新型コロナウイルスの影響により、“時”が止まっている状態の日本ボクシング界。先行きは不透明で、不安要素を考えれば考えるほど、マイナス方向に走ってしまう。しかし、「決して諦めてはいけない」。それは、われわれがボクシングという過酷な戦いを見て常に学び、勇気づけられていることなのだから──。この嵐が過ぎ去った後、国内ボクサーたちは必ずやふたたび躍動してくれるはず。その瞬間を信じて、心待ちにして。ここに取り上げる選手たちはほんの一部。近い将来の“希望”をピックアップ!

※『ボクシング・マガジン2020年3月号』掲載記事に、加筆・修正を加えたものです

上写真=海外ファイトを熱望する三冠王・吉野(左)と、すでにラスベガスに見参した平岡

文=本間 暁 写真=BBM
text by Akira Homma photos by BBM

日本王者vs.最強挑戦者。“その先”

潜在能力は尚弥以上!? 井上尚弥も認める浩樹 写真_山口裕朗

 ウェルター級、ライト級の2試合のみ開催で中断となっている『第41回チャンピオンカーニバル』。日本王者vs.最強挑戦者による、国内リングを彩る1大イベントの“再開後”を見てみよう。
 日本チャンピオンに君臨する12人 (ミニマム級、ライトフライ級は空位)の抱えている“事情”は多様だ。まずは着実に地固めをしたい“青い”チャンピオンもいれば、いますぐにでも、もっと広い世界へ飛び出していってほしい王者まで──。
 後者の筆頭は、東洋太平洋&WBOアジアパシフィック王座も加えた3冠王、2月13日に5度目の防衛を果たしたライト級王者吉野修一郎(三迫/ 28歳/ 12勝10KO)だろう。
 富岡樹(REBOOT.IBA / 23歳/7勝2KO3敗1分)にプロ初のダウンを奪われ、この、近年稀にみるアウトボクサーに苦しめられたものの、底力の深さで逆転TKOしてみせた。昨年夏にはロサンゼルス合宿にも赴き、「海外でも戦いたい」という想いも強まっている。階級的にも、国内で戦っていっては、チャンスはそうそう巡ってこない。そういう機会をぜひ手に入れてほしい選手だ。
 日本フェザー級チャンピオン佐川遼(三迫/ 26歳/9勝4KO1敗)と丸田陽七太(森岡/23歳/ 10勝8KO1敗1分)の一戦(※4月9日開催予定から延期)は、両者にとって、今後を占う上で大きな試合となる。昨年、敵地フィリピンで堂々の勝利を挙げた佐川は、精神的にも骨太さを増した。かねてから“大器”と評判を集める丸田も、佐川を攻略して初のメジャータイトルを獲得すれば、さらにインパクトを増す。勝ったほうがグンと“第一人者”の位置に近づけるはずだ。
 スーパーライト級の井上浩樹(大橋/ 27歳/ 15勝12KO)は、WBOアジアパシフィック王座も獲得。まずは打たせないことを主眼に置き、勝ち味が遅れる傾向があるが、フィジカルの強い今度のチャレンジャー、永田大士(三迫/ 30歳/ 14勝5KO2敗1分)に快勝するようなことがあれば、世界路線を歩む可能性大。井上尚弥(大橋)同様、トップランク・プロモーションと契約し、ラスベガスで戦う同僚平岡アンディ(大橋/ 23歳/ 15勝10KO)のように、目に留まる“強度”がほしい。「井上尚弥の従弟」という話題性だけでは、本物志向の本場は渡れない。けれども、潜在能力ではそんな肩書きを凌駕する凄みがある。
 日本フライ級チャンピオン、ユーリ阿久井政悟(倉敷守安/ 24歳/ 14勝10KO2敗1分)も、爆発力だけなら世界レベルにある。ただし、現在のところ“序盤限定”だけに、藤北誠也(三迫/ 32歳/ 13勝6KO4敗)相手の初防衛戦が楽しみ。意外なしぶとさを持つ藤北に粘られ、長時間を労する可能性も大。そこからの展開力を見たい。
 圧巻の倒しっぷりで日本王座初挑戦を手に入れたライトフライ級1位の矢吹正道(緑/ 27歳/10勝10KO3敗)は、王者・高橋悠斗の返上→引退により、2位佐藤剛(角海老宝石/23歳/10勝5KO1敗1分)との王座決定戦に臨む。アウトボクシングからのカウンターが冴える矢吹と、「猪突猛進」の文字がふさわしい無類のブルファイター佐藤は、あまりに好対照だが、矢吹がキャリアどおりに鮮やかに倒すようなことがあれば、一気に「世界を狙える逸材」のメンバー入りを果たす。

