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2020-05-08

【陸上】プロコーチ横田真人の哲学 選手と一緒に一つのものを作り上げていく

今年1月1日、TWOLAPS TCを始動させた横田真人コーチ。
新谷仁美、卜部蘭(共に積水化学)ら日本中長距離界のトップアスリートを、所属・性別の垣根を越えてプロフェッショナルコーチとして指導する。
着実に結果を残している気鋭のコーチにあらためて聞いてみたかった。
「コーチとはどうあるべきなのか」「どのように選手を導いているのか」。
自身もまだ成長途上という横田コーチが、現段階での答えを語ってくれた。
自身の経験に裏打ちされた思考の一端に迫る。

上写真/日本中長距離界のトップアスリートが集うTWOLAPS TCを率いる横田真人コーチ(撮影/椛本結城)

コーチとはどうあるべきか

 TWOLAPS TCの代表を務める横田真人氏のコーチとしてのキャリアは、この4月で4年目を迎える。その間、指導する新谷仁美(積水化学)が昨年のドーハ世界選手権10000mに出場し、今年1月には1時間06分38秒の女子ハーフマラソン日本新記録を樹立。

 卜部蘭(積水化学)は2018年日本選手権1500m2位、19年日本選手権800m、1500mで二冠を果たした。選手たちをどのように導いてきたかをたどる前に、まずは自身の考えるコーチ像について聞いてみた。

横田 コーチになって3年がたち、僕自身、成功しているとは思っていません。そのなかで「コーチとは?」という命題は、僕のなかで一生問い続けるものだと思っています。僕自身、コーチがいないなかで800mの日本記録を出し、オリンピックに出場しました。ある意味、コーチという存在を否定しながら競技をやってきた人間です。

 コーチをつけなかった理由は、トラックに立って出た結果に対しては、選手自身がすべて責任を負うべきだと思っていたからです。コーチがいれば、トレーニングの立案や戦略などディスカッションしながらいろいろなことを決めていくと思うんですけど、自分自身が競技での結果に対して責任感を持ってやってきたなかで、自分と同じ目線で戦ってくれるコーチがいるのか、ずっと疑問でした。

 あとは800mをやっていくなかで、僕以前にオリンピックに出場した人も40年以上いなかったですし、ということはオリンピアンを育てたコーチも40年以上いなかったわけです。誰かと何かをつくり上げるには、同じ目線でなければ無理だと思っていましたが、その考えをコーチに押し付けるのも違う。だったら一番納得するのは、自分で考えて自分で組み立てたものに対しての結果を自分で受け止めることだったんです。

 日本選手権800mでは慶大1年時の2006年に初めて制したのを皮切りに、通算6度の優勝を果たした。09年に当時の日本記録(1分46秒16)を樹立し、12年ロンドン五輪に出場。これらは立教池袋高(東京)時代の顧問を除き、特定のコーチがいない環境のなかで成し遂げられたものだ。 

 そんな横田コーチだが、ロンドン五輪の後にアメリカに拠点を移し、現地のコーチの下でリオデジャネイロ五輪出場を目指すことになる。

横田 競技のことが分かってくればくるほど、これくらいの練習をすればこうなると予想できるようになります。ただ、それは自分の殻の中だけで勝負している気がしていました。その殻を突き破るには、本当に自分に厳しくないと難しいと思い、環境やコーチに求めようとしてアメリカに行ったんです。

 結果的にそれがうまくいかなかったわけですけど(笑)。最初についたコーチのところには、トレーニングパートナーがいませんでした。そこで環境を変えたんです。でも、2人目のコーチは「ここでやるなら、ある程度コミットするよ」というスタイルでした。
 

 最初のコーチのときと同様、僕はディスカッションして練習メニューを決めたかったのに、そのコーチが用意したものをこなすばかりで。メニューの狙いを聞いても、「それは考えなくてもいい」というタイプだったんです。

 それでも、自分さえしっかり持っていれば、ある程度乗り越えられると思っていましたが、流されてしまうこともあって、それも結果が出なかった一因でした。そんな経験を踏まえて自分がコーチになると決まってからですけど、どういうコーチが求められるのかということをすごく考えました。

 逆に言えば、アスリートとしての僕が求めるコーチ像を今、突き詰めているところです。アスリートの僕は人に対しても自分に対しても厳しい。その目線でコーチはどうあるべきかを考えることが僕のコーチとしての原点でした。


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