12月31日に始まる第99回全国高校サッカー選手権大会。新潟県代表として出場するのが、前回大会で県勢最高のベスト4入りを果たした帝京長岡高校だ。2020シーズンのJリーグには3選手を送り込んでいる。古沢徹監督にゲームモデルについての考え方とゲームモデルの作成方法を聞いた。
出典:『サッカークリニック』2020年10月号
「目指すスタイル」が明確になる――ゲームモデルの定義を教えてください。古沢 ゲームモデルを言葉として細かく定義したことはありません。ただし、試合をする以上は勝つことや選手がうまくなることが目的になります。そのために、全員が同じ方針のもとでプレーできる「目指すスタイル」をゲームモデルとして選手に伝えています。守備で求めるのは、1試合を通じての前線からのハイプレッシャーです。相手にボールを持たれる時間を少なくして、マイボールの時間をできるだけ続けるのがチームとしての狙いです。一方、攻撃で求めるのは、常にゴールを目指す意識です。試合状況を見極めながら中央とサイドをうまく使い分け、意図を持って縦方向へのパスを積極的に入れてほしいと指示しています。
普段のトレーニングからゲームモデルに沿ったプレーを求めていますが、最終的には試合で表現できる選手でなければいけません。そのために必要な資質として、パスを受ける際の懐の深さを持つ選手(パスに対して、近づいて素早く止めることも、ボールを流して深く止めることも判断できる選手)やゲームを通してボールやプレーに関与し続ける選手になれるように指導しています。
――目指すスタイルを設定していても、相手との力関係で表現できない試合もあるかと思います。古沢 基本的には相手の特徴に合わせるのではなく、普段からのトレーニングの積み重ねによって、力関係で相手を上回りたいですし、ゲームモデル通りの試合を展開したいと考えています。ただし、全国大会になると格上との対戦があるので、思い通りにいかない試合が増えます。その際は、相手チームと自分たちの「強み(の噛み合わせ)」といった簡単なアウトラインだけを伝えて、あとは選手自らが試合の中で修正してほしいと考えています。私がベンチで感じる試合の受け取り方と選手がピッチの上で感じる試合の受け取り方には違いがあるので、あれをしなさい、これをしなさいと選手を型にはめるような指示はしません。相手のシステムを見て選手が自分たちでポジションバランスを変えても否定はしません。
2019年度の全国高校サッカー選手権大会(以下、選手権)の準決勝、青森山田高校戦の話ですが、事前の試合映像を分析し、相手の中央の守備が堅いと判断していました。全員でハードワークをして中央を固めてくるため、簡単には崩せません。しかし、私たちのゲームモデルである積極的な縦パスを狙うために、少しの隙間をより鋭く突破していくこと、そして中央をさらに固められたならサイドを効果的に使うことを伝えました。また、前線からのアグレッシブなプレスが相手の特長ですが、ボール保持側が自陣で1人ないし2人をはがすと、ブロックを固めるために守備ラインを下げるプレーがありました。そして、ロングボールを蹴ってしまうとフィジカル的に優勢な相手にセカンドボールを拾われて苦しくなるため、怖がらずにボールを動かしたいと考えました。選手には、「自分たちがボールを持つ時間を増やすには、空中戦ではなく、地上戦で挑もう」と伝えました。このように相手の良さを消すための研究ではなく、自分たちの良さを出すための研究にしようと心掛けています。究極的には相手に合わせるというよりは、相手が合わせてくるくらいに自分たちの良さを磨こうと考えています。
――地上戦を意識させても、青森山田高校が見せるような激しいプレッシングを受けると、苦しまぎれにロングボールを選択してしまいがちです。古沢 ショートパスをつないでプレッシングをかわすのが理想ですが、ロングボールを蹴っても否定はしません。相手のプレッシャーを利用して前に進んでいく中でボールホルダーの選手がプレッシャーを感じてしまっても、問題ないと伝えました。結果的にロングボールを蹴ってしまっても「長いパス」だと捉えて、前線の選手がボールをうまく引き出せば良いのです。
19年度のチームは、前線でボールを引き出すための動き出しができる晴山岬(FC町田ゼルビア)がいたのが好都合でした。ボールホルダーから離れた位置にいる彼が動き出すと、相手が警戒するので、逆に近くにいる選手へのパスコースが空いたからです。選手には「近くを使うから遠くが活きる、遠くを使うから近くが活きる」といった言葉で縦パスのイメージを共有していました。
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サッカークリニック 10月号
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