アメリカンフットボールの関東大学TOP8第4節は、10月5日に立教大学と中央大学が対戦し、立教が20-10で勝利した。立教の逆転勝利を導いたのは、大学から競技を始めて2年目、立教池袋高出身のWR小寺成だ。高校時代は野球部。同期に誘われて飛び込んだアメリカンフットボールで、今年の春から試合に出場するようになった。小寺は3点ビハインドで折り返した試合で、2本のタッチダウン(TD)パスをレシーブした。活躍ぶりで、立教の“飛び道具”としての存在感を増している。【写真/文:北川直樹】
立教大学ラッシャーズ○20-10●中央大学ラクーンズ(2025年10月5日@富士通スタジアム川崎) 膠着の前半、立教が3点を追う展開立教大のキックオフで試合開始。中央大の攻撃を3度で止めると、立教大は自陣20ydから攻撃を開始した。RB阿曾奏人(1年=鎌倉学園)のラン、QB中川龍之介(1年=立教新座)からWR小林蹴人(1年=佼成学園)、TE竹山正剛(1年=鎌倉学園)へのパスで着実に前進し、ハーフラインまで進んだが、その後は攻撃が停滞。
第1クオーター(Q)は両チームとも得点を奪えず、第2Qに入っても膠着状態は続いた。立教は中川から平本清耀(2年=佼成学園)へのロングパスで自陣43ydまで進出し、阿曾のランで敵陣21ydまで迫ったが、得点には結びつかない。前半終了間際、中央大にフィールドゴールを許し、0-3とリードを許して折り返した。
「最初3点取られて、気持ち的には余裕がなかったです。ディフェンスは結構止めてくれてるのに、オフェンスは全然点を取れてない......みたいな雰囲気でした」
試合後、小寺は前半の苦しい時間を振り返った。「自分じゃなくてもいいんですけど、誰かがそういう雰囲気を変えていかないとなって。オフェンス全体でそういう認識はあったのかなと思います」
QBの中川も前半の苦戦を認める。「相手のディフェンスが今まで見たことないぐらい複雑で、ちょっと見すぎてしまってサックされてしまいました」。中央大のディフェンスは、フロントもバックスも複雑なアラインとカバーを仕掛けてきた。「スカウティングで準備はしていたけど、その場でアジャストしなきゃいけないことが多かったです」と、中川は前半の混乱を振り返った。
【立教大 vs 中央大】中川は前半に苦戦したポイントを整理し、ハーフタイムに軌道修正を行った=撮影:北川直樹 「古庄ディフェンス」との練習が活き、後半アジャストしかし、ハーフタイムで立教のオフェンスは修正を図った。「『古庄(直樹、立教DC)ディフェンス』と中央のディフェンスが結構似ている部分があって」と中川。練習で自チームの守備陣と対峙してきた経験が、後半の攻撃に活きた。「似てるんだったらいけるでしょ、みたいな感じです。日頃の練習で、空きやすいポイントがわかってたので」。そしてその読みが的中する。
流れが変わったのは第3Qの中盤。自陣30ydからの攻撃で中川が小寺へのロングパスを投じた。小寺はこれを確実にキャッチし、そのまま70ydを独走してTD。2ポイントコンバージョンは失敗したものの、6-3と逆転に成功した。
「自分と逆サイドのロールパスで、自分はポストで入っていくルートなんですけど、このルートは結構空きそうだなっていうのを思ってて」と小寺は明かす。「パスが来てキャッチしたらとにかくydを稼ごうとおもって夢中で走りました」
ディフェンスの状況は正確には見えていたという。「自分の背中なんで分かんなかったんですけど、とりあえず前に!って考えてました」。準備していたルートで、確実にボールをキャッチし、とにかく前に走る。シンプルだが、それが70ydのビッグプレーを生んだ。
しかし、直後に中央大がドロープレーでTD。6-10とまたもひっくり返された。
【立教大 vs 中央大】迷いなく走り込み、中大守備のカバーが甘い部分に走り込んで独走を決めた=撮影:北川直樹 タイムアウトでの会話、2本目のTDに第4Q序盤の25ydTDは、さらに綿密なコミュニケーションから生まれた。このプレーの前にタイムアウトを取った立教。その時、中川が小寺に伝えた。
「『もうちょっと奥に走って』と成に言いました。本当はもっと手前で入ってくるルートなんですけど、空いてるとこを狙うから、そっちの方走ってって感じです」。中川からの指示を受けた小寺は、その通りに深めにルートを走った。そして、エンドゾーンでボールをキャッチした。トライも成功させ、13-10とリードを奪い返した。
