アメリカンフットボール日本代表の、今回のチームの特徴は、選手が若返ったことだ。前回の世界選手権(2015年7月、米オハイオ州カントン)の代表からは7人しか残っていない。その7人の中で、30代の4選手が存在感を見せている。 3月1日、米育成プロリーグ「The Spring League(TSL)」選抜チームとの対戦が迫ってくる中、OL黒川、DL中田、DB辻、DL平澤の「4人の侍」の熱い思いをお届けする。【聞き手・構成 /小座野容斉】
自分の築き上げてきたもので、最後まで戦い続ける OL #75黒川 晴央 くろかわ はるひさ(アサヒ飲料) 188cm129kg31歳=名城大学 =米テキサス州ダラスで、撮影:小座野容斉
Q、トップレベルの経験はXリーグに入ってから?
黒川:アサヒ飲料に入ってからです。 Q:前回の日本代表に選出されたときは、それなりに自信があった。
黒川:挑戦できる位置にはいるかなと思ったが、いざ合宿して一緒に練習してみると明らかに劣っていた。あの時は富士通のスターターがほぼそのまま代表。特にLTの小林(祐太郎)が同世代で。大学のころから、なんとなく意識はしていた。僕も、LTメーンだったので、一緒にやると差があるなと感じた。 Q:2015年は、メキシコ戦の冒頭、殊勲のファンブルリカバー。
黒川:試合最初のキックオフリターンのときだった。リターナーのこぼしたボールを抑えて。当時、森(清之ヘッドコーチ)さんはターニングポイントだったと言ってくれた。 Q:5年前とは違い、今はOLの中心
黒川:今回、トライアウトに来る前は、誰が来るかわからなかったが、代表が決まって集まってみると(中心になっていた)。前回は、そこにいて「自分に何ができるのか」と思いながらやっていたが、今回は年齢的にも技術的にも、自分がみんなに何か言わなきゃいけないと感じている。 Q:前回からの5年で進化している部分は。
黒川:米国人QBが入ったりして、いろいろなプレーを経験した。知見が増えたし、横の選手とのコミュニケーションもより良くとれるようになった。個人としてはファンダメンタルをより意識するようになった。 Q:相手のDLの力は未知数、ひょっとすると前回の米国代表よりも強いかもしれないが。
黒川:OLとしてはいかに自分の力を出し切るか。どんなにデカくて速い奴が来ても自分が出し来ることができれば勝負できる部分はある。自分の築き上げてきたものを出し切って、最後まで戦い続ける。 もうないと思っていたチャンス 実のある試合にする DL #97中田 善博 なかだ よしひろ(オービック) 183cm104kg33歳=関西大学 =米テキサス州ダラスで、撮影:小座野容斉
Q:オービックの中ではまだまだ元気だとは思っていたが、失礼ながら日本代表になるイメージはなかった。
中田:僕も「こんな年で」とは思ったが、もう一度チャレンジはしたかった。 Q:4人の中では、ただ一人、前回の2015年世界選手権に出場できず。最終選考で落とされた。
中田:ギリギリ最後で落とされて。その悔しさもあったので、エントリーした。30歳を超えたが、フィジカルは年々上がってきている感じがある。 Q:前回の代表は、DLに脇坂(康生、パナソニック)さんを筆頭に、レジェンドぞろいだった。
中田:脇坂さん、飾磨(宗和、パナソニック)さん、紀平(充則、無所属)さんと凄い顔ぶればかり。今回は若い選手が多いが、僕や平澤もいる。良い融合をして良いチームを作っていきたい。 Q:米国と対戦したことはない。
中田:2014年のオービックのアラバマ遠征には行ったが、今回のようなレベルのチームではない。同じ年の春のドイツ代表戦にも出たが、ドイツはでかいだけでスピードもテクニックも全然なかった。 Q:武器というか、アピールポイントは。
まずはスタート。日本人の中でも体が大きなわけではないので、スピードとハンズテクニックで掴まれないように戦う。元NFL選手をタックルしたりサックしたりするチャンス。こんなチャンスはもうないと思っていた。実のある試合にしたい ビビったら負け。思い切りいく DB #27辻 篤志 つじ あつし(パナソニック) 173cm89kg33歳=大阪産業大学 =米テキサス州ダラスで、撮影:小座野容斉
Q:前回の代表から残った選手は、DBユニットでは一人。
辻:そうですね。 Q:DBユニット最年長?
