このところ、世界のリングも夏季休養の気配だったが、今週、一気に活気を取り戻す。世界中で注目したいイベントが開催されるが、とりわけ期待したいのはセルゲイ・コバレフのロシア凱旋。紳士的な破壊者コバレフの晴れ姿も見たいところだが。相手はずば抜けた強打で快進撃中のアンソニー・ヤード(イギリス)。一切の油断は許されない。

写真上=セルゲイ・コバレフ

8月24日/トラクトール・スポーツパレス(ロシア・チェリャビンスク)

★WBO世界ライトヘビー級タイトルマッチ12回戦
セルゲイ・コバレフ(ロシア)対アンソニー・ヤード(イギリス)

コバレフ:36歳/37戦33勝(28KO)3敗1分
ヤード:28歳/18戦18勝(17KO)
※ESPN+で全米中継

 古強者コバレフがロシアで世界戦を行うのは2度目。故郷のコペイスクはこのチェリャビンスクの衛星都市で、今回が初めての地元凱旋となる。だから、なんとしても勝ちたいところだ。だが、チャレンジャーはとっても危険である。このところ、かつての安定感がやや目減りしているコバレフにとっては、相当な覚悟が必要な戦いになりそうだ。

 とはいえ、事前に優劣を競うとなると、コバレフのキャリアがとにかく雄弁に見える。質実剛健なファイトスタイルは、一度はKOに討ち取られたエレイデル・アルバレス(コロンビア)の手荒な手口を再戦できっちり管理して見せた。かつての豪快なパンチは印象を薄めても、熟成の手技が光る。

画像: アンソニー・ヤード

アンソニー・ヤード

 一方、ヤードは豪快なパフォーマンスが売り物。欧米のボクサーには珍しく、19歳でボクシングを始め、アマキャリアの経験は12戦しかない。じっくりとプロで鍛えた選手だ。攻防がやや直線的に過ぎるのは、現時点では最大の課題かもしれない。一撃一撃のパンチは一級のフォームと角度で繰り出されるが、自分から試合を作る術については未知数。初の世界挑戦こそが、本当の意味でテストされる戦いになる。

 コバレフがうまくかわしていく公算が高いとはいえ、とにかくヤードのパワーは素晴らしい。スピードもある。そういう基礎的な能力の違いが、大きな波乱を呼ぶかもしれない。ヤード自身も「コバレフは怖がっているんじゃないか。ほんとうは俺と戦いたくないんだ」と威勢がいい。

◆キック王パピンの上位進出なるか

 ロシアはもともとアマチュアボクシング大国。長いアマ生活を経て、プロに転向してくるケースが大半だ。だが、実はボクシングとともに習ったキックボクシングで大いに実績を上げた選手も多いのだ。たとえば、元ヘビー級世界王者のアレクサンデル・ポベトキンはアテネ五輪の金メダリストであると同時に、キックのヨーロッパチャンピオンでもあった。

 さて、コバレフ対ヤード戦の前座でもっとも注目したいのはクルーザー級12回戦。WBCシルバーのタイトルがかけられる。この王座のタイトリストはイルンガ・マカブ(コンゴ/31歳/25勝24KO2敗)。ゴムまりのように柔らかく動き、ダイナミックな拳を突き刺すワンダーボーイだ。しかし、主役は地元のアレクセイ・パピン(ロシア/31歳/11戦11勝10KO)にほかならない。この男こそがキックのスターから国際式に降臨したスター候補なのだ。

 パピンのボクシングは、マカブとは対照的にどこか固い。しかし、しっかりと距離をとって戦えば、不要な被弾も多いマカンブに一発を決めるチャンスもある。そして、ロシアのファンにとってマカンブは、この6月に人気の怪腕ドミトリー・クドラショフをストップした憎き敵。ここはパピンに仇をとってもらいたいところだろう。

 もうひとり見逃せないのが、ミドル級10回戦に出るメイリム・ヌルスルタノフ(カザフスタン/26歳/11戦11勝8KO)。普段はアメリカのウェストコースト・エリアで活躍しているが、久々に東ヨーロッパに帰ってきた。取り立ててパンチャーというわけではないが、スムーズな動きから豊かな角度で強打を打ち込む。セミプロリーグWSBで12勝1敗は伊達ではない。対戦するアルトゥール・オシポフ(ロシア/30歳/15勝10KO1敗)は不敗の連勝を止められたばかり。こちらも負けられない。

8月24日/セントロ・デウソス・マルティプル(メキシコ・ソノラ州エルモシージョ)

