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2021-03-13

【プロレス】上野勇希の情熱と冷静、決戦前に“秋山イズム”覆すABC理論

ユニバーサル王者の上野

25歳のDDTユニバーサル王者・上野勇希が3月14日、東京・後楽園ホールのメインイベントで元全日本プロレスでフリーとしてDDT参戦中の岡田佑介を相手に同王座4度目の防衛戦をおこなう。

 ユニバーサル王座は昨年2月に“世界”を意識したベルトとして誕生したと目されていたが、世の中はコロナ禍に見舞われ王座の意味合いもまた、変質を余儀なくされた。上野は第4代王者で、そんなベルトの現状に「“世界”の解釈を変えたい」と防衛ロードを歩んでいる。坂口征夫を相手に2・14カルッツかわさきでベルトを守ると、次期挑戦者に関して「いまから“すごくなる人”」を募集。漠然としているが、つまりは野心あるチャレンジャーを募ったところ、名乗り上げたのが岡田だった。

 上野と岡田は1月に大阪で一騎打ちを闘っているが、その時は上野の勝ち。ともにキャリア5年未満で、若き王者と挑戦者によるタイトルマッチが3・14後楽園のメインイベントになった。サイバーエージェント傘下のサイバーファイトグループではNOAHのGHCヘビー級王者が武藤敬司、DDTのKO―D無差別級王者が秋山準と、プロレス界のビッグネームが頂点の王者に君臨している。そのなかで新世代がメインを張る大会。上野は「オトナたちに負けたくない」との意識を持ちながら、しっかり現状を見据え、今回のタイトルマッチを“きっかけ”にしたいと考えているのだ。

「上野vs岡田の試合で世間や、もっといろんな人に知ってもらおうというのは、ぶっちゃけおこがましい。僕らはまだ広げられない。この試合を経てなのか、この先なのか、それはわからないですけど“すごくなりたい”というのが大きなところ。岡田さんは全日本で積み上げたものがありますけど、全日本ファンの方で上野勇希を知らない人は多いと思う。でも今回で知ることもあるだろうし、そういう広がり方はあると思うけど、たとえばメディアに出た時も“上野と岡田、どんな2人なんだろう?”となる。それを自覚しているからこそ“すごくなるんだ”…そういう2人が闘うことで、一発目である今回で目についてほしいなというのはあります」

 前回の防衛戦はすでにKO―D無差別を巻いた経験を持つ坂口との闘いで、それを上野は乗り越えた。王者ながら挑戦者の意識で向かったタイトルマッチでもあったが、今回は違う。「追いつけ追い越せではなく、どっちが(ノシ上がるのが)速いんだという闘い」と明確に位置付けている。

 全日本出身のプライドも持つ岡田は、ガツガツしたファイトスタイルが信条。そのなかで上野の“まだ見ぬ一面”を引き出そうともしているが、そこに関しても王者はキッパリとこう言い返す。

「僕は適度に怒るし、わりとイラっとするタイプ。人のこと気にしてんじゃねえよ。僕は全力でぶつかるので、ポンと(岡田が)当たり負けるようだったら力を緩めないし、全速力で走っていく。それに追いつけないなら、そのまま僕は走り去っていく。僕のことを引っ張り上げてやろうとか、お客さんに『新しい上野を見せてあげよう』みたいのは、響かないです」

 一見クールに見えるベビーフェースながら、心の奥底に眠る負けず嫌い。上野の試合を見たならば、きっとそういう印象を持つだろう。また、岡田は秋山を師匠に持ちDDTのリングでも“秋山イズム”という言葉を持ち出した。もともと秋山がDDTに上がるきっかけとなったのは、高木三四郎社長が秋山のツイッターを見て“プロレスの1から10”を団体に注入してもらいたいと思ったのが発端。秋山は1から5を基礎、6から10をいわゆる試合で見せる応用の部分と定義しているが、そこに関しても上野は独自の視点を披露した。

「秋山さんはプロレスに1から10あるとして、試合で見せる部分が6から10。1から5の部分が(DDTには)ないと。僕はもちろん、1から5がないと言うなら1から5を教えてもらいたいです。それを取り入れるかどうかは聞いてみないとわからないし、知らないのが一番ダメだと思う。ただ、それは秋山さんの道で、僕がDDTを好きになったのは1から10までのプロレスだけじゃなく、10を超えた15までのぶっ飛んだところや面白い部分。むしろ(10から先が)11から15じゃなくABCDになるぐらい、想像もできないプロレスをするのがDDT」

 秋山の言う1から5を学びたい姿勢も持っているため「秋山イズムへの対抗心はない」という上野。上野のプロレスに取り入れれば間違いなくプラスになるだろうから、そこも王者はわかっている。岡田が秋山から学んだ1から5、上野が見せつけたい数字ですらないABC。双方の育った環境も対峙するユニバーサル戦ながら、最終的に“いまからすごくなる”を体現するという点は、王者も挑戦者も同じ方向を向いているはずだ。プロレスファンは、若き上野と岡田のタイトルマッチをマークしておいてほしい。

<週刊プロレス・奈良知之>

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