カナダのプロフットボールCFLは8月17日、2020年シーズンの全面的な中止を発表した。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)拡大の影響によるもの。 CFLは今年、シーズンを1/3に短縮し、キャンプや公式戦をすべて一ヵ所に隔離された状況で行う「バブル方式」での開催を計画していたが、前日に、カナダ連邦政府に申し入れていた公的融資を却下されていた。CFLは今季から、日本や欧州の選手を受け入れることを決めており、日本からはXリーグ、オービックのRB李卓、IBMのWR近江克仁らが、挑戦する予定だった。【小座野容斉】
昨年、CFLと、日本を含む11カ国で締結したパートナーシップに基づくグローバル選手枠は、今季から本格的に導入される予定だった。2月に行われた、日本の地域コンバインで優秀な成績を残したRB李卓(オービックシーガルズ)の元には、4球団から照会があったという。
CFLグローバル選手枠には、今春の段階で、日本からは李卓のほか、WR近江克仁(IBMビッグブルー)、OL町野友哉、DL高谷亮太、LB山岸明生(いずれも富士通フロンティアーズ)、K山崎丈路(オービックシーガルズ)の6選手が挑戦する予定だった。
RB李は「残念ですが、立ち止まることなく、前を向く、前へ進み続けます。CFLでの活躍を期待して応援してくださっていた皆様ありがとうございました。これからも僕のNFL挑戦は続きます。今後とも応援宜しくお願いします!」と投稿した。
K山崎は「正直残念な気持ちはありますが、キックを極めるという目標に日々向かっていくだけだと思います。やることは変わらないしチャンスは掴みに行くもの。」と投稿した。
ランディー・アンブロージーコミッショナーは「本日、(来季以降の)将来に集中することがCFLの長期的な利益のために最善であると、決定した」と述べた。CFLが現在の組織になって以降、シーズン中止は初めて。1919年以来100年以上の歴史を持ち、第2次世界大戦中でも行われてきた王座決定戦「グレイカップ」も、初の中止となった。
CFLは、今季の中止決定の最大の理由を「スタンドのファンを失ったこと」だという。NFLやNBAなど、米国のメジャープロスポーツとは異なり、テレビの放映料や、インターネットによる動画中継視聴料は大きな収益にはならず、観客が実際にスタジアムで観戦し、飲食なども含め、そこで使う金額が収益の最も大きな部分だったという。
そのために、無観客試合やシーズンの短縮が予想された4月段階から、リーグは公的な財政援助を求めて交渉してきた。当初は1億5000万ドル(カナダドル、120億円)という融資申請額を、徐々にコンパクトにし、今月に入ってからは、融資要請額を3000万ドル(24億円)に絞って連邦政府と交渉していたが、却下されていた。
通信社のカナディアン・プレスなどによると、政府はCFLの収益性はもっと高いと判断していたようだ。そのために、無利子の政府資金ではなく、カナダ産業開発銀行による有利子の商業的な融資をあっせんしたが、アンブロージーコミッショナーは、利息や手数料の面で、今後のリーグの発展の妨げになると判断し、拒絶したという。
一方で、CFLはCFLPA(選手会=労働組合)と、今季を実施するにあたって必要な新しいCBA(労使協定)の締結に向けて集中的に協議。大枠でほぼ合意に達していた。NBAやNHLのような「一括バブル開催」を計画し、カナダ中部のマニトバ州ウィニペグで、選手やコーチ・スタッフ、報道関係者まで、完全隔離した状態にして、シーズンを開催することを予定していた。
8月14日には、CFLはカナダ公衆衛生局と電話会議を行い、「バブル開催」案の了承を得た。公衆衛生局の担当者は「単一の都市で開催され、ファンや地域住民との接触もない。公衆衛生の観点から、純粋な技術的な評価として、提案に非常に満足している」と評価していた。
カナダのトロント・サン紙によれば、先週末、選手会は、選手に向け「We are making progress.(我々は前進している)」とメッセージを送ったという。カナダ政府の態度は未定だったにもかかわらず、リーグと選手会は早ければこの数日にも融資が決まり、新しい労使協定を締結、そしてシーズン実施の決定と考えていたようだ。結果的に見れば、楽観的に過ぎた。
CFLの今季に関して、一連のニュースをフォローしていて感じたのは、カナダ政府の、あるいは政治家の極めて冷静な対応だ。
「2019年のシーズンにも大きな損失額を出しており、リーグの収益性は残念ながら高くない。スポーツの持つ公共性のために、赤字でもチームを維持しているオーナーが多い」と言う趣旨の主張を続けたCFLに対して、複数の国会議員が「CFLのチームが儲かっていないというのは疑わしい」「公的な資金を注入するのは間違いだ」という意見を示していた。
スポーツに対して冷淡なようであるが、有限な国民の税金を、より有意義に使うという冷静な視点が、カナダにはあったようだ。
今季が消滅して、日本からの選手の挑戦が、いったんリセットになってしまったが、アンブロージー氏は声明の中で「より大きく、より強く、よりグローバルなCFLというビジョンを追求し続けることは間違いない」と語っており、CFLのグローバル路線を継続していくことを明言している。
希望は続いている。
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