イギリスのプロボクシングは8月の1ヵ月、バケーション期間でお休み。大小にかかわらず試合はなかったが、最終週の週末、ようやくビッグマッチで帰還である。無敵王者ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)のイギリス初登場という、とっておきのカードで秋のシーズンの幕が開ける。ロマチェンコがライト級で五輪連覇を果たしたロンドン五輪、バンタム級で同じく金メダルを獲得したルーク・キャンベル(イギリス)を相手に3団体のライト級世界王座統一をかけて戦う。イギリス国内でのキャンベル人気は高い。大いに盛り上がりそうな気配だ。

写真上=記者会見の席上、にらみ合うロマチェンコ(左)とキャンベル

8月31日/O2アリーナ(イギリス・ロンドン・グリニッジ)

★WBAスーパー・WBC・WBO世界ライト級タイトルマッチ12回戦
ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)対ルーク・キャンベル(イギリス)

ロマチェンコ:31歳/14戦13勝(10KO)1敗
キャンベル:31歳/22戦20勝(16KO)2敗
※WOWOWオンデマンドで日本時間1日午前5時ころからストリーミング生中継。午後3時よりWOWOWライブでディレイ中継

 肩の故障から帰ってきて、ロマチェンコの凄味がまたしてもグレードアップした。4月のアンソニー・クロラ(イギリス)戦では、多角的なステップワークから、強烈な一矢で失神KOを演出した。アマチュア時代からずっとハイレベルを維持、さらにプロ仕様の進歩を重ねてきたが、現在地が最高到達地点であるかもしれない。将来的にはスーパーライト級転向、あるいはジャーボンタ・デービス(アメリカ)らとの対戦をにらんでスーパーフェザー級に回帰と、さまざまな憶測がなされているが、ウクライナ人サウスポーが今、熱望しているのはライト級王座4団体の統一だ。

 今回の試合には保持するWBAスーパー、WBO王座に加え、空位のWBCタイトルもかけられる。敵地とは言え、最高級の熱気に包まれるイギリス・リング登場に本人も大乗り気。万全の形を備えてくるはずだ。

 世界初挑戦でホルヘ・リナレス(ベネズエラ/帝拳)に敗れているサウスポーのキャンベルは、オリンピックチャンピオンということで、今でも人気は高い。ボクシングはやや素直に過ぎる傾向もあるし、採点上は食い下がった2年前のリナレス戦も、内容的には点差以上に力の差があったようにも感じられた。とはいえ、ベーシックな部分はよく鍛え上げられ、常に好戦的なタレントには違いない。

 予想となるとロマチェンコの圧倒的有利は動かせない。まさに自在にコントロールしていくのではないか。そして中盤過ぎには痛快なKOシーンも期待できる。

 ロマチェンコが勝てば、IBFチャンピオン、リチャード・カミー(ガーナ)との対戦がすでにラインに入っているとも言われる。ライト級最終決戦に向けて、一番いい形を追及したいところだろう。

◆エドワーズはメキシコの強敵を迎え撃つ

★WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦
チャーリー・エドワーズ(イギリス)対フリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)

エドワーズ:26歳/16戦15種(6KO)1敗
マルティネス:24歳/15戦14勝(11KO)1敗

画像: チャーリー・エドワーズ

チャーリー・エドワーズ

 クリストファー・ロサレス(ニカラグア)を攻略したエドワーズの2度目の防衛戦になる。初防衛戦は格下が相手だったが、今回はなかなかの大勝負となった。

 対戦者のマルティネスはデビュー戦に敗れただけで、ここまで14連勝をマークしている。5月、挑戦者決定戦で、イギリスのアマチュアレジェンド、アンドシュー・セルビーをノックアウトして、指名挑戦権を手に入れたばかり。勢いはある。

 一方、エドワーズはパワフルなロサレスを大差で破ったように、動きの良さとシャープな攻撃に持ち味がある。決定力となるとやや心細いが、技術面では一歩リードする。マルティネスはセルビーをうまく乱戦に持ち込んだように、今度も激しく攻めてくるに違いないが、エドワーズがこのメキシカンをどうコントロールしていくかがカギになる。

