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2025-05-21

【相撲編集部が選ぶ夏場所11日目の一番】右を差せずとも勝つ! 大の里11連勝、 優勝と綱取りへあと「3」

得意の右差しを防がれ、若隆景にモロ差しを許したが、右上手を命綱に寄り倒し。新たな武器を見せた大の里は、相撲の中身でも、また一歩横綱に近づいた

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大の里(寄り倒し)若隆景

モロ差しを許し、一瞬「アッ」と思わせた。だが、白星は手放さなかった。
 
大の里が若隆景を寄り倒し、初日からの連勝を11に伸ばして、また一歩、横綱へと前進した。
 
この日の相手は、2敗で追ってきている一人でもある若隆景。低い姿勢からおっつけてくることは間違いがないので、まずは立ち合い、大の里がそれでも今場所自信を深めているであろう右差し狙いでいくかどうかが注目された。
 
その立ち合い、大の里はやはり右差し狙いでいった。若隆景はもちろん、低く当たって左でおっつけに入り、最終的には右差しを許さずに差し勝ち、先に入った右と合わせてモロ差しとなった。
 
下に入られ、大の里危うし。と思われたが、次の瞬間、大の里は右手を伸ばし、上手から相手の廻しに手を掛けた。大の里にとっては、これが命綱になった。若隆景は左下手のほうに回って横につこうとしたが、大の里は右上手を取っていたことと、左からおっつけたり若隆景の頭を起こしたりしたことで相手の速い動きを封じると、そのまま体を突きつけるような寄り。若隆景に横につく時間を与えず、そのまま寄り倒した。

「相手の形にさせないでうまく攻められた。危なかったけど、流れで行けたと思います」と大の里。得意の右は差せなかったが、それでも相手に完全に横につかれる前に勝負を決してしまう勝負勘はさえていた。コメントの最初の一言は、一見、この日の相撲内容と矛盾しているようにも聞こえるが、おそらく、“頭をつけて食い下がられる“というようなことは許さずに攻めきれたという意味合いのことであろうと思う。
 
そして何といってもこの日の勝因になったのは、「差せなかったときの右上手」だ。
 
これまでの大の里は、立ち合いで右が差せないと、まともな引きに走ることが多く、周囲からはこれが“悪癖”と指摘されてきた。
 
おそらくはそこへの対策として取り組んできたのであろうことが、この「差せなかったときの右上手」だ。場所前、左四つの師匠・二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)との三番稽古でも取り組み、「きょうは右上手からいい攻めができた」と語っていたことを思い出す。
 
この日、とっさの動きの中で、自然にそれが出せた、ということで、一つ、大の里に新しい側面が加わったということができるのではなかろうか。
 
相手力士にとっては、これまでは「立ち合いの右差しを防げば引いてくれる」というところがあったのが、「右差しを防いでも今度は右上手という手がある」ということになれば、それだけ難攻不落の度合いは高まる。
 
この日は結びの2敗対決で豊昇龍が伯桜鵬を退けたほか、安青錦は大関琴櫻に屈して3敗に。小結以下の2敗力士が次々と後退し、結局、横綱豊昇龍だけが2敗でついてくる形となった。
 
「(きょうは)よくなかったので、あしたから集中し直して頑張ります」と大の里。これで優勝と横綱へのマジックナンバーを「3」としたわけだが、そういった白星の数字の面のみでなく、相撲の中身においても、横綱にふさわしい難攻不落さを身につけつつあることを「差せなかったときの右上手」によって示した、この日の相撲だったと言える。

文=藤本泰祐

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