若隆景(押し出し)大栄翔下から、低く相手の左腕をつかまえ、得意の突きを完全に封じた。
小結若隆景が、関脇大栄翔との1敗対決を制し、2日目から6連勝とした。
この日の相手の大栄翔とは、過去の対戦成績は8勝8敗の五分だが、直近の2場所は連敗。先場所は強烈な突きを受け、土俵の真ん中でひっくり返されている。初日からの連勝はきのうストップしたとはいえ、今場所優勝に近い星を残せば大関の声もかかろうかという実力者だけに、若隆景にとっては相当な難敵だ。
相撲のタイプがはっきり分かれているので、展開としては、組めば若隆景、離れて大栄翔。若隆景のほうから見れば、どれだけ上体を起こされずに下からあてがって、大栄翔の突きを封じられるか、この一点にかかっていると言ってよかった。
そしてこの日の相撲は、若隆景にとって、まさにそのとおりの展開となった。モロ手突きできた大栄翔に対し、低く当たってまずは両手を下から相手の脇に当てていく。この日は特に、右がいい位置に入り、そのままハズにあてがうようにして相手の腕の動きを止めてしまった。
左のほうはそこまでいい形には入らなかったが、今度は相手のヒジにあてがい、下から腕をはね上げた。
この一連の動きで、大栄翔は得意の突きを全く繰り出せなくなってしまった。こうなると前への圧力でも若隆景が勝る。そのまま頭を下げて右はハズ、左は胸のあたりを押して、東土俵へ電車道で押し出した。
「押し込めなかった」とは大栄翔。場所の序盤は“この調子なら一気に大関取りも⁉”と思わせる勢いだったが、ここ2日間はやや立ち合いの踏み込みが鈍り変調。痛い連敗だ。
一方、「いい相撲ができてよかったです。下からという意識で前に出ました。立ち合い、よかったと思います」と、勝った若隆景。取組後のコメントでは、ほぼ毎日、「下から行けたかどうか」を出来、不出来のポイントとして語っているので、よほどそのことを心掛けているのだろう。今場所は、スタートはそこまでの調子ではないように見えたが、3日目に琴櫻をそれこそ下から食いついて寄り切ったあたりから調子を上げてきた。持ち前の低い体勢での攻めが多く見られるようになり、これで2日目から6連勝だ。また、攻められたが後ろのスペースを生かして逆転、という内容も2番あり、立ち合いの圧力が増してきていることもうかがえる。
今場所は小結の地位で、序盤から役力士との対戦が多く組まれたが、その中での6勝1敗は、後半戦への期待も抱かせる。そして何より、この日、平幕伯桜鵬とともに全勝を守ってトップを走る大関大の里との直接対決をまだ残しているというところが、さらに楽しみを倍加させる。大の里には直近2場所は敗れているが、昨年9月、11月と、初顔から連勝しており、勝てない相手ではない。直接対決を迎えるところまで、この差を保ってついていくことができれば面白い。
優勝1度を含め、関脇での2ケタ勝利も2度あり、かつては「大関候補」と言われた男。右ヒザの大ケガで、一時は幕下まで下がりながら、復活を遂げてきた。
少し引いて、次期大関争いという視点で見てみても、若隆景にとってきょうの1勝の意味は大きい。もし今場所あるいはここ数場所で大の里が綱取りを成就させれば、大関は琴櫻1人となるため、関脇以下の力士にとっては、チャンスがより広がる状況になる。その状況が近い中、次期大関争いの先頭走者の大栄翔に自らストップを掛けたことで、若隆景はチャンス状況を生かす一番手に自分が躍り出る可能性を残した、ともいえるのだ。
本人にはまだそこまでの意識はないと思うが、元いた「大関候補」の位置に、若隆景が戻ってきつつあるのは確か。もう一度、夢の続きを見せてほしい。
文=藤本泰祐