 最近のメキシコ勢は、大勝負に強い。国際的には知られていなくても、いきなり世界戦で急成長する若い選手が続出している。22歳のハイメ・ムンギア(WBOスーパーウェルター級)、24歳のエマヌエル・ナバレッテ(WBOスーパーバンタム級)、さらに22歳のエルウィン・ソト(WBOライトフライ級)と、これだけ番狂わせの世界奪取が続けば、これはもうアステカ・ボクシングの底力と評価せざるをえない。エドワーズもそうとう手綱を締めて戦う覚悟が必要だ。

◆古豪ポベトキンが3戦連続でイギリス登場

画像: アレクサンデル・ポベトキン

アレクサンデル・ポベトキン

 アレクサンデル・ポベトキン(ロシア/39歳/34勝24KO2敗)はまだあきらめていない。ウラジミール・クリチコ(ウクライナ)に手玉に取られ、WBA世界ヘビー級王座を失ったのは6年前。昨年にはアンソニー・ジョシュア(イギリス)に痛烈なKO負けを喫した。そして、今回の試合の2日後には40歳の誕生日を迎える。それでも、危険度AAという評価が与えられている。堅実な攻め口に、一撃の破壊力は健在だ。その古豪が3戦続けてのイギリス登場になる。

画像: ヒューイ・フューリー

ヒューイ・フューリー

 この日、10回戦でグローブを交えるのは、ヒューイ・フューリー(イギリス/24歳/24勝13KO2敗。いとこのタイソン・フューリーには及ばないものの、198センチの長身の持ち主だが、カリスマ性は遠く及ばない。2017年、当時のWBO王者ジョセフ・パーカー(ニュージーランド)への挑戦は、自分から仕掛けないまま、もみ合いだらけの凡戦のあげくに判定負け。昨年秋にはこれまたベテランのクブレト・プーレフ(ブルガリア)にも敗れてしまった。あとのないフューリーがイギリス第2集団に踏みとどまるためには、これがラストチャンスかもしれない。

画像: ジョー・コーディナ(左)

ジョー・コーディナ(左)

 同じカードにはオリンピック代表組のジョシュア・ブアツィ(26歳/11戦11勝9KO=ライトヘビー級)、ジョー・コーディナ(27歳/9戦9勝7KO=ライト級)、さらにロンドン、リオと2度、五輪に出場し、クラレッサ・シールズ(アメリカ)にも勝ったことがある女子ミドル級のサバナー・マーシャル(28歳/6戦6勝4KO)、元トップアマチュアのスター候補ダルトン・スミス(22歳/2戦2勝1KO)とイギリスの精鋭が顔をそろえる。

 なお、この試合はトップランクとマッチルームの共同プロモート。現地ではマッチルーム側のスカイTV、アメリカにはESPNで中継される。有力プロモーターたちがスター選手の囲い込みばかりに奔走してきたが、新しい波が押し寄せているようだ。ボブ・アラムはテレンス・クロフォード(アメリカ)をエロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)と対戦させるために「話し合ってもいい」とコメントしたこともあり、これが大きな流れになってほしいものだ。

8月31日/ミネアポリス・アーマリー(アメリカ・ミネソタ州ミネアポリス)

◆ララ、36歳の王座復活なるか

★WBA世界スーパーウェルター級王座決定戦12回戦
エリスランディ・ララ(キューバ)対ラモン・アルバレス(メキシコ)

ララ:36歳/31戦25勝(14KO)3敗3分
アルバレス:33歳/39戦28勝(16KO)7敗3分1NC
※FOXで全米中継

画像: エリスランディ・ララ

エリスランディ・ララ

 ジョイントカードに出場予定だったカレブ・トルアックス(アメリカ=スーパーミドル級)が負傷してピーター・クィリン(アメリカ)戦が流れ、この試合が単独メインイベントになった。

 なるほど、ララは地味ながらもいまだ堅実なボクシングを見せる。地上波カードの主役にもそん色はない。ただ、このところ、競った戦いで勝ち切れていないのは気になるところ。ジャレット・ハード(アメリカ)のパワーをうまくしのぎながらも、最終回にダウンを喫して逆転された。今年3月にはブライアン・カスターニョ(アルゼンチン)と引き分けて、タイトル奪回を果たせていない。そんなララの最近の対戦相手に比べると、カネロ・アルバレスの兄ラモンの戦力は確かに落ちる。