中川は、このプレーに至るまでの読みをこう説明する。「その前にも結構ネイキッド系のプレー(リードブロッカーを付けずにQBが逆サイドにロールするプレー)で、アクロス(浅いゾーンを横切るプレー)でWRが入ってくるところに、(本来は奥を守る)SFが結構寄ってきてるなっていう印象があったんです。あと、インターセプトされたプレーでも、SFがナンバー2、3をよく見ていました。その裏だったらCBとの1対1になるし、スピードで抜けてくれるかなと。それで奥に投げようというコミュニケーションをしました」
前半は中央大の複雑なディフェンスに苦しんだ中川だったが、後半は頭を切り替えた。「迷ってポケット内にいるぐらいだったら、もうスクランブルしちゃおうと。無理だったら走ればいいし、逃げたら奥にWRがいる。そういう頭になって、スッキリプレーできるようになりました」。その判断が、小寺のスピードを最大限に活かす形となった。
さらに6分過ぎには、中川自らが9ydTDランで追加点を奪い、20-10と突き放した。中央大は終盤に反撃を試みたが、残り39秒のフィールドゴールが失敗。立教大がそのまま逃げ切った。
【立教大 vs 中央大】QB中川はタイムアウト時にコミュニケーションし、本来のデザインにアレンジを加えた。それがTDにつながった=撮影:北川直樹 野球からの転身、大学で始めたフットボール
立教池袋高校出身の小寺は、大学から競技を始めた2年目の選手だ。高校時代は野球部。同じ野球部だった同期に誘われ、アメフト未経験者4人で入部した。「大学でアメフトをやろうって話は高校のときからしてたんです。ラッシャーズのインスタとかを見てたら楽しそうだなと思って」。それが、アメリカンフットボールを始めたきっかけだった。
「運動神経とかクイックネスに自信があったんで、WRかDBを考えてました」。最初に体験した時に楽しいと思ったのがWRだった。さらに、決定的だったのは先輩の存在だ。「去年の4年生の木邨陽(きむら・ひなた)さんの活躍を見て、すごくかっこよくて」。その姿に憧れ、WRとしての道を歩み始めた。
試合に出場するようになったのは今年の春から。今、スタメンのWRの中で未経験者は小寺だけだ。しかし、明治戦でも活躍し、存在感では引けを取っていない。優秀なWRが揃う立教の中でも、その決定力はピカイチだ。
小寺にラッシャーズに入って良かったと思うことを聞くと、こう返ってきた。
「ラッシャーズでは、フットボールだけじゃなくて生活から一流を目指すことを大事にしています。フットボーラーとしても、私生活でも成長していく。フットボールだけ上手いだけじゃダメ、人としてもちゃんと成長できる。そういう部分は結構いいとこだなと思います」
立教新座や佼成学園など、高校からアメリカンフットボールを続けてきた選手が多い中で、最初は不安もあったという。しかし、「同期もいたし、立教池袋と立教新座って結構共通の知り合いが多かったりするんです。だからそんなに困らなかったです」と、すぐにチームに馴染むことができた。
【立教大 vs 中央大】未経験者だが今ではチームにも完全に馴染んでいる=撮影:北川直樹 「スピードが落ちない」中川が見る小寺の武器
中川は、小寺のスピードについて言う。「本当にとにかくスピードがある。自分が大学の練習に参加した時、すごいスピードで驚きました。無駄な動きなくスムーズに走ってくれて、ロングパスでボール見てる時もスピードが落ちなくて。最後の伸びもすごいです」
同期のWR平本と切磋琢磨し、1学年下の小林からも「刺激になるし勉強になる」と、“WR術”を日々吸収しているという。「自分はルートを走ることだけに集中できてます。そこに中川が投げ込んでくれるんで、いいワイドユニットにできてるかなと思います」と手応えも得つつある。
「これから法政や早稲田など去年の上位チームに当たるんで、今まで通りにはいかないだろうなって思ってます」。小寺は後半戦を見据える。「自分も何かを変えるっていうよりは、今まで通り自分の弱い部分をどんどん潰していって成長していけたらいいなと思ってます」
この日、2本のパスキャッチが2本ともTDという勝負強さを見せた小寺。中川との呼吸も深まり、空中戦の大きな武器になっている。
【立教大 vs 中央大】同期の平本、後輩の小林、竹山らとワイドユニットを盛り上げていく=撮影:北川直樹