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2020-09-18

プロ選手も実践!フィジカルトレーニングの新理論[後編]

ウエートトレーニングによる筋肥大で体を大きくすることに主眼が置かれがちな高校野球のトレーニング。しかし、それに偏重することは選手の障害を招きかねない。今年は新型コロナウイルス感染症予防のため、競技活動の自粛期間もあり、今後のオフシーズンでも一層、慎重な体づくりが求められる。そこで、野球日本代表侍ジャパンU-12のアスレティックトレーナーを務め、プロ野球選手のトレーニング指導も行う川島浩史トレーナーに、野球選手にとってふさわしいフィジカルトレーニングの考え方について伺った。

障害発生のメカニズム

 まず、バッティング動作のテイクバックやフォロースルー時の上体のひねりは、どこで生み出されているか理解しているでしょうか。人間の背骨は、上から「頸椎」「胸椎」「腰椎」と分けられ、腰椎は左右に約5度ずつ、胸椎は左右に約30度ずつひねることができます。つまり、バッティングで使う上体のひねりをメーンで司っているのは腰椎ではなく胸椎です。

 胸椎のひねりの可動性とパワーはバッティングパフォーマンスを上げるために重要な要素ですが、現在、この胸椎の可動性が十分でない選手が増えていると見受けられます。ゲームをしたり、スマホを見たりする時間が増えたことで猫背になっていることが一つの原因だと考えられます。

 また、ベンチプレスで鍛えられる大胸筋は、肩の外側の「上腕骨大結節稜」に付いているので、そればかりをやり過ぎて大胸筋が硬くなってくると肩が前方へ引っ張られ内側にひねられます。また同種目で鍛えられる小胸筋は肩甲骨の「烏口突起」に付いており、役割としては肩を上げる際の肩甲骨の動きと真逆の働きをします。つまり、これらの筋肉の柔軟性を失うことで猫背や肩甲骨の運動異常を引き起こし、胸椎の動きを阻害する原因になります。その状態では胸椎によってバッティングの十分なテイクバックやフォロースルーが取れません。その動作の代償を、腰椎を過度にひねって行うことが腰椎分離症などの野球選手に多い障害を引き起こす原因の一つだと考えられます。

 つまり、可動性や筋力が十分でない部分があると、パフォーマンスが上がりにくいことに加えて、障害リスクを高めてしまいます。ですから、可動域や筋力は、人間の体として通常、あるべき状態に整えておくことが大切なのです。それが人体構造上の動きになります。

冬季のトレーニング期に向けて

 私はプロ野球選手のトレーニングを行うこともあります。その時に気をつけているのが、選手が求める動きに合わせたトレーニングを処方することです。例えば、「トップをもっと深く取りたい」という要望がある場合、それに使うパーツの可動域が保てているか、十分な筋力が備わっているかを評価し、不足している部分を鍛える方法を提案していきます。筋力は適切な動作の中で発揮できてこそ、競技力につながるパワーへと変換されるのです。

 今年は新型コロナウイルス感染症の影響による活動自粛期間もありました。その間に十分に体を動かせなかったことによって、筋力や柔軟性、関節可動域が減退した選手もいたのではないでしょうか。自粛期間が明けると、高校野球では間もなく各都道府県による代替大会が行われたため、それに向けた練習を優先するあまりに、今でも自粛前の体の状態を取り戻せていないままの選手が少なくないと予想されます。

 また、多くの1年生は中学3年の最後の大会から、丸1年のブランクが生じました。本来、入部時から時間をかけて体の状態を取り戻し、新チームに移行するという流れがあると思いますが、ブランク明けからすぐに新チームが始まったことで体に支障をきたしている選手もいることでしょう。

 間もなく、秋季大会が終わると、来春に向けたオフシーズンに入ります。パフォーマンスを上げるためにも、ケガをしないためにも、この時期にどのように体づくりを進めるかは非常に重要です。ウエートトレーニングによる筋肥大を目指す前に、各関節や各筋肉が適切な動きと力発揮ができる状態を手に入れてほしいいと思います。

[解説]
川島浩史
[ワイズ・スポーツ&エンターテインメント所属/アスレティックトレーナー]
Profile
元プロ野球選手の仁志敏久氏(巨人ほか)と野球におけるフィジカルトレーニングメソッドを開発し、主にジュニア世代の野球チームに普及活動を行っている。2014年から侍ジャパンU-12代表チームのアスレティックトレーナーとして選手のウオーミングアップやクールダウン、トレーニング、リハビリテーション、コンディショニングを担当。また、東北楽天の浅村栄斗や埼玉西武の外崎修汰など、多数のプロ野球選手のトレーニングを指導。

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講師:川島浩史(ワイズ・スポーツ&エンターテイメント)
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