速攻速決のハードパンチャー阿久井

OPBF、WBO・AP王者の中から初挑戦組を抽出

“スラッガー”のニックネームにふさわしい活躍の栗原(左)。名匠サラス氏の下で英才教育を受ける森

 OPBF東洋太平洋バンタム級王者栗原慶太(一力/ 27歳/ 15勝13KO5敗)の“スラッガー”ぶりも、さらに上を感じさせる凄みを備えてきた。必殺の右ストレートに加え、沼田康司トレーナー直伝の左フックもKOパンチに追加。攻撃のバリエーションは徐々に増えている。
 WBOアジアパシフィック・スーパーフェザー級王者ジョー・ノイナイ(フィリピン)に思わぬ苦杯を喫したOPBFフェザー級王者清水聡(大橋/ 34歳/8勝8KO1敗)は、心身のコンディション立て直しに時間を要するか。ロンドン五輪バンタム級銅メダリストからプロデビューし、順風満帆に来ていたが、この“期間”を有効に活用する経験は十分で、そこに期待したいもの。
 OPBFスーパーフェザー級王者三代大訓(ワタナベ/ 25歳/9勝3KO1分)は、井岡一翔(Reason大貴)に似た絶妙なポジショニングが鮮やかだが、そろそろ印象に残る強さをアピールしたい。
 ロサンゼルス、ラスベガスと足繁く海外キャンプに出かけ、イスマエル・サラス・トレーナーの英才教育も施されているWBOアジアパシフィック・フェザー級王者森武蔵(薬師寺/ 20歳/ 11勝6KO)も「今年は世界を狙う」と息巻くひとり。
 敵地・韓国で親子二代の悲願だった勝利を達成したOPBFスーパーライト級王者内藤律樹(E&Jカシアス/ 28歳/ 22勝7KO2敗)は、この勝利でひと皮剥けただろうか。精神的な強さを増せば、ボクサー型からボクサーパンチャーへと飛翔したかつての長谷川穂積のような変貌を遂げる可能性もあると思う。

ジムや競技の枠を超えて集まり、切磋琢磨する野木丈司氏の階段トレーニング。常にトップ争いをする長濱(右端)は、ここでメンタルを鍛え上げられた

 WBOアジアパシフィック王座を返上し、OPBF王座決定戦に臨む予定のライトフライ級冨田大樹(ミツキ/ 22歳/ 14勝5KO1敗)は好素材。前OPBFミニマム級王者小浦翼(E&Jカシアス/ 25歳/ 14勝9KO1敗)のキャリアには屈したが、王座を争う超ベテラン堀川謙一(三迫/40歳/ 40勝13KO16敗1分)を攻略するようなことがあれば、自信は倍増するだろう。
“大物”クドゥラ金子(本多/ 22歳/ 11勝8KO1敗)の強打を、技術と経験、そしてタフな精神力で攻略し、OPBFウェルター級王座を獲得した長濱陸(角海老宝石/ 28歳/ 12勝4KO2敗1分)には俄然注目したい。頭脳的パンチャーのクドゥラと、コンビネーションブローが冴える長濱。前評判ではクドゥラが圧倒的に支持を得ていたが、流麗な連打に加え、若きパンチャーを苛立たせる心理戦を操った様は見事だった。これに、試合を決定づける力が備われば、可能性は大きく広がっていく。しかし、もっとも評価したいのは、誰もが避けるクドゥラに、自ら名乗り上げた心意気だ。
 地方の小さなジムから、ようやく全国的に名を上げたWBOアジアパシフィック・ウェルター級新王者別府優樹(久留米櫛間&別府優樹/ 29歳/ 21勝20KO1敗1分)は、ハードパンチを証明した反面、防御に関してはまだ“勘”に頼っているところを露呈した。イメージに反して、ボディワーク、フットワークを器用につかいこなせるのだから、感覚に頼らず、確信をもって確実に外す技術も身に着けたい。

