
宇佐美 僕は家長さんも指導していた小島重毅さん(当時の担当コーチ。現在は副団長)から指導を受けましたが、技術的なことはそれほど教わったことがないんです。小島さんはサッカーで有名だったわけではないですし、元プロ選手でもありません。当時、阪急電鉄の車掌さんだったんです。でも、僕に本気でぶつかってきてくれたことは、いまだに記憶に残っていますし、技術面よりも、精神面を高めてくれたと思います。うまくなるためのアドバイスはあまりありませんでしたが、「うまくなろうとしているか」、「本当に恐れずにドリブルで勝負しようとしているか」が問われる指導でした。そこはすごく良かったですね。
宇佐美 言われましたね。「お前は家長にはなれない。あいつは教えたことを1回目からできた。お前は1回ではできないから、回数を重ねて、できるようになるまでやるしかない」と言われたんです。僕はサッカーが好きだったので、練習をしているとは思っていませんでした。僕は才能があるとは思わないですけど、下手な時間を楽しめることが自分の才能なのかなと思います。
宇佐美 サッカーを始めた当時のことは覚えていません。でも、僕は最近ゴルフを始めて、最初は散々なんですけど、ボールが飛ばないことが楽しくて、やめようとは思わないんです。サッカーも同じような感覚だったのかな、と思いました。どうしてサッカーをここまで頑張ることができたのか、分かった気がしましたね。天才などと言われることもありましたけど、僕の場合は「何でうまくできないんだ」と言うとき、顔は笑っているんです。
宇佐美 子供の性格もあると思いますが、唯一、影響があるとするなら、せっかくその気があるのに、親が期待をかけすぎてつぶしてしまうことでしょうか? 僕の父は、「もっとこうしたほうがいい」とか、何も言わなかったです。言われた記憶がまったくありません。プレーが良くても、京都で一番になっても、祝ってくれたことはないです。
僕も親になりました。自分の子供にやりたいことをさせてあげたいですけど、ただ見守るだけでいいと思っています。親がプロ選手にしようとして、なぜ子供にプレッシャーをかけてしまうのでしょうか? 「なぜ、そのプレーができないの?」、「なぜ、この時間に練習しないの?」などと子供に言うと、未来をつぶしてしまうと思います。それを親が理解しないと、被害者になる子供が確実に増えると思うんです。
大きな声援はすごく励みになりますが、僕たちプロ選手がサポーターから感じるものと同じプレッシャーが、子供にかかっていると思ったほうがいいです。プロ選手としてプレッシャーを感じながらプレーすると、サッカーの楽しさが分かりにくくなることもあります。それは、サッカーが仕事だからです。「小学生の頃からそんな状況にしてしまうのは、かわいそうだと思いませんか?」と言いたいです。もちろん、お金もかかっているでしょうから親の気持ちも分かるのですが、プロ選手になれるのは一握りです。本人がなろうと思っても簡単にはなれるものではありませんし、親がプロ選手にしようと思ってなれるものではありません。
宇佐美 まず、会場に試合を見に来てほしいですね。また、プロの練習も見に来てほしいです。僕は小さい頃、母と一緒にガンバの練習を見に行っていたことも、その後の自分にとって大きかったと思います。スタジアムで試合を見るのとは、また違う感覚なんです。練習場は選手と同じ目線で、空気感も違います。目の前で選手がボールを蹴るときの迫力や、バーンという音は、目が点になる感覚でした。練習を見に行けば選手のすごさや格好良さが絶対に伝わりますし、「ああなりたい」と思うはずなんです。
宇佐美 「好きこそ物の上手なれ」という言葉だけを胸に、頑張ってほしいです。サッカーが好きなら頑張れるでしょうし、うまくなりたいのなら、努力しているとすら思わないことが大事だと思います。子供たちがゲームを好きな場合にずっとやっているのと同じです。4時間だろうと5時間だろうと、サッカーを楽しめるかどうか、が大切なんです。

宇佐美貴史(うさみ・たかし)/ 1992年5月6日生まれ、京都府出身。幼稚園年長のときに地元の長岡京サッカースポーツ少年団でプレーを始め、年上のチームで多くの得点を決めて注目を集める。ガンバ大阪ジュニアユースから中学3年生のときにユースに昇格し、高校2年生のときにトップチームに昇格。2011年夏のバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)移籍後、G大阪復帰とドイツ再移籍を経て、19年夏にG大阪に再復帰した。14年にはG大阪の国内3冠に貢献。09年のU‒17ワールドカップ、12年のロンドン・オリンピック、18年のロシア・ワールドカップに出場。178cm・69kg
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