3対1」や「4対2」のボール回しは、ウオーミングアップの感覚で、遊びの意味合いが強いのですが、高い強度のボール回しができるようになれば、うまくなれます。

選手としては、コーチの言葉を受け入れられることも大事です。ガンバのジュニアユースでは、ボール回しでミスが起きたら、「ボールを浮かせたら、相手をかわせる」「スペースには、強いパスを入れるんじゃなくて、転がしたら良い」「相手が足を出してきたら、股を通せば良い」と、鴨川さんにアドバイスされました。でも、それを実際にやるかどうかは選手次第。「パスが引っかかったから、攻守をすぐに切り替えて、守備に入ろう」で終わらずに、「次は、どうすれば良いだろうか」と考える選手が成長します。「今のプレーは、やめなければいけなかった」と言われて、「すみません」と謝ったとしても、言われたことが自分の中に入らなければ、変化は起こりません。
(後編に続く)


鴨川幸司(Photo:森田将義)


橋本英郎(Photo:森田将義)

鴨川幸司(RISEISHA U-15監督)
PROFILE
かもがわ・こうじ/ 1970年7月28日生まれ、大阪府出身。大学生時代に、ガンバ大阪アカデミーの前身にあたる釜本FCで、ジュニア年代の指導を始めた。Jリーグの誕生以降、G大阪ジュニアユースのコーチや監督として、多くのプロ選手の育成に携わった。FCティアモ枚方アカデミーでの指導を経て、2024年にRISEISHA U-15の初代監督に就任した

橋本英郎(元日本代表、元ガンバ大阪など)
PROFILE
はしもと・ひでお/ 1979年5月21日生まれ、大阪府出身。中学生時代から、ガンバ大阪でプレーした。同ユースを経て、トップチーム昇格を果たし、ボランチやウイングバックとして活躍。また、2007年から10年にかけて、日本代表に選出され、15試合に出場した。ヴィッセル神戸や東京ヴェルディなどでもプレーし、22シーズンを最後に引退。現在は、履正社高校や大阪大谷大学のコーチとして、後進の指導に励む。Jクラブの監督になるために、日本サッカー協会公認Proライセンスの取得を目指す

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