画像: ファン・フランシスコ・エストラーダ

ファン・フランシスコ・エストラーダ

◆日本勢も注目せよ。エストラーダの初防衛戦

★WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦
ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)対ドウェイン・ビーモン(アメリカ)

エストラーダ:29歳/42戦39勝(26KO)3敗
ビーモン:34歳/18戦16勝(11KO)1敗1分
※DAZNで日本時間25日午前8時からライブ中継

 シーサケット・ソールンビサイ(タイ)との激闘を勝ち抜いたエストラーダの初防衛戦になる。このところアメリカでの試合が続き、メキシコ国内で世界タイトルマッチに出場するのは4年ぶり。この試合はエディ・ハーンにメキシコの有力プロモーター、フェルナンド・ベルトランのサンフェル・プロモーション、ドイツの歴史的な大プロモーター、ウィルフリード・ザウアーラントが共同でプローモションする。それぞれの契約選手が前座にたくさん出場するという事情もあるが、攻撃型技巧派としてのエストラーダがそれだけ評価されているということだ。

 ビーモンはアメリカでチャンスがもらえず、ホームリングをメキシコに移し、中堅強豪を連破。日本で八重樫東(大橋)とクロスファイトを演じたマルティン・テクアペトラ(メキシコ)に初黒星を喫したものの、再戦に勝って生き残った。エストラーダとしては軽視はできないにしても、きっちりと力の差を見せつけたい相手だ。

 海外でのビッグマッチを追いかけるWBOチャンピオン、井岡一翔、将来的には4階級制覇に向かうはずの田中恒成(畑中)ら日本人選手にとっても、エストラーダはかけがえのないターゲットになる。展開はじっくり注視したいところ。エストラーダ自身はこの試合に勝てば、IBFチャンピオンのカリド・ヤファイ(イギリス)との統一戦に向かいたいとしている。

◆メキシコ国外から五輪メダリストも参戦

画像: シャクラム・ジヤソフ(左)

シャクラム・ジヤソフ(左)

 リオ五輪銀メダリスト、2017年世界選手権優勝のウェルター級、シャクラム・ジヤソフ(ウズベキスタン/26歳/8戦8勝6KO)が元暫定世界チャンピオン、ダルレイス・ペレス(コロンビア/35歳/34勝22KO4敗2分)と10回戦を戦う。速いテンポで実績を積み上げるジヤソフはやや攻めにはやりすぎの感もあるが、プレッシャーは厳しい。往年の安定感を欠いているペレスをどんな形で攻略するのだろう。

画像: フィリップ・フルゴビッチ(右)

フィリップ・フルゴビッチ(右)

 リオ五輪ヘビー級銅メダリストのフィリップ・フルゴビッチ(クロアチア/27歳/8戦8勝6KO)はマリオ・エレディア(メキシコ/26歳/16勝13KO6敗1分)と。エレディアは身長178センチにして体重130キロを記録したこともある超太目。198センチ、100キロのそっぷ型フルゴビッチのハードパンチが通じるのか。

 元WBO世界スーパーウェルター級チャンピオン、リアム・スミス(イギリス/31歳/27勝15KO2敗1分)も出場予定。対するマリオ・アルベルト・ロサノ(メキシコ/32歳/33勝24KO9敗)は4連敗の不振から這い上がったタフガイだが、スミスが再浮上のためには難なく打ち破りたい。

8月24日/サンアンドレス・シビック&スポーツセンター(フィリピン・マニラ)

画像: ジョンリール・カシメロ(右)

ジョンリール・カシメロ(右)

◆強打のカシメロ、バンタム級戦線にアピール

★WBO世界バンタム級暫定タイトルマッチ12回戦
ジョンリール・カシメロ(フィリピン)対セサール・ラモス(メキシコ)

カシメロ:30歳/31戦27勝(18KO)4敗
ラモス:31歳/21戦18勝(11KO)3敗

 正規王者のソラニ・テテ(南アフリカ)が肩の故障でWBSSから離脱、復帰のめどが立たず、設けられた暫定王座の決定戦に勝ったカシメロは、とりあえず3階級制覇を成し遂げた形になる。ライトフライ級時代から定評のあったハードパンチはバンタム級でも健在。決定戦ではリカルド・エスピノサ(メキシコ)を最終回でKOに打ち倒してみせた。5年ぶりにフィリピンで行う世界タイトルマッチに当然ながら張り切る。