 ハードに雪辱、さらにはそのハードに勝ったジュリアン・ウィリアムス(アメリカ)との対戦を強く望んでいるララだけに、ここはすっきりと勝ち切りたいところだ。

◆今回のPBCも期待の若手が勢ぞろい

 毎度のことだが、今回のPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオン)も「これでもか!」というくらいに有力な若手が登場する。なかでも一番に注目したいのは、ヘビー級のフランク・サンチェス・ファウレ(キューバ/27歳/12戦12勝10KO)か。193センチ、100キロ弱の体は、現代ヘビー級でははっきりと小柄だが、動き、パンチとも切れ味はトップクラスだ。地元キューバでのアマチュア時代には、五輪の金メダル候補エリスランディ・サボンにも勝ったことがある。

 プロになって2年、もともと90キロ級(アマチュアのヘビー級)を10キロ増量する体作りと、プロとしての経験作りに費やしてきたが、今回の相手は少しばかり骨がある。ビクトル・ビスバル(プエルトリコ/39歳/23勝17KO3敗)は元オリンピアン。一時はホープとして注目されたこともある。ややブランクがあって、これが再起2戦目。サンチェスより少なくとも10キロ程度は重い体重でリングに上がってくるはず。

 サンチェスがこの大柄で、キャリアのある相手に快勝すれば、その将来はいよいよ楽しみになってくる。

 このほかにも、キューバの血を引くセバスチャン・フンドラ(アメリカ/21歳/13戦13勝9KO)も気になる。スーパーウェルター級にして身長はなんと197センチ。”タワーリング・インフェルノ"のニックネームそのままだ。父フレディの方針で、ミドル級のレジェンドボクサー、セルヒオ・マルティネス(アルゼンチン)の指導を受け、そのためにメキシコやウルグアイ、アルゼンチンでも試合をこなす。最近はカリフォルニア州ビッグベアーのタイソン・フューリーのキャンプにも参加した。これからの成長に期待を寄せたい段階だが、相手はアマチュアの元アメリカ代表、ジャモンティ・クラーク(24歳/14勝7KO1敗)となかなかタフなマッチメイクだ。

画像: ジャニー・アルヒゴラス

ジャニー・アルヒゴラス

 アマチュアにとどまれば、東京五輪の優勝候補だったと評判のマニー・パウェル(アメリカ/21歳/10戦10勝6KO)をはじめ、若手の精鋭が次々に登場するが、ライトフライ級でリオ五輪銀メダル、2017年世界選手権金メダルのジャニー・アルヒゴラス(キューバ/22歳/2戦2勝)の名前も見える。今年5月にプロ転向後、2-0、2-1の判定勝ちと、それぞれきわどい戦いでやや心もとない。ここらで才能開花となるか。

◆恵まれない中堅にもチャンスを

 最近のPBCの傾向では、トップにまっしぐらという選手ばかりでなく、中堅クラスでやや伸び悩んでいたり、思わぬ敗戦を喫してしまった選手たちのカードも積極的に取り組んでいる。そんなグループの中から今回登場するのはふたりのバンタム級、デューク・ミカー(ガーナ/27歳/22戦22勝18KO)とレイマート・ガバロ(フィリピン/23歳/21戦21勝18KO)。

 ミカーは際立つパンチングパワーで、将来のスター候補と目された時期もあるが、イギリスにベースを移したあたりから失速していく。内容の乏しい試合が続き、その後アメリカに転戦したが2戦続けて苦戦。これが15ヵ月ぶりの試合になる。ガバロは2年前、ハワイで豪快KO勝ちを披露して騒がれたが、その後は鳴りをひそめ、いつのまにかフィリピンに帰っていた。こちらも1年半ぶりのアメリカ登場になる。

 厳しい立場だから、安易な相手は用意されない。ミカーは12連勝をマークしたこともあるルイス・ロイ・スアレス(メキシコ/26歳/13勝7KO1敗)。カバロは17連勝を記録したジェイソン・バルガス(コロンビア/29歳/17勝11KO1敗)。つまり後者のふたりにとっても、この戦いは大事なセカンドチャンスになるわけだ。

