「ボールを奪える」ことは、チームにどんなメリットを与えるだろうか? ここでは夏休み集中講座として、ジュニア年代での「ボール奪取」を掘り下げて学んでいく。技術の成熟と戦術の基礎的要素の習得を目指す東京武蔵野シティフットボールクラブU-15を2016年から率い、15年まで指導したジュニア・チームでは世界大会でも実績を残すなどカテゴリーを問わず活躍している戸田智史・監督が解説。最終回となる5回目も「ボール奪取」の基本として「追い込み方」の原則を紹介する。※5回(各回、前編・後編あり)に分けて掲載
(出典:『サッカークリニック』2015年12月号)
上のメイン写真=相手に体を寄せるフランス代表のリュカ・エルナンデス(右)。1人目で奪えなくても次の選手が奪えるように連動していくことが大事。後ろの選手たちは背後を意識しながら的確な位置どりをして連動する (C)gettyimages
ゲーム前のミーティングでは、相手と自分たちのシステムや長所・短所を考え合わせて「誰がどこにプレッシャーに行くか」、「ボールに直接かかわっていない選手はどこに戻るか」ということを選手たちと確認します。
ボールを奪うプレーは個のスキルや戦術による部分ではあるのですが、「ボールに直接かかわっていない選手の役割」に考えが及ぶと、「奪いに行くプレーは全員が連動していなくてはならない」という意識で統一することができます。
当たり前のことですが、1人で、あるいはグループで奪いに行っても、うまい選手を相手にしたときにかわされる可能性はあります。危険なエリアで1人でも入れ替わられてしまえば、ゴール前で数的不利に陥ります。これでは困るのです。
個の育成という点を考えると「1対1で奪う」ことを追求するのは正しいことではありますが、「チーム対チームの戦い」である以上、個の力だけでは立ち向かえません。そこで、「組織で奪う発想」が必要となってくるのです。
例えば、相手のゴールキックからセンターバックにボールが渡ったところから考えてみましょう。「すべてのプレーはゴールを奪うことが目的」と考えれば、ボールを奪うのも相手ゴールに近いほうがいいので、このときに「全員が引く」という守り方は選択しません。センターフォワードが相手ボール保持者にアプローチしに行きます。ただ通常は、この時点で追い込むことはしません。プレスに行ったとしても相手にはバックパスを含めて逃げ道が十分にあるからです(バックパスさせてキーパーにロングキックさせ、それを競り合えば勝つ可能性が高い、という状況ならばそうしたプレーも選択肢の1つとしてあります)。
この時点での前線でのプレスは、「相手のセンターバックからサイドの選手にパスを出させるのが目的」という考え方です。
サイドの選手にボールが渡った状態は、中央とは違い、タッチラインに寄っているので逃げ道が狭まっています。相手をより追い込みやすい状態にするのです。
そして、サイドの選手がアプローチに行きます。それだけでは1対1の状況にすぎませんが、さらにセンターフォワードがボール保持者へのアプローチに参加できれば、1対2という状況にして相手を追い込むことになります。
ただし、ここで「追い込むかどうかの判断」がとても重要になってきます。
この判断をするときにカギとなるのが2点あります。
自分の背後の状況を見て、味方の守備の準備を確認するのです。具体的には、「フリーになる相手をつくらないように気をつけながらバランスをとること」、「相手がスルーパスやサイドチェンジなど長いパスを出してきても対応できるように、背後のスペースについても注意を払った準備ができているかを確かめること」です。例えばディフェンス・リーダーが確認し、前の選手にそれらを伝えるようにすればいいでしょう。
具体的には、「相手がパスを受けたときに前を向けていない」、「サイドにいる味方が相手の受け手に対して素早くアプローチし、余裕を奪っている」といった点です。
「自分の背後の状態」と「ボール保持者の状態」を確認できたとき、相手を追い込みましょう。つまり、1対2にして相手を追いつめるタイミングは、ピッチ上の位置で決めるものではありません。自分たちのチームと相手の状態で決めるものなのです。
ただ、1対2にするということは、ピッチ上の残りのスペースでは、相手のほうが多いということになります。そのため、この「追い込み」が失敗すると一転してピンチになります。いい状態で1対2にしたときはためらうことなく、本気で奪いに行きましょう。「行き切る」のです。万が一、ボールを奪えないとしても、キーパーへバックパスさせるか、あるいは、タッチラインへ出すか、出させるか、をしなければいけません。ボールを奪うチャンスとみれば3人目が詰めてもいいのですが、その際は決してかわされることなく、パスを出す余裕も与えないことが大切です。
(取材・構成/長沢潤)
戸田智史(とだ・さとし)/1976年8月19日生まれ、東京都出身。2002年から横河武蔵野フットボールクラブのスクールコーチ、ジュニアユースコーチを歴任し、08年からジュニア監督を務めた。09年に全日本少年サッカー大会で3位に導き、14年にはダノンネーションズカップ世界大会に日本代表として出場し、初優勝をもたらした。16年から名称を変更した東京武蔵野シティフットボールクラブのU-15で監督を務めている
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