 挑戦者のラモスは、2016年にライアン・バーネット(イギリス)に完敗してからは5連勝(4KO)だが、これといった強敵との対戦は見当たらない。むらっけがあるとはいえ、カシメロがその強さを見せつけたい。そうすれば井上尚弥(大橋)をはじめとする他団体のライバル王者からも視線を向けられることになる。

8月24日/プエルトリコ・コンベンションセンター(プエルトリコ・サンファン)

ビック・サルダール

◆サルダールはカリブに遠征

★WBO世界ミニマム級タイトルマッチ12回戦
ビック・サルダール(フィリピン)対ウィルフレド・メンデス(プエルトリコ)

サルダール:28歳/22戦19勝(10KO)3敗
メンデス:22歳/14戦13勝(5KO)1敗

 山中竜也(真正)からタイトル奪取、谷口将隆(ワタナベ)を破って初防衛と、日本勢の宿敵とも言えるサルダールが、遠くカリブ海まで出かけてV2戦に臨む。対するは地元期待のメンデス。つい半年前まで鍛えがいのある若手に過ぎなかったのだが、世界王座挑戦の経験もあるハニエル・リベラ(プエルトリコ)を破って、一気に世界挑戦にまでこぎつけた。

 長いアマチュア経験、スピード、切れ味とも一級のサルダールだが、安定感はもうひとつ。スタミナの不安もいまだつきまとう。長いリーチを利して、ビジーに戦うなら、勝利はかたいはず。それでも、ホームリングでは本来の力以上の戦いを見せるプエルトリカンだけに、容易な戦いにならないはずだ。

 会場のプエルトリコ・コンベンションセンターは約1万6000人のキャパを持つメインアリーナと、約4200人収容のボールルームがあるが、今回使用されるのはボールルーム。メンデスもここで勝って、もっと大きな知名度を獲得したい。プエルトリコはイバン・カルデロンのようにミニマム級でもスーパースターになれるお国柄なのだ。

 前座にはスーパーライト級のジャン・カルロス・トーレス(29歳/16戦16勝12KO)、ライト級のネストル・ブラボー(25歳/16戦16勝11KO)が出場する。大器と言われて久しいフェリックス・ベルデホがいまいち調子の出ない現状では、このふたりに加えて、14戦オールKOのスブリエル・マティアスが追い抜いていく可能性もありそうだ。

8月24日/バート・オグデン・アリーナ(アメリカ・テキサス州エディンバーグ)

画像: ブランドン・フィゲロア

ブランドン・フィゲロア

◆フィゲロア弟がテキサスで暫定王座防衛戦

★WBO世界スーパーバンタム級暫定タイトルマッチ12回戦
ブランドン・フィゲロア(アメリカ)対ハビエル・チャコン(アルゼンチン)

フィゲロア:22歳/19戦19勝(14KO)
チャコン:38歳/34戦29勝(9KO)4敗1分
※USA・FOXスポーツ1で中継

 有名なボクシングファミリーのひとつ、フィゲロア家の新しい主役が、地元テキサスの最南部エディンバーグで世界タイトルマッチのリングに立つ。チャンピオンのブランドン・フィゲロアは175センチの長身から繰り出す強打で、ベネズエラの実力者ヨンフレス・パレホを棄権に追い込み、WBOの暫定王座に就いたばかり。このところ5連続KOと絶好調だ。

 初防衛戦の相手は大ベテランのチャコン。過去2度の世界挑戦には敗れている。ただ、テンポの速い攻防の持ち主。さらにアルゼンチンのボクサーには30代後半にもうひと伸びするケースもままある。若いフィゲロアも容易な相手と見下してかかるわけにはいかないだろう。

 だが、フィゲロアの気勢は上がる。「僕のスピードと技術を見てほしい」。7月、兄の元ライト級王者オマールがプロ転向以来10年以上も守った不敗レコードに初めて土をつけられたばかり。「そりゃ、傷ついたよ。でも、今度はぼくがファミリーネームを引っ張る番だ。その間に兄貴も帰ってくるはず」。

 端正なマスクにもう一段上の強さが加われば、明日のスター候補の一角にもあげたくなる。

◆前座にはPBC系の若手が続々

 PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオン)の興行らしく、アンダーカードはヤングスターの花盛り。いずれもこれといった決め手がないのは難だが、うまくきっかけを作れば大きく育つ素材を集めている。

 スーパーライト級のダーウィン・プライス(アメリカ/30歳/14戦14勝7KO)はブランクがちなキャリアながら、きちんと不敗をキープしている。同い年の中堅、アーロン・エレラ(メキシコ/35勝24KO10敗1分)との対戦はステップアップへのいい材料になるかも。