“九州のタイソン”の異名がある別府だが、実は柔軟な技術の持ち主

フレッシュに躍動するユース王者

画像: 井上尚弥のスパーリングパートナーも務め、頭角を現す石井(左)。かつてのスターボクサー渡辺雄二の甥でもある高山

井上尚弥のスパーリングパートナーも務め、頭角を現す石井(左)。かつてのスターボクサー渡辺雄二の甥でもある高山

「王座、ベルトの粗製乱造だ」と、当初は懐疑的に見られていた日本ユース王座だが、いまや「準・日本タイトルマッチ」という肩書以上に、熱戦、好ファイトが次々に生み出され、「日本タイトルマッチよりおもしろい」という声もあちらこちらで聞かれるようになった。直近でいくと、バンタム級王座を争った石井渡士也(REBOOT.IBA / 19歳/3勝2KO)と2018年東日本新人王石川春樹(RK蒲田/ 20歳/8勝6KO2敗)の一戦。これは、技術に優る石井が、打ち気に逸って石川得意の距離に入り込んでしまった結果、“おもしろい試合”になってしまった面もあるのだが、わずか3戦のキャリアで、大ピンチを跳ねのける経験を得たことは、ことさら大きい。井上尚弥がノニト・ドネア(フィリピン)戦で得た経験値に近いと言ったら言い過ぎか。しかも、その井上尚弥のスパーリングパートナーとして重宝されてもいる。若い石井にとっては、何物にも代えがたい経験だ。
 谷口将隆(ワタナベ/ 26歳/ 12勝7KO3敗)との『最強挑戦者決定戦』には敗れたものの、骨盤を利かせて放つパワーパンチが魅力のユース・ミニマム級王者石澤開(M.T / 23歳/6勝6KO1敗)、2017年全日本新人王からユース・フライ級王者になった白石聖(井岡/ 23歳/ 10勝5KO1分)、2018年全日本新人王の技巧派サウスポー大橋哲郎(真正/ 21歳/7勝2KO1敗1分)を攻略し、ユース・スーパーフライ級王座を獲得した高山涼深(ワタナベ/ 23歳/3勝3KO)、野村健太(仲里/ 23歳/7勝3KO2敗)とのホープ対決に勝ってユース・スーパーバンタム級王者となった2017年全日本新人王の下町俊貴(グリーンツダ/ 23歳/ 11勝7KO1敗2分)、2度目のトライでライト級のユース王座をゲットした湯場海樹(ワタナベ/ 21歳/7勝5KO2分)……。
 ユース・チャンピオンベルトもなかなか立派なものだが、彼らにはそれに満足せずに、まずはその上の日本チャンピオンベルトを目指してほしい。