まだまだあるぞ!注目カード

◆ジェフ・ホーンがミドル級転向2戦目

画像: ジェフ・ホーン(右)とザラファ

ジェフ・ホーン(右)とザラファ

 元WBO世界ウェルター級チャンピオン、ジェフ・ホーン(オーストラリア/31歳/19勝13KO1敗1分)がミドル級に転向しての2戦目を行う。31日、オーストラリア・ビクトリア州ベンディゴのベンディゴ・スタジアムでのマイケル・ザラファ(オーストラリア/27歳/26勝15KO3敗)との12回戦だ。

 2年前にマニー・パッキャオ(フィリピン)を破って一躍、ヒーローとなったホーンは、テレンス・クロフォード(アメリカ)に敗れて王座を手放した後、アンソニー・マンディン(オーストラリア)とのライバル戦に初回KO勝ちし、160ポンド級にデビューしている。マンディンは数多くのビッグファイトを経験した超人気者だが、昨年11月の試合時には43歳。はっきりと戦力に陰りを見せており、ホーンが本当に試されるのは今回が初めて。ミドルの体でどこまでやれるのだろうか。

 対戦するザラファは確かに3敗しているが、モスクワで対戦したアリフ・マゴメドフ(ロシア)、アメリカ遠征でのピーター・クィリン(アメリカ)、さらにロンドンでのケル・ブルック(イギリス)と、敵地で強敵を相手にしたものばかり。オーストラリア国内では負けていない。ホーンが新階級を試すなら、格好の相手である。

 前座のスーパーバンタム級10回戦では、早くも次期スーパースター候補との呼び声高いブロック・ジャービス(オーストラリア/21歳/16戦16勝15KO)が、大事なテストマッチを迎える。エルネスト・サウロン(フィリピン/30歳/22勝9KO4敗2分)は昨年、日本で岩佐亮佑(セレス)が持っていたIBF世界王座に挑んだこともある(判定負け)。ジェフ・フェネック(3階級制覇の名チャンピオン)の再来というジャービスの評判は本物か。ホーン同様、こちらも注目したいところ。

画像: ジョセフ・グッドール

ジョセフ・グッドール

 もうひとり、ヘビー級のホープ、ジョセフ・グッドール(オーストラリア/27歳/6戦6勝5KO)も6回戦に出場する。長くアマチュアのトップとして活躍、2017年の世界選手権で銅メダルを獲得した後でプロに転向している。プロではまだ新人。着実に勝ち星を積み重ねたい。

◆マグサヨの20連勝はなるか

 フィリピンのフェザー級で最大級のホープ、マーク・マグサヨ(24歳/19戦19勝14KO)は31日、フィリピン・ボホール州タグビラランのボホール・ウィズダム・スクールジムでパニャ・ウトック(タイ/29歳/53勝35KO6敗)と10回戦を戦う。

 シンガポールのプロモーションと契約して、新たな路線を歩みだしたマグサヨはもともと試合にむらがあり、今回もそこが心配。対戦者のウトクは、元WBO世界バンタム級チャンピオンのプンルアン・ソーシンユーのこと。2016年にマーロン・タパレス(フィリピン)にKOされてタイトルを失ってから1年後にカムバックしたが、このときはなんとウェルター級。次がライト級で、最新試合はスーパーフェザー級。往時の力を期待していいのだろうか。

◆丸木凌介が中国のリングに

画像: 丸木凌介 写真◎ボクシング・マガジン

丸木凌介
写真◎ボクシング・マガジン

 日本スーパーウェルター級4位にランクされる丸木凌介(天熊丸木)は31日、中国・青島のTSSGセンターで、アイニウエア・イリシャティ(中国/26歳/15勝11KO1敗)と10回戦を行う。この試合には空位のWBCアジア、マイナー団体IBOアジア・パシフィックのミドル級タイトルがかけられる。

 中国プロモーター、李勝とトップランクが組んだ中国市場開拓プロジェクトの一環として行われるカード。この企画のスタート時からイリシャティは、同じく西アジア・ウルムチ出身のスーパーミドル級、ズリピケア・マイマイティアリとともに期待される存在だった。日本タイトルマッチ3連敗の丸木には、厳しい戦いになるかもしれない。

文◎宮崎正博
写真◎ゲッティイメージズ

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