辻:いや、チーム最年長です。今年34歳、中田と同じ1986年10月生まれなんで。 Q:思った以上に若返りが進んだが
辻:ノリさん(WR木下典明、オービック)やDBの藤本(将司、オービック)が来るのかなと思っていた。蓋開けてみたら「あれっ」という感じだった。若返って、練習の雰囲気など、最初は心配していたが、近江(克仁)キャプテン、(副将の)宜本(潤平)君たちがしっかり盛り上げて、勝つために厳しいことも言い合っている。 Q:前回のチームは、パナソニックの大先輩でもある脇坂さんを始め、完成された選手が多かった。今回は成長していっている選手が多いのでは。
辻:日々の練習でコンビネーション、精度、システムの理解、どんどん皆伸びていって成長しているなという実感がある。今回は今までとは違うディフェンスのシステムなので、ユニットの中でコミュニケーションもしっかりできて、細かい部分のアジャストも上がってきている。自分自身でいえば、最年長だからできるアプローチを僕なりにしている。 Q:今までのアメリカは、だいたい最後はランで押し切ろうとしてきた。今回はかなりパスで攻めてきそうだが。
辻:基本的にはマンツーマンのパッケージがメーン。そこからパスパターンのリードをして、レシーバーによってはダブルカバーにしたりという形になっている。「ファーストターゲットが中にずれたら(カバーが)外にずれよう」とか細かいところの精度を上げて、1対1のところを1対1.5や1対2にする。さらにその後のタックルなども含めて作り上げていく。そこが一番重要。 Q:辻選手にとって、この試合はどういう試合になる。
辻:自分にとってのラスト日本代表になるのかなと。そういう意気込みで、すべて出し切ろうと思っている。NFLでプレーしていた凄いQBや凄いRBが来るが、ビビったら負け。思い切りいく。日本のフットボールは凄いんだなと思わせたい。 とにかくアメリカに勝つ。それだけ DL #20平澤 徹 ひらさわ とおる(オービック) 178cm95kg31歳=関西学院大学 =米テキサス州ダラスで、撮影:小座野容斉
Q:日本代表への思いが人一倍強かった平澤選手にとっては待望の試合。
平澤:そうですね。去年、世界選手権がなくなって。正直にいって、そこを目指していたのもあった。黒川とも言い合っていた。それがなくなったのはショックが大きかった。ただ、大橋(誠、オービックGM)さんからは「なにかあるかもしれないから、準備はしておけよ」とは言われていた。なので気持ちを切らさずに準備はしていた。 Q:前回の代表組が思っていた以上に減ったのでは。
平澤:前回大会のときもDLの平井(基之、富士通)さんとか飾磨さんの前でしゃべらせてもらって。その時に「次はもう俺らおらんから、お前らでやれよ」と。(高田)鉄男さんとか、3大会、4大会と連続で出ていた選手たちがいなくなることはわかっていた。ある程度は予想していた。 とはいえ、メンバーを見ていると、一人一人の能力は全然悪くない。前回大会より弱いとは全く思わない。むしろ、(RBの)ミッチェル(ビクター ジャモー)とか(LBの)丸尾(玲寿里)とかが入ってくれて、レベルは上がっている。Xリーグのレベルも間違いなく5年前よりあがっている。外国人に慣れているというか。そこは楽しみな部分もある。 Q:昨年はディアーズからシーガルズに移籍をした。その中で変わった部分は。
平澤:ディアーズ時代は、『自分が、1試合を通じてずっとフィールドに立っていないと』とどこかで意識していた。負傷してもいけないし。今シーガルズでは自分の代わりもいるし、実際ローテーションで入っている。なので、最初からフルスロットルで行ける。自分が出たときは、パシュートも含めて、やり切って、バテた状態で外に出る。そういう感じにできるようになった。 Q:そういう意味では、今回のチーム内での役割も似たところがある。
平澤:そうですね。代表はまさにそうなので、DEを4人で回すことになると思うので、とにかく思い切りいく。 Q:NFLでやっていたQBをサックするチャンスが出てきた。
平澤:そこは本当に楽しみで。単純に、『どんなレベルなんやろ』と。リリースが速かったり、ポケットムーブ上手かったりするんだろうなと。ただ、今はQBへの対策というよりは、対 OLのところでどう動くかをみんな意識してやっているので。QBまで行けたときに、どんなプレーができるのか。イメージがどれだけできるのか。 Q:相手はプロへのアピールを意識したチーム。パス攻撃が中心になるのでは。
平澤:僕は、今回前半勝負、様子見しないでスタートダッシュかけられるかだと思っている。それでもしんどい局面は出てくると思う。僕の場合、Xでやっていても、(OLとのマッチアップで)30~40キロ差は当たり前なので。日本人のDLは、そういう状況に慣れてきている。あとはしんどい局面をどれだけ我慢できるか。我々のほうが、我慢の『しろ』も大きいと思う。 オービックの昨シーズンの納会でも宣言した。「このオフ、アメリカを倒して、春に戻る。そして2020年は日本一になる」と。このオフシーズンの僕の目標は、とにかくアメリカに勝つこと。それだけです。 (左から)OL黒川、DL中田、DB辻、DL平澤=撮影:小座野容斉
※練習用ジャージなので背番号は異なります。
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