良血備える“ジュニア”たち

画像: 偉大な世界チャンピオンを父に持つ辰吉(左)と畑中

偉大な世界チャンピオンを父に持つ辰吉(左)と畑中

 畑中清詞(WBC世界スーパーバンタム級チャンピオン)、辰吉丈一郎(WBC世界バンタム級チャンピオン)、山口圭司(WBA世界ライトフライ級チャンピオン)、徳島尚(日本&OPBFミニマム級チャンピオン)、仲里繁(OPBFスーパーバンタム級チャンピオン)──。かつて日本のリングを輝かせてくれた彼らのDNAは、着実にその息子たちに受け継がれている。
 前述の湯場は、日本王座5階級制覇を遂げた忠志氏の息子。海外でもジュニアたちが大いに暴れまくっているが、国内でも“純血”たちがリングを熱くし始めた。日本ランカーを堂々破ってランク上位に浮き上がった辰吉寿以輝(大阪帝拳/ 23歳/ 13勝9KO)、WBCユース・フライ級王座を持つ畑中建人(畑中/ 21歳/ 11勝9KO)、拳の不安さえ払拭できれば良質なボクシングを展開する仲里周磨(ナカザト/ 23歳/10勝7KO1敗2分)。湯場は、父が不得手だったリードブローの使い方が上手かったが、最近では父似の左ストレートを放つようになった。
 荒々しいファイトを脱却しつつある辰吉は、父・丈一郎氏のような左の使い方を習得中。苦闘を乗り越えるハートの強さを証明した畑中は、高校の恩師・石原英康氏が専属トレーナーとなり、ハードパンチを身に着けつつある。すでに海外ファイトも経験した徳島空吾(ワタナベ/ 20歳/4勝4KO1分)、元WBA世界ライトフライ級王者の父・圭司氏とはまったくかけ離れた正統派スタイルの山口臣馬(白井・具志堅スポーツ/ 19歳/1勝1KO)は、どんどん経験を積んでいく時期。試合数をこなしていくのが重要だ。

肩を並べる帝拳の日本ランカー

飄々とした性格でもある元国体王者の正木。それもまた武器のひとつ

 末吉大(29歳/ 19勝11KO2敗1分)、永野祐樹(30歳/ 17勝13KO3敗)の陥落で、日本王者が不在となった帝拳だが、梶颯(スーパーフライ級/ 22歳/ 14勝9KO)、大嶋剣心(バンタム級/ 24歳/7勝3KO1敗1分)、正木脩也(スーパーフェザー級/ 26歳/ 14勝6KO1敗)、豊嶋亮太(ウェルター級/ 24歳/ 12勝8KO2敗1分)ら、日本上位ランカーによる、“日本王座争奪戦”が繰り広げられる。ジムメートの結束も大事だが、ライバル心剥き出しの、ジム内での切磋琢磨はもっと重要なのだ。そして、さらに次世代の中野幹士(24歳/4勝4KO)、岩田翔吉(24歳/4勝3KO)、李健太(24歳/2勝1KO1分)、福井勝也(23歳/2勝2KO)ら元トップアマが、先輩たちの姿を見て、引っ張られ、成長していく。
 村田諒太、ホルヘ・リナレス、尾川堅一の3トップに続くのは誰か。そしてその後に続く世代も控えている。

苦いからこそ良薬となる

亀田京之介(右)を破って全日本新人王となった前田は、日本拳法のスーパースターだった

 1月下旬に開催された、山中慎介『GOD'S LEFTバンタム級トーナメント決勝』では自分のボクシングをさせてもらえなかったが、パンチングパワーがやはり魅力の中嶋一輝(大橋/ 26歳/8勝7KO1分)。その中嶋を引き出しの多さでは上回った堤聖也(角海老宝石/24歳/5勝4KO1分)。ふたりにとって、いまは苦い戦いだったかもしれないが、将来的に貴重な経験になることは間違いない。また、昨年度全日本新人王決勝で、もっとも注目されたフェザー級で優勝を果たした前田稔輝(グリーンツダ/ 23歳/4勝2KO)も、苦闘経験、さらには大きな重圧の中で戦ったことが血肉となるはずだ。
 彼らが味わった類の苦しみは、若ければ若いほど良薬となる。だからこそ、ボクシング再開後の彼らの飛躍は大いに期待できると思うのだ。

おすすめ記事

ボクシング・マガジン 2020年5月号


This article is a sponsored article by
''.