若元春(寄り切り)豊昇龍東西両横綱の併走は、2日目にして崩れた。
久しぶりに番付の東西に横綱が揃い、その両雄が並んでどんどん白星を積み重ねていくという、大相撲ならではの興奮が期待された今場所。ちなみに、番付上で東西に横綱が並ぶのは、照ノ富士(現伊勢ケ濱親方)が昇進して白鵬と並んだ令和3年9月場所以来となるが、この時は白鵬が休場しているので両横綱の併走は実現しなかった。その前が白鵬の一人横綱時代、令和3年3月場所までは番付上は白鵬と鶴竜(現音羽山親方)の両横綱だったが、いずれも現役晩年で休場が多く、東西両横綱が15日間皆勤となれば令和2年の3月場所までさかのぼらねばならないことになる。この場所は、千秋楽結びの一番が12勝2敗での横綱同士の相星決戦となり、白鵬が勝って44回目の優勝を遂げている。
前置きが長くなったが、東西に横綱がそろった今場所、両横綱そろっての進撃を夢想したファンは少なくなかったのではないかと思う。
初日はともに強い相撲を見せ、その期待を膨らませてくれた両横綱だったが、2日目、豊昇龍が先に崩れた。直近では10連勝と、「お得意さま」にしていた若元春に、よもやの黒星だ。
立ち合い、張り差しで右差しを狙った豊昇龍に対し、若元春は左に動いての突き落とし。豊昇龍はこれにはしっかりついていき、サッと組むことには成功したが、組み手は若元春得意の左四つになってしまった。
立ち合い思うように組めなかった場合の豊昇龍の常とう手段と言えば、右からの投げ。この日もすぐに一度、二度と右から小手投げを見せた。豊昇龍と若元春は、これまで数えきれないほど稽古をしている間柄なので、今さら手の内がどうこうということはないだろうが、結果的には豊昇龍はこの投げで墓穴を掘ることになった。若元春はこの小手投げに、サッと腰を寄せて左をさらに深くした。やがて左下手をつかむと、じりじりと左から豊昇龍を起こす。
上体が立って苦しくなった豊昇龍は右の巻き替えに活路を見出そうとしたが、若元春もそこは実力者。この機を逃すはずはなかった。「焦らないように、と思っていたが、(横綱が)巻き替えにきて、多少浮いたので、走るだけだと思った」と、一気に出て、青房下に寄り切った。
「もうあした、千秋楽にしてくれないかな。3勝で優勝!」と若元春はご機嫌。昨年1月場所で照ノ富士を倒して以来の金星となるが、ただこれについては、「金星を獲得するということは、それだけ番付を下げているということなので、誇れることじゃない」と、意識の高さを垣間見せた。一時は同じように大関を争っていた霧島や弟の若隆景に、このところ少し水を空けられる形になっているが、これを大関挑戦への再スタートの星としたいところだ。
一方の豊昇龍。「先輩横綱として気合を入れてやります」と臨んだ今場所だったが、前半戦の平幕への取りこぼしという不安はやはり今場所も解消とはいかなかった。
もちろん、まだ大の里とは星1つ差がついただけなので、ぴったりついていって、分のいい直接対決で勝って追いつく、ということは豊昇龍にとって十分可能だが、大の里と差がついたことで、「これ以上落とせない」という意識は強くなるはずで、このあたりが今後、どう影響してくるか。
この日、大の里は新鋭の安青錦の低さをものともせず突き起こして連勝スタート。早くも優勝争いの中心の座を固めつつあるが、これに連勝の関脇陣を含め、上位陣がどこまでついていくか、そして平幕から飛び込んでくる力士は? という今場所の優勝争いの形が少し見えてきたか。
あすは大の里はこの日金星を挙げた若元春と、そして豊昇龍は安青錦と対戦。優勝争いの期待を担う両横綱には、まだまだ気の抜けない序盤戦が続く。
文=藤本泰祐