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2020-05-08

【陸上】プロコーチ横田真人の哲学 選手と一緒に一つのものを作り上げていく

選手の目線に立つとは

 現役時代には、「同じ目線に立つ」コーチに巡り合えなかった。月日は流れ、自身がコーチという立場に置かれたとき、人生を懸けて勝負しているアスリートと同様、プロとして活動することを選んだ。その点にもコーチとしての在り方が表れている。

横田 コーチとしてどうあるべきか、僕の考えでは、やはり「どれだけ選手の目線に立てるか」なんです。それは、ただ熱を入れて指導するという意味ではなく、選手と同じくらいのリスクを取らなければいけないということ。そうなって初めてお互い理解し合える部分があると思うんです。

「私がいなくなっても、次が入ってくるんでしょ」と選手が思っているチームと、選手とコーチが一緒に頑張っていかなければいけないという危機感を共有するチームがあったとします。どちらが強いかというと、危うさはあっても、おそらく後者だと思うんですよ。

 アスリートはシビアな世界で生きています。10年ほどのプロや実業団という世界を選び、人生を懸けて勝負をしていますから。同じように、プロのコーチとしてやっていくことが、選手と同じ目線に立つ上で一番大事なことだと思っています。仕事をする上で、結果が出なかったら責任を取るのが大前提じゃないですか。それくらい自分も追い込まないと。この会社も選手が活躍してくれないとつぶれますから(笑)。

 2017年にNIKE TOKYO TCでコーチとしてのキャリアをスタートさせたが、女子選手、それも中距離だけでなく、長距離の選手も指導することになった。不安もあるなか、いつしかコーチとしての自分の強み、スタイルを見いだしていくことになる。

横田 自分が教わったことがないので、初めは何を教えたらいいのか分かりませんでした。日本の長距離選手たちが置かれている現状に対してそれまで人ごとでしたが、実際、自分がコーチをするとなれば、そこと向き合わなければいけません。

 陸上名門校に入り、勝利至上主義、管理されたなかで育ってきた選手が社会に出て競技をやっていく。その後、引退してまた社会に出ていくという一連の流れを考えたときに、長距離や女性など、あまり関わったことがない選手に対して、中距離を専門とする自分が何を教えられるだろうか。

 当初は難しいと思っていました。でも、僕が育ってきた環境、バックグラウンドから彼女たちや若い選手たちに何か伝えられることはあると感じたんです。ティーチングの部分に不安はありましたが、かつて僕が求めていたように同じ目線で戦って、僕がやってきたことを伝えるということを考えれば、そんなに難しくないのかなと。
 

 それまでの自身の経験だけでなく、僕はいろんなものを外から吸収するタイプなので、それらを含めて、そのときそのときに感じたもの、考えているもの、得たものを常に伝えていく作業はできると思ったんです。

阿見AC所属の楠康成(右)。チームメイトの田母神一喜、飯島陸斗と共にTWOLAPS TCに加入(撮影/TomoakiKikuchi)


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