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2025-09-25

【相撲編集部が選ぶ秋場所12日目の一番】安青錦、2場所連続の豊昇龍撃破。ついに両横綱の星が並ぶ

ヒザを使って体を密着させることで相手の投げを許さず、外掛けから最後は切り返して豊昇龍に土をつけた安青錦。今後、「豊昇龍キラー」になっていく可能性も……

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安青錦(切り返し)豊昇龍

今場所も、食いついて、そして倒した。
 
安青錦が、先場所に続き、2場所連続で豊昇龍に黒星をつけた。
 
先場所は、豊昇龍が右四つ左上手の体勢を作るも頭をつけられ、左上手投げで強引に振り回しにいったところを、体を密着させた安青錦が渡し込みで勝利しているこの顔合わせ。豊昇龍にとっては、やはり、安青錦の上体をいかに起こし、組む場合でも低く密着されるのを避けるか、というところがポイントとなった。
 
立ち合い、先に攻めたのは豊昇龍だ。踏み込んで、予想どおり一発、二発と突き上げる。しかしそこは安青錦、アゴを上げず、そして後ろにも下がらず、再び前傾姿勢を作って押し返す。すると、潜られるのを嫌ったか、豊昇龍は左から少し突くようなイナシ気味の引き。しかし結果的には、むしろこれが安青錦を呼び込んでしまった。
 
サッと距離を詰めた安青錦は左をのぞかせ右おっつけ。豊昇龍は左差し手のほうに回って逃げ、局面を打開しようと右から小手投げを打ったが、安青錦は左外掛けから、先場所同様、ヒザを器用に密着させてこれを許さず。体を寄せながら、最後はそのまま切り返して横綱をひっくり返した。

「中に入れてよかったです。信じられないです。自分の相撲が取れてよかったです。(相手が)横綱なんで、精いっぱい自分の力を出すだけ、と考えていきました」と安青錦。先場所に続いて、会心の一番だったことだろう。
 
ただ、見ているほうとしては、横綱が負けた相撲を指して言うのもおかしな話ではあるが、なんとなく、今場所もこうなりそうな予感はあった。そこに意外性を感じさせないのは、それだけ安青錦がスゴいということでもあるのだが……。
 
というのは、安青錦は、豊昇龍の一番の強みを無力化する条件を持つタイプの力士ではないか、と考えられるからだ。
 
豊昇龍の強さは、何といってもスピード。戦いながらの動きの中で、離れた中でサッとイナしたり、突いたり、あるいは潜りにいったり、組んだところで相手の重心を察知し、サッと足を入れて相手を腰に乗せ、多くは右から、時には左から投げ飛ばしてしまう、その機敏さにある。
 
しかしこれらの技は、いずれもある程度相手と間隔が開いてこそのもの。安青錦はその技がかかる前にサッと体を密着させてしまうため、豊昇龍がいつもの反応で繰り出す動きが、むしろ相手にスキを与える材料に変わってしまうのではないかと考えられるのだ。この日の相撲で見せた、イナシ気味の引き、右からの小手投げは、いずれも安青錦の速い体の寄せによって、無力化され、むしろスキとなった。
 
これで対戦成績は安青錦の連勝。来場所以降、豊昇龍がどういう対策を講じてくるかは興味深いところだ。
 
豊昇龍に土がつき、優勝争いのほうは、大の里と豊昇龍の両横綱が1敗で並び、この日、大関琴櫻を押し出しで撃破した隆の勝が2敗で食いつく形になった。大の里が豊昇龍の敗戦を見届け、「ヨシッ」とばかりに気合の入った表情で花道を下がっていったのが印象的だったが、果たして千秋楽結びの一番で雌雄が決する形になるのか、あるいは隆の勝がそこに割り込んでいく形になるのか。
 
あす13日目は大の里は若隆景、豊昇龍は琴櫻、そして隆の勝は安青錦と対戦。隆の勝はここで勝つようなことがあれば、14日目は割を崩して横綱戦(関脇との割を崩すことになる豊昇龍が有力か)となる可能性がある。両横綱の最終決戦への道のりのカギを握るキーマンは、またまた安青錦、ということになりそうだ。

文=藤本泰祐

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