 スーパーバンタム級のスティーブン・フルトン(アメリカ/25歳/16戦16勝7KO)はトップへ大きく動き出している。前戦では大ベテランの元世界王者パウルス・アンブンダ(ナミビア)にフルマーク勝ち。今度はイサック・アベラル(メキシコ/21歳/16戦16勝10KO)との不敗対決だ。フルトンが内容を伴う勝ち方ができたなら、フィゲロアの次期対戦者候補になるかもしれない。

 もうひとり、スーパーフェザー級のハイメ・アルボレダ(パナマ/24歳/14勝12KO1敗)はこれがアメリカ・デビュー戦。そのハイセンスと180センチの長身から打ち込むパンチの鋭さで早くから注目を集めてきた存在だ。唯一の敗戦が無名に痛烈KO負けというのは心配の種だが、ボクシング大国での初陣を飾ってすくすくと伸びてほしい。相手のビクトル・ベタンコート(メキシコ/28歳/26勝13KO2敗1NC)は、可能性を測るにはうってつけの戦歴の持ち主である。

 なお、2009年に来日し、下田昭文(帝拳)と負傷引き分けを演じた当時の世界ランカー、ホセ・アルボレダはハイメの叔父にあたる。ホセは下田と戦った半年後、バスの横転事故により、27歳の若さで亡くなっている。ハイメにとっても一族のタフな記憶として強く残っているという。

まだまだあるぞ!注目カード

◆ロシアの新しい切り札がアメリカ登場

 次々に新しい顔が出現する東ヨーロッパ勢だが、最新のセンセーションがミドル級のウラディミール・シシュキン(ロシア/27歳/8戦8勝6KO)だ。身長185センチのスタイリッシュなボクサーパンチャーは、早い段階から注目されていたが、ニューヨークをベースにするプロモーター、ドミトリー・サリタと契約し、アメリカに渡ってきた。その初戦からShowtimeが若手有望株を中心に放映する『SHOBOX』のメインイベントという好待遇だ(24日/アメリカ・オクラホマ州ブロークンアロー)。

 シシュキンは五輪、世界選手権というビッグトーナメントには縁がなかったが、有力なアマチュアとして活躍。301勝29敗というレコードを残している。2016年にプロ転向以後も、たびたびアマチュア大会に出場し、昨年10月、世界挑戦経験を持つナジブ・モハメディ(フランス)をTKOに破った後も、ロシアが石油を供給する国々との国際トーナメントに出場し、優勝を飾っている。

 対戦するのはデアンドル・ウォル(アメリカ/31歳/13勝8KO1敗2分)。今年2月、ホープのロナルド・エリス(アメリカ)を破った強敵だ。シシュキンが危なげなくウォルを打ち破れば、そのままトップクラスと対戦する方向になるかもしれない。

画像: ショージャホン・エルガショフ

ショージャホン・エルガショフ

 ダブルメインのもうひとつも、旧ソ連圏出身のスター候補が登場する。スーパーライト級のショージャホン・エルガショフ(ウズベキスタン/27歳/16戦16勝14KO)が10回戦を行う。前戦では身長192センチのマイカル・フォックス(アメリカ)に手こずりながらも、力で押し切った。伸び悩む対戦者アブディエル・ラミレス(メキシコ/28歳/24勝22KO4敗1分)にはそれほど苦労することもないかもしれない。

 この日のカードには、ウェルター級の絶対的なホープ、ジャロン・エニス(アメリカ/22歳/22戦22勝20KO)、ブランドン・リー(アメリカ/20歳/14戦14勝12KO)も登場する。いったん、スケジュールから名前が外れて心配させたが、直前になって復活した。エニスはプロモーションとの契約をめぐり、1年近くも活動が止まっていた。素晴らしいセンスの持ち主で、あらゆるシチュエーションを自ら造り出し、ここぞのタイムリーヒットを重ねて豪快KOする。アクティブに活動すれば、2年以内にトップに躍り出ることも可能な逸材だ。韓国人の父とメキシコ人の母を持つリーも豪打が売り物。両者とも数々の王者をガイダンスしたキャメロン・ダンキンがマネージャーをつとめる。

 なお、Showtimeは自分の番組で育った若手がどんどん地上波FOXとその系列局に持っていかれるため、ボクシングから撤退かと噂も立っていたが、ボクシングのトップ、スティーブン・エスピノサは言下にこれを否定している。

文◎宮崎正博
写真◎ゲッティイメージズ

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