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2019-08-22

SPECIAL REPORT アイスランド・サッカー協会の方針 「躍進の原動力は『3本の矢』」 <後編>

2016年のEUROと18年のワールドカップに初出場し、新たなサッカー史を書き記しているアイスランド代表。いかなる強化策が実を結んだのだろうか? 『第11回JFAフットボールカンファレンス2019』での講演を通じて「小国の秘策」をひも解きたい。前編では3つある強化策のうちの2つに触れた。後編は3つ目の強化策を紹介する。

(出典:『サッカークリニック』2019年9月号)

上のメイン写真=99.6 %という信じられない瞬間最高視聴率をたたき出したロシア・ワールドカップにおけるアルゼンチン戦。サポーターの声援もアイスランド・サッカーを後押しする (C)gettyimages

スポーツ経験が
社会を豊かにする

 3つ目の特徴は環境だ。

 先述した47のサッカークラブにはハンドボールや水泳、空手、ゴルフなど、サッカー以外のスポーツも楽しめるようになっている(ハンドボールの代表チームは08年の北京オリンピックで銀メダルを獲得)。総合型スポーツクラブとして地方自治体の手厚いサポートを受け、地域に根差している。こうしたクラブが存在するためアイスランドでは、ほぼすべての市町にスイミングプールや数千人収容の観客席を有した天然芝のグラウンド、そしてハンドボールやバスケットボールコートがあり、いろいろなスポーツに取り組める環境が整っている。国土の狭さ、そして人口の少なさを考慮した場合、アイスランドではとても身近にスポーツがあると言えそうだ。しかも、子供のスポーツ活動が家計を圧迫することもない。例えば、12歳の子供がスポーツクラブに所属するには年間登録料として約6万5000円が必要となるが、約65 %に当たる4万円近くを自治体が負担することになっている。

 総合型スポーツクラブの存在と自治体の支援により、アイスランドの子供たちはスポーツに親しみやすくなっている。実際、首都レイキャビクに住む6歳〜16歳までの子供は1人当たり平均1.9種目のスポーツに打ち込んでいるというデータもある。さらに、「6歳〜17歳の子供は最低でも週に1回は泳ぐ」ということを義務づけ、スポーツ振興に国が取り組んでいるのも興味深い。

アイスランド代表として88試合出場26得点を記録したエイドゥル・グジョンセン(写真はバルセロナ時代) (C)gettyimages

 アイスランドの地方自治体がスポーツ施設や競技者の補助金などに投資するのには理由がある。子供がスポーツに親しんで体を動かす習慣を身につけることは大人になってもヘルシーな食事をとったり、健康的な生活を意識したりすることにつながり、スポーツが病気の予防や医療費の削減に役立つと考えられているのだ。つまり、社会を豊かにするためにスポーツが存在するのだ。

 JFAフットボールカンファレンスに参加した人の多くが「アイスランドの事例は特に興味深かった」と振り返っている。「アイスランドの規模が自分たちの府県と似ていた」、「サッカーの初心者に必ず有資格指導者をあてる工夫に刺激を受けた」など、その理由は異なっていた。しかし、多くの人々が地域の抱えるハンディを逆手にとった育成方法にヒントを得たようだ。ぜひ、地域の問題を解決して選手たちにより良い環境を与える上でアイスランドの取り組みを役立ててほしい。(文中敬称略)

(取材・構成/『サッカークリニック』編集部)

EURO(2016年)、ワールドカップ(18年)と、2つのメジャー大会出場を果たした人口約35万人の国、アイスランド (C)gettyimages

前編はこちら

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