コンディショニングとは「目的を達成するために必要と考えられる、あらゆる要素をより良い状態に整えること」を意味する。選手それぞれが持つ個性をパフォーマンス発揮へとつなげるための情報を得て、しっかりと活用しよう。
※本記事はベースボール・クリニック2017年12月号掲載「野球のコンディショニング科学~知的ベースボールプレーヤーへの道~」の内容を再編集したものです。
文◎笠原政志(国際武道大学体育学部准教授)
第17回「除脂肪体重増量に向けた食事のポイント」
オフ期は、各チームでフィジカルトレーニングを中心とした体づくりが行われるでしょう。そのベースとなるのが増量に向けた食事です。
本連載でも、野球選手の特徴として除脂肪体重(体重から脂肪を除いた重さ)が重いことを紹介しましたが、このことはバットスピードの速さや球速にも影響します。
つまり、ただ体重を増やせばいいわけではなく、その中身が大切なのです。
例えば、5㎏増量してその中身が脂肪1㎏・除脂肪体重4㎏だった選手と、10㎏増量して中身が脂肪9㎏・除脂肪体重1㎏だった選手を比較すれば、後者のほうが体重増加量は多いにもかかわらず、前者よりもパフォーマンスが向上するかと言えばそうではありません。むしろ、体には負担が大きくなり、足腰のケガを起こしやすくなってしまいます。
では、ただ体重を増加させるのではなく、除脂肪体重を増やすためには、食事で何に気をつければいいでしょうか。
もちろん、ご存じのようにタンパク質(プロテイン)が必要です。ただし、タンパク質をたくさん摂取すればいいのかというと、そうではありません。
図Aにアスリートのタンパク質摂取のポイントを示しました。
1つ目のポイントは、毎日多量の摂取をすればいいわけではないということです。
タンパク質の摂取目安としては「体重あたり1.5~2.0gの摂取(例:体重70㎏の選手であれば105~140g)がいい」と言われています。インターネットや本などを参考にして、どの食品に、どの程度のタンパク質が含まれているかについて知っておくといいでしょう。
2つ目は、1回あたりの食事でどの程度のタンパク質を摂取するかということです。こちらについては、1回の食事で15~25gのタンパク質を摂取することが望ましいという見方があります。
トレーニング後の1回の食事で、どのくらいのタンパク質を摂取すると筋肉のタンパク質合成(筋肉をつくること)が起こりやすいかを調べた実験があります。それによると、20gまでは筋肉のタンパク質合成が高まりますが、それを超えると以降はタンパク質合成に大きな変化がなかったという報告があります。
図Bを見てください。これは一般的な昼と夜の食事量が多いパターンのタンパク質の摂取方法です。
筋肉のタンパク質合成は、体内に必要量のタンパク質(目安は20g)がある場合に起こります。図Bの場合は昼と夜の時間しか筋肉のアップデートが起こっていません。
一方の図Cは、1日5回に分けてタンパク質を摂取しており、どの時間帯も筋肉のタンパク質合成の必要量である20g以上が維持されています。すると、常に体内でタンパク質合成が行われていることになり、除脂肪体重の増加につながりやすくなります。
3つ目は、トレーニング後に速やかに摂取することです。
練習後に部室などに長く滞在し、学校から自宅まで1時間かけて帰宅すると、筋力トレーニングをしてから2時間程度も経過してからの食事になります。これでは筋肉がタンパク質を欲しがる時間を逃し、筋肉を形成するチャンスが限りなく「0」になってしまいます。
筋肉がタンパク質を最も欲しがっているのが、トレーニング後45分以内と言われています。筋力トレーニング後、早期のタンパク質摂取を心がけましょう。
4つ目は、タンパク質の種類を考えることです。
特に必須アミノ酸の一つであるロイシンは、筋肉のタンパク質合成を促進します。このロイシンは動物性タンパク質です。
プロテインパウダーにも、吸収が早いホエイプロテイン、吸収がゆっくりなカゼインプロテイン、大豆を原料とした植物性のソイプロテインなど、さまざまな種類があります。タンパク質であれば何でもよいわけではなく、それぞれのメリット・デメリットがあるので、それらを考慮してプロテインパウダーの選択をしてください。
5つ目は、タンパク質とともにビタミンBとCも摂取することです。
タンパク質は体内でアミノ酸に分解されて吸収されます。しかし、ビタミンBが足りないとタンパク質が分解できないので、吸収されずに排出されてしまいます。また、ビタミンCはタンパク質合成能力に必要なものです。
したがって、ただタンパク質を摂取するだけでなく、そのサポートとして必要なミネラルの摂取も忘れないでください。
今回はオフ期における増量のポイントを、栄養の観点から紹介しました。あるトレーナーは「増量のためにはトレーニング3割、食事7割」と言っていました。それだけ栄養が重要だということです。
ただし、成長期の選手の場合、だれもが同じように筋肉量を増やすことを心がければいいかといえば、そうではありません。高校1年生くらいでは、まだまだ成長に差があります。大きな負荷は、成長期にとってはケガの要因になるものです。食事と共に、成長に合わせたオフ期の過ごし方を考えてみてください。
最後に、タンパク質だけを摂取するのではなく、あくまでエネルギー源となる炭水化物がしっかり摂取できているという前提条件のもとにタンパク質を摂取することが大切だということを忘れないでください。なぜならば、せっかく摂取したタンパク質もエネルギー源となる炭水化物が摂取されていなければ、筋肉をつくる材料ではなく、エネルギーとして使われてしまうからです。
したがって、偏った食事にせずに、全体的にバランスの取れた食事をとることに気をつけるようにしましょう。
かさはらまさし/1979年千葉県出身。習志野高校―国際武道大学。高校まで野球部で活動し、3年時には主将。大学卒業後は同大学院を修了し、国際武道大学トレーニング室のアスレティックトレーナーとして勤務。その後は鹿屋体育大学大学院博士後期課程を修了し、2015年にはオーストラリア国立スポーツ科学研究所客員研究員としてオリンピック選手のサポートを歴任。専門はアスレティックトレーニング、コンディショニング科学。現在は国際武道大学にてアスレティックトレーナー教育を行いながら、アスリートの競技力向上と障害予防に関わる研究活動を行っている。学術博士(体育学)、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、NSCA認定ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、日本トレーニング指導者協会公認上級トレーニング指導士、JPSUスポーツトレーナー。
文責◎ベースボール・クリニック編集部
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