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2025-09-24

【相撲編集部が選ぶ秋場所11日目の一番】元大関の「掬う力」に起こされた! 安青錦3敗であす豊昇龍戦へ

安青錦は正代のパワーとうまさの前に、珍しく胸を合わせる形に持ち込まれて寄り倒され、3敗目。3差であす豊昇龍との対戦を迎えることになった

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正代(寄り倒し)安青錦

珍しい光景を見た。
 
胸を合わせて組む安青錦だ。記憶をさかのぼってみても、少なくとも本場所ではこれは入幕後初めてのことではないか。
 
その光景を作り出すことに成功したのが、正代だ。得意の右を差して、めったに起きることのない安青錦の上体をグイッと起こした。もともと、右を差せば、そこから掬って起こす力は角界でもトップクラスの正代だ。元大関の“掬う力”が、難攻不落の安青錦の低さを打ち破った。
 
この日は2敗同士での対戦。過去は5月場所に一度対戦があり、このときは安青錦が正代を突き起こして、左下手、右おっつけの低い体勢を作ることに成功、そのまま前に出て、正代の土俵際の突き落としをこらえて送り投げで勝っている。そんなこともあり、この日も”正代が元大関とはいっても、やはり今の力では安青錦のほうが有利では?“というのがまあ普通の予想ではあっただろう。
 
ましてや、安青錦はきのう勝ち越しを決め、「初土俵から新三役場所まで負け越しなし」という、史上3人目(付け出しデビューを除く)のとんでもない記録を作り、まさに日の出の勢いなのだ。
 
しかし、やはり相撲の一発勝負はやってみなければ分からない。立ち合い、安青錦はやはり右のノド輪で下から突き上げた。しかし今場所の正代は好調。さほどのけぞることなく、左ヒジを使ってノド輪を外からはじくと、まず左で相手の腕を抱え込んで安青錦をロック。そしてうまかったのは、この左で安青錦を引っ張り上げるようにして相手の体を伸ばしながら、右差しも成功させたところだ。
 
安青錦は、プロフィル上では「右四つ」となっているが、実際にはまず左で廻しをつかんで食い下がり、そこから勝負、というタイプなので、形としては左四つのようなもの。そういう意味では、正代は思い通りに組み勝った、と言えた。
 
そして右を入れた正代は、左でロックしたまま、グイグイと右から起こして相手を逃がさず、胸を合わせる体勢を作る。安青錦もさすがで、最後までアゴは上げなかったが、大きな正代に胸を合わされてはどうしようもない。右から掬って十分に相手を起こした正代は、今度は左はおっつけに変え、そのまま前に出て寄り倒した。
 
正代はこれで2敗をキープ。元大関の実力を遺憾なく見せた一番だったと言っていい。この日も全勝を守ったトップの豊昇龍とは星2つの差があるので、そこがもう少し近づいてこなければ、この先、割を崩してまで横綱戦があるかどうかは難しいところだが、とにかく今場所の相撲は平幕の中では群を抜く出来。ここからも星を重ねて、ぜひ大関陥落後は初めての三賞を手にするところまで、いってもらいたいものだ。
 
一方、「胸を合わせたらダメですね。胸を合わすのは自分の相撲じゃない」と安青錦。これで3敗となり、優勝争いからはほぼ脱落、という形になったか。数字的にはまだ可能性はあるが、残り4日で3差逆転というのは現実的にはちょっと難しいだろう。
 
これで安青錦は、あす組まれた豊昇龍戦には、ほぼ純粋にチャレンジャーとして挑んでいく形になった。「いつもどおりいくだけですね」と安青錦。波乱の可能性、という意味では、むしろ優勝争いほぼ無関係のほうが、思い切って取れる、という面はあるかもしれない。
 
安青錦としては、渡し込みで勝った先場所の相撲のイメージを描いていくことになるだろう。とにかく低く密着して、豊昇龍が何か強引な動きにくる機を逃さず勝負をかけたい。豊昇龍としては、突いて起こしにいくにせよ、あるいはこの日の正代のように胸を合わせる形を目指すにせよ、とにかく安青錦と同じ高さでの戦いに持ち込むことができるかがポイントだ。
 
さあ、果たしてどんな相撲になるか。クライマックスは両横綱激突の千秋楽となる(に違いない)今場所だが、この一番はその前の、大きなヤマになるはずだ。

文=藤本泰祐

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