「ボールを奪える」ことは、チームにどんなメリットを与えるだろうか? ここでは夏休み集中講座として、ジュニア年代での「ボール奪取」を掘り下げて学んでいく。技術の成熟と戦術の基礎的要素の習得を目指す東京武蔵野シティフットボールクラブU-15を2016年から率い、15年まで指導したジュニア・チームでは世界大会でも実績を残すなどカテゴリーを問わず活躍している戸田智史・監督が解説。最終回となる5回目も「ボール奪取」の基本として「追い込み方」の原則を紹介する。※5回(各回、前編・後編あり)に分けて掲載
(出典:『サッカークリニック』2015年12月号)
上のメイン写真=2019-20シーズンからバイエルン・ミュンヘンでプレーしているフランス代表のDFリュカ・エルナンデス(右)。スピードを活かした守備を見せる (C)gettyimages
1対2で相手を追い込んでいるということは、1人が自分の受け持つエリアやマークする相手を捨ててそこに参加していることになります。そこで、残りの選手が順にスライドしたり、前線から下がって来るなりして、空いたスペースをカバーしなければいけません。1人が動いたとき、次々に連動する必要があるのです。チーム全体で追い込んだ相手に逃げ場を与えないように連動することが大切です。この場合は臨機応変な対応が必要になってきますが、基本的に「誰もさぼれない」という姿勢で当たることが求められます。
特別な例を挙げるとすれば、センターフォワードなど前線の選手がプレスバックして相手を追い込む場合です。そのときは高い位置に空いたスペースに相手の最終ラインがあるので、たとえバックパスでつながれたとしてもピンチになるわけではありません。この場合はスペースを埋めるために次々に連動する、というよりは比較的シンプルに対処することを心掛けましょう。ただし、プレスバックは闇雲に行なうのではなく、「ボールを奪ったあとは素早く相手ゴール前に向かうこと」が大切な役割であることは忘れてはいけません。
先程も説明した通り、追い込む際の判断材料の1つに「相手ボール保持者の状態が十分でないとき」というものがありましたが、それが起きやすい局面があります。それは、相手にとっては守備から攻撃へ、自分たちにとっては攻撃から守備へ切り替えたときです。
ボールを奪われたときに休むのではなく、考え続け、体を動かし続けるのです。つまり、ボールをすぐに奪い返しに行くことを目指すのです。それが相手にいい攻撃をさせないことにつながりますし、自分たちのいい攻撃にもつながり、主導権を握って試合を運ぶことにもなるのです。そのためには「奪われたら戻れ」ではなく、「奪われたら奪い返せ」という意識づけがふさわしいと思います。
また、もう1つの判断材料であった「後ろのバランス」が整っていないと追い込みが機能しないということを考えると、攻守が切り替わる前、つまり、攻撃しながらも後方にいる選手はしっかりとリスク・マネジメントしておくことが大切ということにもなります。
相手のミスを待ってボールを奪うのではなく、積極的に奪いに行く守備をする上での考え方を説明してきました。選手たちにこうしたスキルや判断能力を高めるには、トレーニングで1対2をつくることから始めるといいでしょう。
(取材・構成/長沢潤)

戸田智史(とだ・さとし)/1976年8月19日生まれ、東京都出身。2002年から横河武蔵野フットボールクラブのスクールコーチ、ジュニアユースコーチを歴任し、08年からジュニア監督を務めた。09年に全日本少年サッカー大会で3位に導き、14年にはダノンネーションズカップ世界大会に日本代表として出場し、初優勝をもたらした。16年から名称を変更した東京武蔵野シティフットボールクラブのU-15で監督を務めている
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