コーチングの実例として、意識している点はどのようなことか。それは、個々の選手をしっかりと見ること、そして、引退後のキャリアまで考えて指導することだという。対話を通じた、いわばオーダーメードの指導。そんなところも選手から信頼を寄せられる秘訣かもしれない。
横田 僕はコーチングメソッドが一生できないと思っているんです。ですから、本も書けません(笑)。意識しているのは、一人ひとりを見てあげるということ、それがまず一つ。対話を通して、その選手が本当に必要だと思っていること、課題に感じていることを僕からも情報を提供しながら一緒に一つのものをつくり上げていくという感覚です。
その選手がやってきたこと、その選手が育ったバックグラウンド、今の状況など、いろいろ考えてディスカッションしながらつくっていきます。そこは本当にパーソナルに見ています。だって、どう考えても新谷と卜部は違うんですよ。仮に卜部が5000mや10000mをやろうとしても、新谷に対するアプローチでは絶対に強くなりませんから。
練習では基本的に僕からフィードバックはしません。選手に「どうだった?」と聞いて、その返事に対し、「僕はこうだと思う」「そこはそうだね」など、選手から発信してもらうことをスタート地点にしています。
もう一つは、選手が引退した後のキャリアまで考えて指導するということ。だから、僕はプライベートまで入っていきます。言い方は変ですけど深いところまで。例えば、「新谷が引退した後に、どうやって稼いでいかなきゃいけないんだろうね」という話をしていくと、おのずと競技プラスアルファの部分になってくるわけです。
そのときに自分の話もしてあげることで、お互い競技とその先の話をするようになる。その部分も含めて、今はこれをやった方がいいのでは、とコーチングすることで、関係は普通のチームより深くなるかなと思っています。
現在もアメリカの大学院で研究を続ける「アスリートのキャリア形成」は、横田コーチの大きなバックボーンになっている。アスリートとしてのゴールにとどまらず、その先の一人の人間としてどうなりたいかを見据えたところから逆算したときに、選手として今やるべきことが見えてくる。選手とコーチがゴールの部分を共有することは、とても大事なことだという。
横田 昨日のトレーニングは今日のトレーニング、それが次の試合につながって、その先の人生につながっていく。すべてがつながっていると思うんです。僕にとってはすべてセットなんです。それに関してはアメリカで学んできましたし、アスリートのキャリア、そのキャリアを踏まえた上でどう育成していくかを今もアメリカの大学院で学んでいるところです。
幼少期がどうあるべきかを含めて、中学、高校、大学、プロ、その後を含めてトータルで考えるのが僕のコーチングのスタイルで、そこはほかと違うところかもしれません。
というか、最終的にどういう人になりたいかが定まらないと、どういうアスリートになりたいかを描けないと思うんですよ。最終的にどういう人になりたいの、じゃあ、こういうアスリートだよね。で、そのアスリート像に今の君の行動はひも付いているの? という話になるので。
僕に「今、君はこうあるべきだ」と言われても、選手は「それはあなたが思っていることでしょ」と感じるだろうし、やらされていることにもなりかねない。でも、もっと先のゴールから逆算してあるべき姿の話をしていると、「で、君はどうするべきだと思うの?」という話になって、そこで、僕はこうやった方がいいと思うよというアプローチなら、やらされている感覚が少ない。
このような話をしなくても自分で決められる選手もいれば、迷ってしまう選手もいます。そんな選手がいれば、1対1でコミュニケーションを取って整理していってあげる。それは頻繁にやっていますね。
そのアプローチは、チームに入りたいという選手に対しても同様です。「どういう人間になりたいの?」「君はアスリートとしてどうなりたいの?」「何がゴールなの?」「じゃあ、来年は?」みたいに。そこが言えなかったら考えてきてって。答えは何でもいいんです。
でも、言い切れるかどうかと、具体的であるかという点を重視しています。例えば、「中距離で結果を出したい」といった答えだと、「結果とは?」となる。
僕が考える結果と彼らが考える結果は違うかもしれないじゃないですか。根本がずれていると、やっていること、メニューに対しても認識のずれが絶対に出てくるんです。そこの共有はどの選手ともします。なぜならば、われわれはたくさんの選手のなかから、生き残った人が強いみたいなスタイルではなく、一人ひとりを強くしなければいけない。
そうなったときに少しのずれが脱落していく一番大きな原因になる。根本となるゴールの部分、そこがはっきりしていないのは絶対ダメなんです。この点を重視していくことは、今後も変わらないと思います。
所属が異なる選手たちが互いを高めながら、それぞれの目標達成のために日々のトレーニングに励んでいる(撮影/TomoakiKikuchi)
陸上競技マガジン2020年5月号から転載
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